※ラウロ&リーヤ祭り。


01:「何年親友やってると思ってるの」

自覚があったわけではなかった。
だからいきなり部屋に入られて狼狽した。
「リーヤ?」
思わず問い返すと、日頃陽気な彼は仏頂面でラウロの背後に回った。
「どうした、明日は重要な一戦だから休んで……」
頬に触れた自分と違う色の髪。
首に回された二本の腕。
驚いて思わず書類を机の上に落とす。
「――つれーの、わかってる、から」
そう言われて初めて。
怖い、とか。辛い、とか。そんな感情を持っている自分に気がついた。
「……よく、わかったな」
呟いた言葉に、にへらと笑ったのは見なくてもわかる。
「何年親友やってると思ってんだよ」





02:「これ以上信用できる人なんていない」

本当にそれでいいのか?
意外そうな顔をしたアレストに、何の事だと涼しく返す。
「だってお前、軍師なんだぞ? わざわざ前線に出なくとも」
「大丈夫だ」
「それに――お前の入る隊はリアトの隊だ。軍主と軍師が、同じ、隊だと」
「どうせだめになる時はだめになる」
そうだろう? と返されてアレストは二の句がない。
「問題ない、もう一人の副将はリーヤだからな」
「……ああ、あいつか、それは……大丈夫、だろうけど。今は平気なのか」
エルフの里から戻ってきて、少し様子のおかしい彼を思ってアレストが言うと、ラウロはきれいに微笑んだ。
「あれ以上信用できる人なんていない」
その言葉は磐石の信頼の元に。





03:「そんな奴だとは思わなかった」

声を荒げた、珍しいことではないけれど。
「どーしてだよ! 何十、何百って家族があるんだぞ! 村が、村一つの問題なんだぞ!」
「お前と俺が首を突っ込むことじゃないだろう。ここはハルモニアだ、ササライに任せて」
「ササライはこんな辺境の村のことなんかわかんねーよ!」
怒鳴ってリーヤは自分を留めていたラウロの手を思い切り払った。
「お前が、お前がそんな奴だとは思わなかった!」
投げつけてリーヤは走っていく。
それを言われた瞬間のラウロの顔なんか見たくなかった。
辛そうな顔をしても悲しそうな顔をしても、動じていなくても、どれも嫌だった。





04:「・・・言わなくてもわかるだろ?」

呼びつけられてリーヤはラウロの部屋を訪れる。
ノックもなしに扉を開くと、こっちこいと手招きされる。
「どーしたんだよ?」
「そこ座れ」
示されたいすに腰掛けて、首をかしげているとラウロは立ち上がって近づいてくる。
ゆっくりと視線を合わすように腰をかがめて、リーヤの頬に触れる。
反対側の手は左手に重ねられて。
「な……なに?」
近い親友の顔に驚いていると、彼はにこりと微笑んだ。
「……言わなくてもわかるだろう?」
ぞっとするほど綺麗な声音に、察してしまったリーヤは固まる。
「い……イヤダ」
「拒否権、なし」
悠然と微笑むラウロの蒼い目の中に、自分の未来を悟ってしまった。





05:「お前って奴は本当に最高だな!」

「ラーウロぉー」
「何情けない声を出してるんだ」
呆れた口調に迎えられて、ふらふらと部屋に入るとベッドの上に倒れこむ。
「はらーへったー」
「食べ損ねたのか」
「へったぁーあー」
暴れる元気もないリーヤにため息をついて、ラウロは机の中から何かを取り出すと、投げてきた。
「やる」
「チョコだ!!」
受けとったリーヤは喜色を浮かべて、ばりばりと包装紙をはぐとばくりと板チョコに噛み付いた。
「ラウロっ。お前ホントに最高!」
「……ああ、そうですか」





06:「こんな情けない顔、お前の前じゃなきゃ見せないよ」

静かな部屋で、リーヤは無言で一枚の紙を火にくべた。
炎はたちまちのうちに薄いそれを飲み込んで、すぐに一つまみの灰に変えてしまう。
たった一枚のそれが、示していたこと。
燃やしてしまえば記録は消えるけれど、現実はどこにも行かなくて。
「……なんで燃やした」
問われてリーヤは振り返る。
「別にー……他意はねーけど、さ」
燃やすだけで忘れられるなら、消えるだけで今が変わるのならよかったのだけど。
「ラウロ……あんま、背負うなよ」
ありきたりな慰めの言葉を呟いて、リーヤは膝で歩いてラウロの近くに行く。
椅子に深く腰掛けていたラウロの手には、液体の入ったグラスがあって。
「酔ってんの?」
下戸なのに。
赤く染まった頬をぷいとそむけて、ラウロはうつむく。さまざまな感情を浮かべた目が閉じられる。
「んな顔、すんなよ」
たまらず手を伸ばしたリーヤの指をつかんで、目を開いて苦笑した。
「こんな情けない顔、お前の前じゃなきゃ見せない」
つかんだ手に、グラスの残りを押し付けた。





07:「腐れ縁もここまでくると赤い糸かも」

「なー」
「何だ」
相変わらずの友人を斜めに見ながら、ラウロは宿題の残りを済ませていた。
寝台の上に乗ってなにやら読んでいたリーヤがぐいと身を乗り出してくる。
「よく考えたらさー、俺たちもー七年も一緒じゃね?」
「……ああ、そういえばそうだな」
初めて出会った時、ラウロは十三だったから今年で二十歳になる。
思えば長い年月だ。
「こーゆーのって、腐れ縁って言うんだよなー?」
「かもな」
適当にあしらっておきながら、最後に日付を確認すると自分の名前とタイトルを確認し、そろえる。
「腐れ縁もここまでくると赤い糸かもなー」
「そうだなわが友。祝いの祝杯の代わりにそなたの甘い声を」
さらりと返したラウロに、リーヤはぷうと頬を膨らませる。
「もー読んだのかよ!」
「今レポートが終わった」
「俺まだ手もつけてねーのに!?」
笑ってラウロは最後に穴に紐を通して、提出物を綴じた。





08:「親友だろうと手加減しない」

「結局こうなるんですね……」
やれやれと溜息をついたササライは中央に立つ。
「それでは今より、魔法実習講座試験、決勝戦を始めます。両者、用意はいいですね?」
「ばっちりだぜ!」
「問題ない」
構えたリーヤとラウロをみて、ササライは自分の右手を上げる。
「守りの天蓋!」
きちんとバリアを張っておかないと、この二人の魔法戦は訓練所崩壊必須だ。
「では、はじめ!」
ササライの声にリーヤはばっと右手を構えた。
「今日こそは、勝つ!」
前回負けたのがよほど悔しかったのか、その目に闘志を燃やす親友にくすりと笑って、ラウロは両手に神経を集中した。
「親友だろうと、手加減しない」
その言葉と同時に、詠唱を終えた彼の両の手が輝いた。





09:「もう慣れた」

駆け込んできたリーヤに、ラウロは平然と机横の書類を示すように視線をわずかに動かす。
はぁ〜という声と共にその場に座り込んだリーヤは、またかよと小声で呟いた。
「ラウロが……ラウロが倒れたってきーたから、急いで遠征先から帰ってきたのにー……」
「倒れたのは事実だからな。それも半日前の話だが。じゃ、よろしく」
軽い調子で言われてリーヤははいはーいとぼやきながら椅子を引いて目を通し始める。
よほど急いで戻ってきたのか、服は泥で汚れて、息も上がっている。
それでもマジメに目を通して、所々にサインをして残りをラウロにまわす。
「……リーヤ、悪いな。ありがとう」
ぼそりと呟かれた労いの言葉に、リーヤは目を丸くしてから顔をくしゃっとして笑った。
「いーよ、もー慣れた」
お前の方がぜってー大変だし、と言って疲れを感じさせぬ顔で、溜まった書類をめくった。





10:「それが親友ってもんだろ」

相変わらずアポなしで押しかけたリーヤに、ラウロは無言で店の奥から出てくると鍵を投げる。
「先行ってろ」
「わかったー、サンキュ」
「あ、リーヤ」
ちょっと待て、と呼び止められてリーヤはなにー?と振り返る。
「買い物して料理作って、あと家の掃除を頼む」
「はあっ!?」
なんで俺が!? と自分を指差し叫んだリーヤに、ラウロは当たり前じゃないかと平然と返した。
「人の仕事中に押しかけ、仕事の手を止めさせて呼び出し、あまつさえ家の鍵まで持っていく」
「だ、だって俺ら親友じゃん……?」
ね? と言うリーヤにそうだと頷いてラウロは堂々と言い放つ。
「だから感謝の印に料理を支度して家を綺麗にしておくのは、当然だ。それが親友ってもんだろ」
自分の言葉を逆に返されて、ぐぅの音も出ないリーヤだった。









 



<シーン説明>
01・・・Lでどっかの戦争前夜。この後リーヤは書類仕事を手伝わされる。
02・・・エルフ防衛戦前。絶対リーヤには言わないラウロ。
03・・・ハルモニア学生時代。リーヤ15〜17。辺境の村で。
04・・・ご自由にご想像ください。オチがほしい人は↓
05・・・ニューリーフ学園時代。リーヤは何かに集中してて食べ損ねることまま有り。
06・・・Lで致命的犠牲を出した時。自棄酒。だけどラウロは理性のせいで酔えない人。
07・・・ハルモニア学生時代。課題図書の引用。シェイクスピア的な話。BL。
08・・・ハルモニア学生時代。この後「雷神」が炸裂。判定結果はラウロの勝ち。
09・・・Lかな。ねぎらうラウロはとても珍しい、と私ですら思う。
10・・・Lの前。リーヤは常にラウロ宅にアポなしで来てます。本編参照。


 



04の真実。
リーヤ「く……くそぅ、すんっげーすんっげー不本意なんだぞ!」
ラウロ「知ってる(にっこり」
リーヤ「イヤなの!」
ラウロ「賭けに勝ったのは俺だ。あれはもう俺の」
リーヤ「うう……だってラウロが俺に弓で勝つなんてー」
ラウロ「さ、とっととつばめの紋章をはずして来い」
リーヤ「ひでー……大体なんでいるんだよ!?」
ラウロ「お前と比べると速度に劣るから」
リーヤ「…………」