「ジングッベール、ジングッベール、すっずっがーなるー♪」
ほかほと暖炉に暖められた室内に一人分の歌声が響く。
調子も音程も完璧なこの時期特有の歌を口ずさみながら、シグールは楽しそうに飾りつけをしていた。
普段ならば面倒だと言って自分ではほとんど動かないシグールにしては珍しい行動だが、年に一度のイベントに気分も浮かれているのかもしれない。

最後の仕上げとばかりにくるくるとモールを巻きつけていると、石段を叩く足音が二つ登ってきた。
ドアが開くと同時に冷気が室内に流れ込む。
「ただいまー。あー外さっみぃ!」
「ただいま」
買い出しに出ていたテッドとクロスの二人は、暖かな部屋の空気に表情を緩ませる。
「おかえりー。外寒い?」
「寒いなんてもんじゃねえよ。雪まで降ってきやがった」
「ルック達大丈夫かなぁ」
「あいつらはルックがテレポートで連れてくるんだから平気だろ」
「それもそっか」
首に巻いていたマフラーを取って、コートの襟元をくつろげる。
やっと落ち着いた、とテッドは室内に視線を向けて。

「シグール、ツリーの飾りつけでき……なにやってんだお前Σ( ̄□ ̄|||)」
「え、ツリーに飾りつけ」
「いや、お前が飾りつけてるそれって」
「木だよ?(゜▽゜)」
「……シグール。それは何の木?」
「ジョウイの木」
「明らかにジョウイだろそれ!? なんだジョウイの木って!?」
「今年はジョウイツリーです」
「いい笑顔で言うことか!?」
「絵でお見せできないのが残念だ☆」
「見せんでいい!」
「ジョウイ生きてる?」
「……イキテルトオモッタラタスケテクレナイカナ」
「シグールお前なに考えてんだよ!?」
「え、ジョウイに緑の塗料塗って髪をワックスで星の形にして茶色のブーツ履かせて飾りつけを」
「それは見ればわかる! ジョウイも抵抗しろ嘆かわしい!」
「フタリキリニナッタトコロデシビレグスリブッカケラレタノニドウテイコウシロッテ!?」
「……クロス」
「麻痺なおしの薬飲んでジョウイ。聞き取りにくいから」
「……どうも」

「シグール、ちゃんとモミの木に飾りつけしろ」
「えー!? こっちのがウケるかと思ったのに。ジョウイの頭の星なんてすっごく苦労したんだよ? 髪の毛まとめて星の形に固定するなんて並大抵の技じゃないんだから!」
「頑張りどころが違う!」
「……なんだかテッドが真面目にシグールに説教してるね珍しい」
「さすがに哀れんでくれたんじゃないかな僕の格好……」
「素っ裸だもんねー……下の星が逆にイヤ」
「せめて……せめて下は履かせてくれって言ったのに……orz」
「この星、本当に髪の毛で固めてるんだ……うわ、かっちかち」

「このあとリーヤも来るんだぞ! 子供の教育に悪いだろうが!!」
「テッドさんツッコミどころはそこデスカ!?(゜□゜)」
「あの年頃の子供の扱いは大変なんだ。あんなもん見せたら健やかな成長が見込めなくなるだろうが」
「もともとしてないよ?」
「……せめて少しでもまっとうに育ってほしいという俺の考えを汲んでくれ」
「……むぅ」
「それになシグール……野郎のあんな姿見ても、なんっにも楽しくねぇだろ?」
「僕は楽しい」
「俺は楽しくない。どうせなら綺麗な姉ちゃんがいい」
「テッド?( ̄▽ ̄#)」
「……今のは失言でしたすみません」

「……あれ、僕の心配は」
「ジョウイ、リーヤが来る前に早く着替えてね。僕もリーヤにその格好を見せるのは嫌だから」
「……はひ……orz」



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「ただいま。迎えに行ってきたよ」
「やっほー!」
「お邪魔します」
「予約してたお店のワインもらってきましたー」
リーヤを迎えに行っていたルックと、ついでに予約してあったクリスマスパーティ用のとっときワインを取りに一緒に行っていたセノが戻ってきた。
その時にはジョウイは体に塗りたくられた塗料も落として普通の服に着替えていたのだが。
「……どしたのその髪型」
「ジョウイおっもしれー!」
「ジョウイ、ええと、似合うね?」
「セノ……フォローになってないフォローありがとう……」
ソファに突っ伏して項垂れているジョウイの頭には、天然の星が燦然と輝いていた。

「取れなかった……何のワックス使ったか知らないけど取れなかったんだ……!!」
どれだけ石鹸で洗っても、星は端ひとつほどけなかった。
……これ、明日以降もそのままだったらどうしようか。

「手伝うことはありますか?」
「じゃあお皿並べるのお願い」
「クロス、僕は?」
「もうすぐ準備終わるから、ササライ迎えに行ってきてくれる?」
「わかった。ほらそこの星。やさぐれてないで働け」
「星って呼ぶな……!」
「リーヤ、ツリーの飾りつけまだ終わってないんだけど、手伝う?」
「やるー!」
たたたたっとシグールに呼ばれて、そちらへ行くと、ばらばらと手に飾りを落とされて「好きなところにつければいいよ」と言われたリーヤは楽しそうに飾りを木につけていく。
「今年はラウロはこなかったんだねぇ」
「ラウロは実家に戻ってるー。今年は年末まであっちにいるって」
「ふーん。リーヤ、さびしい?」
「ラウロがいたらもっと楽しーとは思っけど、ラウロのとーちゃんとかーちゃんだってラウロと一緒にいたいだろうし。俺も皆がいるからいーんだ」
「偉い偉い」
わしわしとリーヤの頭を撫でると、シグールは乗っていた台から降りて、その上にリーヤを立たせる。
「じゃあリーヤに特別にてっぺんの星をつける大役を任せてあげよう」
「やりー!」
こんな事で喜ぶあたりまだまだ子供だよねぇと笑いながら、シグールは最後にまきつけるモールの準備をしだした。




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「お邪魔します」
「いらっしゃいササライ。忙しくなかった?」
「リーヤと過ごせるクリスマスのためなら予定のひとつやいつつ、無視してきます」
「……無視してきたんだ」
「冗談です。そもそもこの時期、クリスマスよりも年の瀬という意味合いのが強いので、クリスマスパーティなんてものはないんです。あるのは決算待ちの書類の山です」
「……ああ、セノとジョウイも頑張ったって言ってたっけ」
「シグールも招待状の断りやらカードの返送やらで忙しそうだったなぁ……そういやいつもは面倒臭そうにやってんのに、今年は妙に張り切って早めに対処してた……」
「……そんなにジョウイツリーやりたかったんだね」
「そうだな……ジョウイにしてみりゃ、頑張った結果がアレかよって心境だろうな」
「……ツリーのままパーティを迎えないで済んだだけよかったんじゃないかな」
「あれは俺達の目に毒だ」
「…………」
「ま、一番大変だったのは今日のことを嗅ぎつけたどこかの上司を振り切ることでしたけどね(^▽^)」
「ヒクサク……俺はお前がどんどんわからない奴になっていくよ……」
「ササライも随分と僕らに毒されてきたなぁって思うよ……」

「それにしてもジョウイ、随分と個性的な髪型ですけど今日のために?」
「……ササライ、それは冗談なのかい? 本気なのかい?」
「似合っていてとてもいいと思います」
「煤i゚◇゚;ノ)ノ」
「いつまでもくっちゃべってないで座ってよ。お腹すいた」
「ああ、ごめんごめん」


「それでは」
「飾りつけも無事に終わったし」
「料理もできたし」
「ワインも届いたし」
「今年もクリスマスを無事に迎えられたってことで」
「かんぱーい!!」








***
というわけでクリスマス2010。
書きたかったのはジョウイツリーだったので、序盤で満足しました。
おそらく絵にすると笑いを通り越して引くんじゃないかと思いますが、でもやっぱり笑うんだと思います。

久しぶりにフリーSSで。
誰もいらないだろうと思ってずっとやっていませんでしたが久しぶりに。
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