幻水好きさんに108のお題II。

基本スタイルは今までの作品からの派生。
一部については作品として作品部屋へと収納される可能性もあり。
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12. 愛しい人(II〜III時代「優しき思い」から派生)

一緒にテレポートで飛んでいかないかという誘いを断って、シエラはしばしその場に佇む。
柔らかな春風が頬をなで、頭上の桜の花を散らしていく。
肩についた一枚をそっとつまみあげ、シエラは赤い目を細めた。

人は移ろう。
記憶は薄れゆく。

けれど、この桜の花びら一枚にも、彼人を思い出す鍵はある。
短い時の中で、あちこちを旅した。
その奇跡を時折なぞるだけで、思い出は色をつけてシエラの前に現れる。
それは巡り行く季節のように。

「……わらわは捨てぬよ。この生のある限りと誓ったからの」
寂しさも孤独もすべて、あの人を思えば愛しいものとなる。

そっと花びらに唇を寄せ、シエラは微笑む。
その左手には金色の環が嵌められていた。





13. 準備はOK?(200年後シリーズ「ピンチの時は助けに来い」派生)

報告が入ったのは昼を過ぎた頃だった。
最近グリンヒルの町で勃発する人攫いの摘発に借り出されたジョウイとテッドは、とっととこんな雑件を終わらせて、ニューリーフ学園にいる知人の子とその友人で遊びに行こうと思っていた。
子供の成長は早いので、自分達より背が低い内にいろいろとやっておきたい事もある。

「アジトの場所は?」
「はいっ! 町中にある一軒家です!!」
兵士の一人が報告していると、そこに別の兵士が走ってきた。
「ご報告します! アジトに今襲撃があって」
「は? 襲撃?」
「それが……子供が一人で」
「…………」
「門番を倒したそうですが、それでもやはり捕まったようで」
「子供の特徴は」
「はい、茶色い髪の少年で、青いリボンをつけていたそうです」
「…………」
テッドとジョウイは無言で顔を見合わせた。
青いリボンをつけていて、誘拐犯のアジトに一人で襲撃をかける子供なんて、考え付く限り一人しかいない。
「リーヤだな……」
「けど、リーヤが一人で動くか? 動くならラウロが」
「ラウロがもし捕まってるんだったら?」
「…………」
ああ、なるほど。
辻褄が綺麗に合ってしまった。
始まる前からぐったりした気分で、テッドとジョウイは各々の武器を手にした。
 




24. 大切なもの(III〜時代「趣味が高じて」から派生)

手を組み膝の上に乗せ、にこりとシグールは二人を前に綺麗な笑みを浮かべてみせた。
「外貨は貴重だよね」
「ああ」
「ええ」
シグールの対面に並んで座っているデュナン王国王佐とハルモニア神官将は同時に深く頷いた。
「もちろんですとも交易王様」
「正直ほしくてたまりませんね」
二人の回答に満足気に頷いて、シグールは言った。
「じゃあ引き受けてくれるよね?」
「「当然」」
「OK、じゃあ契約書にサインよろしく」
さらさらと自分の名前を書き記しながら、ジョウイがたずねた。
「けどこれ、ルック引き受けるのか?」
「普通にアプローチしたら絶対NOって言うだろうね」
「どうするんです?」
「着せちゃえばこっちのものだし」
「…………」
「ルック……」
「君の弟の扱いは大抵いつもこんな感じだよ」
「そうですか……」
「ちなみにジョウイはもっと下だけどね☆」
「今回に限っては正面からきてもらえて嬉しいよ……」
「…………」





32. 得意種目(III〜時代「趣味が高じて」から派生)

事の発端はここだった。
「……クロスの作った服……売れないかな」
「ルックへの愛が詰まってるからだめ……といいたいとこだけど、ちょっと増えすぎたんだよねぇ……」
「一度きりってのとかあるでしょ。まあルックに着せて見せて、注文が来たら作ってくれればいいんだけどさ」
「うーん……ルックの服のために新しい生地とか色々ほしいんだけどなー?」
「ふむ。企画にするなら先行投資は必須だよね。試しにこれだけとかどうでしょう先生」
「……現物で、こんな生地とかこんな生地手に入らない? 市場だと出回ってなくって」
にっこりと小首を傾げてお願いするクロスに、シグールは笑顔で応対した。
「生地からは企画が本腰にのらないとダメー。市場に出回ってる分は抑えるけど、生地市場にまで介入するかはまだ僕の頭の中にしかないもん」
「仕方がないなぁ……じゃあ本気出すから、そのかわり軌道に乗ったらくれる?」
「乗ったら生地の生産も考える。ちなみにメンズもつくれるよね?」
「……メンズねぇ……モデルは?」
「テッド……は」
「やだ」
「だよねー。ジョウイを考えてるんだけど。あとササライとかどうかな」
「いい人選だねシグール」
「でっしょー。ササライなんて、ルックとペアにしたら絶対映えると思うんだー」
「その三人ならどういう組み合わせにしてもいけそうだよね……あ、考えたらすごく作りたくなってきた」
「よろしく頼みますよ先生☆」
「ちなみに販売対象は?」
「トラン・デュナン・ハルモニアの富裕層だから、原価はあんまり気にしなくていいよ」
「よっしゃ」

「…………」
今までずっと二人の会話を聞いていたテッドは、最初から最後まで一言も突っ込めなかった。
モデルのところでテッドが一蹴されたところは非常に突っ込みたかったが、二人から出る豪商オーラに口を挟めなかったのだった。
ていうかこの二人、くさってもトランの大商人と真珠の帝王だった。





36. 扉を開けると(テッド誕生日SS6年目続き)

「テッドー? 起きてないの?」
トントンとテッドの部屋のドアを叩いたクロスは、一向に返事のない室内に首を傾げる。
気配はあるから中にはいるはずだ。
普段ならこのあたりで「煩い今日こそは行かないからな!」と叫ぶ声が聞こえてくるのだが、悪いものでも食べて寝込んでいるのだろうか。
もしもそうなら大変だよね! といきいきとした笑顔で呟いて、クロスはマスターキーで部屋のドアを開けた。
「…………」
かくしてテッドはベッドの上で、マグロの抱き枕を抱えて熟睡していた。
この抱き枕は、過日のテッドの誕生日に渡した、先日フレアスポンサークロス作成の誕生日プレゼントだ。
「テッド、抱き枕使ってくれてたんだー!」
「げぶっ!!」
感動に打ち震え、クロスはベッドにダイブした。正確にはベッドで寝こけているテッドの上に。

テッドは最悪の目覚めを迎え、その元凶となったクロスを睨み上げ、クロスのきらめく笑顔に自身の大失態を知った。
絶対に見られたくないものを見られてしまった。
「いや、これはだな」
「嬉しいな! 大事に使ってくれてるんだ!
「だって捨てたらお前怒るだろうが!」
「うん? フレアに言いつけるよ?」
「やめてくれまじで」
「フレアに報告しなくっちゃ〜。使ってくれてるか心配してたんだよね」
「それも報告しなくていいから!」
「クロス、そこにいたらテッドが起きれませんよ」
「…………」
シグルドの声がして、テッドは自分の上にクロスが乗り上げている状態である事を自覚した。
そして廊下の方からすさまじいブリザードが吹きつけている。気がする。
「……今日は厄日だ……」
今日も、か。

テッドのせいではないと思うのだが。断じて。





37. 回想(I〜II時代「White as Snow」派生)

ひらひらと舞う雪はいつだって何の穢れもないように白い。
それはどれだけ時が経とうとも変わらない。

手の中に掬ったそれを丸めて雪球を作りながら、シグールは懐かしそうに目を細めた。
「テッド、覚えてる? 昔、皆で雪合戦をしたの」
「ああ……あれか。最初俺らがやってたら、クレオさんやパーンが混ざってきたやつ」
「そうそう。用事で家にきてたアレンが混ざって、最初は止めてたグレンシールもアレンに雪球当てられて結局混ざっちゃって」
「最後にはテオ様も一緒にやってたっけなぁ……」
いい大人がそろいもそろってと思わなくないが、全員雪まみれになって笑っていた。

「あの戦争の後は、こんな風にまた笑って遊べるなんて思ってなかったな……」
「シグール……」
「だからさ、テッド。今日は思い切り、やろう!」
切なげに目を細めていたシグールが、ぱっと表情を切り替えてテッドに笑いかけた。
それに応えるように頷いて、テッドもまた雪球をぎゅっと握った。

「よし、行くぞシグール!」
「うん!!」
「「ジョウイ覚悟!!」」
「はぶぅっ!!」
二人が全力で投げた雪球はジョウイへと華麗にヒットした。

「いきなり何すんだあんたらはっ!」
「ジョウイー雪合戦しよう雪合戦!!」
「雪球を人に投げる前に言え!!」
「大丈夫だよジョウイ、石は入れてない」
「入れたら雪合戦じゃないよ!」
「え、入れねぇの?」
「何真顔で聞いてるの!?」
「ほーらほら当たるなよー当たったら死ぬぞー」
「入れたのか!? 石を入れたのか!?」
雪球が当たった腰を押さえながら叫ぶジョウイの額に、再び雪球がヒットした。

大丈夫、石は入ってない。
ただ全力で握りつぶした雪球は、結構本気で痛い。





38. 静寂(ジョウイ6年目誕生日SSより派生)

「あー食べた……」
「くそうほとんど残してないでやんの……」
ちびちびと残った酒を舐めるテッドにジョウイはけらけらと笑う。
他の人達は皆夢の中だ。
クロスは彼らにかけるための毛布を取りにいっている。
先ほどまでのどんちゃん騒ぎとは打って変わって、彼らの寝息だけが夜の静けさに染み入る。
「しかし意外だったな。俺達に祝ってほしかったのか」
「ちがわい」

「……けど、セノと二人だけの誕生日も何回も過ごしてるけどさ、こうして祝ってもらえるのもいいなーと」
「と?」
「思ったり思わなかったり……って言わせるな恥ずかしい」
「なら言うな気色悪い」
「なんだとう!?」
「二人ともうるさい。ルック達が起きる」
「「すみませんでした」」
毛布を頭からかけられて、テッドとジョウイは素直に謝った。





49. もう二度と(III〜時代「故郷」派生)

「シグール! シグール聞いて!」
「うっさいシーナ」
屋敷の扉を開いて駆け込んできたどこぞの大統領書記に、シグールは手に持っていた文鎮をぶん投げた。
割と本気で当てるつもりだったのだが、咄嗟に頭を傾けたせいで文鎮は壁に当たって床にごとりと重い音を立てて落ちる。
「ちっ」
「あっぶねぇな! 死ぬだろ!」
「前線もう出てないくせに、反射神経鈍ってないなー」
「……お前なぁ」
壁にうっすら跡をつけて落ちた文鎮を拾って抗議するシーナにけらけらと笑う。

開けっ放しだった扉の向こうで恐縮している、ここまでシーナを追いかけてきたらしいメイドは、視線で促して退出させた。
じきに何かしら飲み物を持って戻ってくるだろう。

「で、今日は何の用さ」
座ったまま足を組んでシーナを見れば、喜色満面の笑みで報告された。
「俺復縁する!」
「……シーナ、ドラッグは違法だよ?」
「誰が手ぇ出すかそんなもん」
「…………」
「…………」
「……マジ?」
「マジ」
「ガチで?」
「ガチで」
「……明日から異常気象かぁ。忙しくなるなぁもう。止めてほしいよねほんと」
「人の復縁を天変地異の前触れ扱いすんな」
やれやれと溜息を吐くシグールにシーナが噛みつく。
それにどうどうと手を振って、シグールはふぅんと真面目に取り合う事にした。

「ま、おめでと。アップルがどういう心変わりしたのかはしらないけどさ」
「俺の熱意が通じたんだよなきっと!」
「それはどうかなぁ……」

まぁ、アップルも未練があったのは傍から見ていてバレバレだったので、何かしらの「きっかけ」があったのだろうとは想像ついたが。
やっとここも落ち着くかとひっそり溜息を吐いて、まっすぐシーナの目を見る。
「シーナ、シーナも一応そうだけど、アップルも僕の仲間だからね。……次はシーナでも吊るすよ?」
「わーってる。俺も次はねぇよ」
「よろしい」
真摯な返答ににこりと微笑んで、シグールは改めて祝福の言葉を述べた。


「おめでと、シーナ」





53. 天敵(テッド誕生日SS6年目続き)

「はー……災難だった」
げんなりとした表情で、テッドは自室へ戻った。
今日はテッドの誕生日だったのだが、シグール達が例年のごとくパーティーを開いてくれた。
そこまでは嬉しい事なのだが、今年のコンセプトがマグロ尽くしだったのも喜ばしい事だったのだが。
「ケーキまでマグロにすることはないと思うんだよな……」
普通の生クリームのケーキが食べたかったぜ、と一人ごちて(しかしマグロケーキは普通に美味かった。さすがだクロス)テッドは布団をめくった。

そこに、マグロがいた。

テッドは目をぐしぐしと擦る。
それからもう一度ベッドの上に横たわるマグロを見た。
「……シグール、何してんだ?」
「えへへ。今夜はマグロでお出迎えしてみました☆」
語尾に星をつけて可愛らしく言うシグールは、全身パジャマを着ていた。
その図柄はマグロである。
しかも妙にリアルな。
「…………」
「テッド、マグロ好きだよね?」
「それとなんの関係が」
「昔クロスがマグロの抱き枕あげたら喜んで抱いて寝てたって聞いたから、僕がマグロ着たらもっと喜んでくれるかなって」
「…………」
テッドは眩暈を堪えるように目頭を押さえた。
「……シグール、ちょっとそこでそのまま寝ててくれ」
「はーい?」
「俺はちょっとクロスに礼を言ってくる」
にこやかに言って、テッドは自室を出てドアを閉めると、全速力でクロスの泊っている部屋へと走った。

「クロスお前ぶん殴る!!」
「いきなりなんだよテッド」
片付けを終えて戻ってきたところだったのか、まだ寝巻きに着替えていないクロスがいた。
ルックはいない――知ってて逃げたなあの野郎。
「だってテッド、マグロもシグールも好きじゃない」
「ああそうだなありがとう感謝している殴らせろ」
ぎりぎりと拳を握り締めてテッドは笑顔で言う。
その米神には青筋が浮いているが、クロスはまったく意に介していないようだ。
「あはは、そんなに感謝されるなんて嬉しいなぁ」
「〜〜〜!!」
こいつと腐れ縁になってしまった現実を心底恨む。
ちくしょうこれだからつきあいうん百年の腐れ縁は嫌なんだ!

「やっぱりお前は俺の天敵だよ!!」