幻水好きさんに108のお題。

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81題目:音楽隊(L)



「かーえーるーのーうーたーがー……♪」
「かーえーるーのーうーたーがー……♪」
「かーえーるーのーうーたーがー……♪」

「……なにやってるの、あそこは」
「輪唱だろ」
「なんでかえるの歌」
「最初シグールが面白半分で歌いだしたらフルールが乗ったらしい」
「で、そこに通りがかりのクロスが入ったと」

「「「ゲロげろげろげろくわっくわっくわー♪」」」

「……無駄にハイレベルな輪唱だな」
「あれでもっと違う曲なら感動するものもあるだろうに……」
「本人達が楽しそうならいいんじゃない……」
「そういやかえるの歌ってさ、五人以上だとエンドレスで歌えるんだよな」
「……そうだね」
「宿星全員でやったら面白そうじゃねえ?」
「……あそこでカッコー歌い始めた三人には言わないでよ。本気でリアトに提案しに行きかねないから」





82題目:戦争(200 after)


「この間、さ」
それはほんの酒の肴としての話だったのだろう。
どうしてそんな話をする気になったかは分からない。酒が回って頭がうまく働いていなかったからかもしれない。
昨日まで戦地にいて、酷く疲れていたからかもしれない。
どちらにせよ、普段ならば口にしないような話題だった。
「戦地に行った時、死体漁ってるガキを見た」
子供は酷く汚れていて、ずっと風呂に入っていないようだった。
明らかに大きいサイズの服は、きっと死体から盗ったものなのだろう。黒い染みは、きっと元持ち主の血が色を変えたものだ。
その袖からでる手足は、大人のサイズの服を着ている事を差し引いてもあまりに細いものだった。
目だけが大きい子供は、酷い形相のまま息絶えている、顔を半分失った男の屍骸に怯える様子も見せず、その懐を探り、装飾品を値踏みし、持ち運べそうなもので高値のつきそうなものばかりを選んでいた。
その傍らに転がる、刃こぼれもしていない剣には見向きもしない。
「剣は子供の手には余るしな」
「うん」
子供のしている事は、道徳的には許されない事だろう。
だけどリーヤはそれを見ても咎めはしなかった。
死人が装飾品をつけていても、一緒に燃やされて灰になるか、錆びて使い物にならなくなるかだ。金は死後の世界には持っていけない。
だけど、子供はその金があれば明日を生きられる。
道徳よりも、子供にとっては明日を生きる金が必要だ。
道徳なんてものは、生きる余裕のある人間が始めて口にするものだ。

ラウロはリーヤに子供をどうしたかは聞かなかった。
リーヤもその子供がどうなったかなんて話さなかった。

その子供は、もう少し歳のいった、別の子供に見つかって、打ちのめされていた。
縄張りはどこにでもある。動物の世界でも、人間の世界でも、たとえそれが死体漁りであったとしても。
その子供はリーヤが知る限りは動かなかった。

その子供は、戦地で死んでも、戦死とは言われない。





83題目:シンダル(III〜)


「一度行ったことあったんですけど、変な仕掛けがいっぱいあってびっくりしました。あれ、何百年も前のなんですよね?」
「オベルにあった遺跡もシンダルなんだよねー。あの明かりも不思議だった」
「まだ仕組みの解明できてないんだっけ?」
「うん、あの場所から動かすのもムリみたいでさ」
「僕の時はなかったなあ……あ、でもファレナにけっこうシンダル遺跡あるみたいで、そこも色々凄いらしいよ」
「そもそも遺跡の建築材が違うだろ」
「仕掛けも僕らが理解できるレベルを超えてるらしいしな」
「ずっと昔の文明なんだろ? 僕らのものよりずっと高度だったってことさ」
「まだまだ当分追いつけそうにはないけどな」
「……でも」
「どうした? セノ」
「そんなに発達した文明だったのに、どうして滅んじゃったんでしょうね」
「……そうだなあ」
「どんなに高度な文明でも、どんなに栄えた国であっても、いつか滅びてしまう時はくるってことだね」
「それって、僕らもいつかは滅んじゃうってことでしょうか?」
「かもねぇ」
「……ちょっと怖いですね」





84題目:騎士(W)


「シグルドってクロスの騎士みたいよね?」
「そうですか?」
「いつも一歩後ろに控えてるじゃない? それにどこに行くも一緒だし」
「俺が勝手について行くだけですが」
「落ち着かないから隣歩いてって何度も言ってるのにさー」
「すみません。この立ち位置が落ち着くもので」
「そうしてるとまるでお姫様と騎士様だなーって」
「……フレア、僕、姫じゃないんだけど……」
「例えよ例え。私もそんな騎士様ほしいなー」
「テッドとかどう?」
「オレニハナシヲフルナ」
「テッドじゃちょっと役不足よね?」
「俺のどこに不満が!?」
「身長とか」
「…………」
「……そればっかりはどうにもならないから……」





85題目:プリティー(L)


「ルックとササライって兄弟なのよね?」
「はぁ。まぁ」
「……一応ね」
「で、ルックはいつも女の子っぽい格好してるわけだけど」
「……別に女性の格好をしているのはルックの趣味ではないですよ?」
「そもそもこれはローブであって女物じゃないからね……?」
「え、そうなんですか?」
「なんだと思ってたわけ……」
「で、ね?」
「……顔が怖いですよアズミ」
「何が言いたいのさ……」
「ルックがそんなに女装似合うなら」
「だから僕は女装じゃないって!」
「ササライも似合うんじゃないかなって思ったんだけど☆」
「…………」
「皆の者確保よ!」
「「おー!!」」
「どこに隠れてたんですかあなた達!?」
「こんな楽しいことノらない手はないわよね☆」
「アズミさんの言うことに間違いはないわ!」
「スピカ! メルディ! 挟み撃ちよ!」
「くっ……」
「眠りの風」
「ルック、邪魔する気?」
「ルックナイス……!?」
「無駄な抵抗は止めなよね」
「……兄を……売る、つもり……ですか!?」
「別に同じ顔の女装なんて見たくもないけど。アズミに逆らう気もないし。……ちょっと面白そうだし」
「最後の、本音、です、よね!? ……ぐぅ」





86題目:オオカミ少年(V〜)


「これって、嘘を吐いてばかりいると、本当の事を言っても信じてもらえなくなるって意味ですよね?」
「そうそう。僕らにいっつも苛められてるって言うジョウイの言葉が誰にも信じてもらえなくなるようにね」
「それは僕が嘘を吐いてるんじゃなくて、真実を言っても誰も聞く耳持たないだけだよな!?」
「違うよう。僕らはただジョウイと遊んでるだけじゃないか」
「嘘だ! それこそ嘘だろ!?」





87題目:お守り(U〜W)


「……お守り……」
「そういやクロス、前にお守りもらってなかったか?」
「あああれね。まだ持ってるよ」
「クロスのお守りって?」
「最終決戦の前夜にね、女の子達が作ってくれたんだよー」
「へー」
「…………」
「……なんか顔暗いよ?」
「……お守りって聞くとちょっとね……」
「ルカを倒した時に、目印にしたのが木彫りのお守りの中に入れておいた蛍だったんです」
「……もしかしてそれ」
「弓を集中砲火のための目印か?」
「はい」
「……それ、お守りの使い方じゃねーだろ。むしろ正反対だろ」
「重々承知しております……」





88題目:迷った?(W)


てくてくてくてく。
「…………」
てくてくてくてくてく。
「…………」
てくてくてくてくてくてく。
「……ちょい止まれクロス」
「なに?」
「お前、今自分がどこ歩いてるかわかってるか?」
「オベル遺跡だよ?」
「そういう意味じゃなくてだな……たしかにここはオベル遺跡の中ではあるけどよ……お前……迷ってねぇか?」
「…………」
「あらやだクロス、そうなの?」
「あまりにも自信たっぷりに歩かれているものだから、てっきり」
「……マヨッテナイモン」
「お前、俺の目を見てもう一度言ってみやがれ」
「……ちょ、ちょっと同じところをぐるぐる回ってるだけだもん!」
「それを迷ってるって言うんじゃボケェ!!」
「テッド、クロスを責めちゃかわいそうよ」
「そうですよ。クロスだけに任せていた俺達にだって非はあります」
「あーそうかい……麗しい仲間愛だな……で、どうやって外に出るよ」
「……そうね」
「そうですね……」

「「壁を砕いていけばいつかは外に出られますよね(わよね)??」」
「…………」
「あ、そうか」
「納得すなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「嫌ねぇテッドったら。冗談よ」
「冗談が通じないんだから」
「お前らの冗談は冗談に聞こえねぇんだ」
「とりあえず、目印をつけながら進んでみましょう」
「……最初からそうしてくれ……」





89題目:モノクロ(III〜)


「白タイツー」
「黒タイツー」
「「ふたつ合わせてモノクロタイツー」」
「…………」
「……他に言うことは?」
「ジョウイはやっぱり白が似合うね。乳酸菌のようで。触覚も生やそうか?」
「…………」
「テッドはあれだよね、黒子みたい」
「比較的まともなコメントで嬉しいよ……」
「どっかに盗みに入る前って感じがして、犯罪臭がぷんぷんするよ」
「…………」
「というわけで君たち二人にはその全身タイツでお買物に行っていただきます」
「Σ( ̄□ ̄|||) 待って! それは恥ずかしい!!」
「大丈夫、皆目をそらす」
「……せめて夜に行かせてくれ。闇に溶けて見えにくくなる」
「テッドずるいぞ! 逆に僕が目立つじゃないか!! 逆に昼間なら壁に同化して目立ちにくい!」
「いや、人間の視力嘗めんな?」
「どっちにしても、お店に入ったら店員さんにばっちり見られるけどね?」
「「…………」」





90題目:V(V〜)


「Vの思い出と言えば……」
「本拠地がのんびりしてるのはどこも同じだなーって思った」
「TやUにも増して動物多くなかったか? アヒルとか」
「あれはああいう種族だから……」
「可愛かったよねー」

「ジーンがちょっと露出低くなかったか?」
「え、テッドそんなとこに目ぇつけてたの?」
「うっわースケベー」
「なんだよ!? Xの時のジーンを知らねぇから言えるんだ!!」
「え、Xの時そんな凄かったの?」
「僕見たよ。なんていうか……その……凄かったよね」
「そんなに……?」
「Wも凄かったんだけど、輪をかけて凄かった」

「そういえば湯葉が随分と人間ぽくなってたよね」
「鎧脱いだって進歩だよ」
「暑かったんですかね?」
「どっちみち真っ黒だから熱は吸収すると思うけどね……」
「外見とは裏腹に、言動はなんか悪化してた気もするけど」
「星辰剣で飛んだテッド幼少期の湯葉は凄い流暢に喋ってたよ」
「外見と中身が反比例してるのか……」

「……ねぇ」
「そういえばVって、星辰剣エッジって人が持ってるんですよね?」
「ビクトールが押し付けたらしいぜ」
「うっわーかわいそー」
「ちょっと」
「星辰剣をビクトールから受け継いで、天暗星の座をフリックから受け継いだのか……不幸だな……」
「実際はそうでもなかったみたいだけどね。なんかその設定が哀れみを誘うよね」
「外見も別にそんな青くないし、天暗星って感じはしないね」

「ちょっとあんたら!!」

「なんだよルック」
「皆でVの思い出について語り合ってるのにさ」
「……そこまで露骨に避けられてると逆にむかつくんだけど」
「え?」
「ああ」

「「馬鹿な事しでかしたルックをボコって引き摺ってった事??」」
「…………」





91題目:勝利!(III〜)


「。○o。゚・*:.。.ヽ(´▽`)/.。.:*・゜。o○」
「……どうしたんだ」
「なんか明らかに周りの空気が違うんだけど」
「ワ━ヾ(   )ノ゛ヾ( ゜д)ノ゛ヾ(゜д゜)ノ゛ヾ(д゜ )ノ゛ヾ(  )ノ゛━イ!! 」
「……おい、踊り出したぞ」
「頭でもおかしくなったとか?」
「元からでしょ?」
「セノ、ジョウイどうしちゃったの」

「ええとですね、シュウがお休みくれたんです」
「へえ」
「あのジョウイの喜びっぷりからすると、一週間くらいか?」
「鬼宰相にしては太っ腹だよね」
「……いえ、その」
「あ、さすがにもうちょっと長い?」
「半月くらいか」
「さすがに二週間くらいが限度じゃない?」

「……です」
「え?」
「一日です」
「……いちにち?」
「はい」
「にじゅうよじかん?」
「はい」
「……で、あの喜びよう?」
「ジョウイ、ここ二ヶ月休みなしの上、徹夜もしょっちゅうだったので……」
「「…………」」
「明日のお休み、シュウに本当にお願いしてお願いしてもらったんだそうです」
「……そう」
「僕じゃないとできない仕事より、ジョウイじゃないとできない仕事の方が多いから、大変みたいなんです」
「……僕、お茶入れてくるね」
「秘蔵のヤツ出してやっていいよ」
「お茶菓子、今日持ってきたとっときのケーキ、ジョウイに出したげて」
「じゃあ俺は肩でも叩いてやるか。まっとうに」





92題目:一騎打ち(III〜)


「…………」
「…………」
「ふ……お前とこんな風に戦る日がくるとはな……」
「……僕はいつかくるんじゃないかって思ってたよ」
「そうか」
「……いくよ」
「ああ」
「…………」
「…………」

「「じゃんけんぽんっ!!」」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」
「勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「なんで! なんでグーを出したんだ俺は!!」
「ありがとう神様! この瞬間だけ僕はあなたを信じます!!」

「で、結局どっちなの」
「テッドです!」
「そう」
「ジョウイの人でなし!!」
「負けた方がルックのお手製料理を食べるって決めたのはテッドだろ!」


「……ルックの料理食べるのにあんなに騒ぐこと?」
「あの緑やら青やら紫やら明らかになにかが混入されているクッキーを食べる勇気は僕にはない」
「ルック料理上手なのにねー?」
「普通に作ったら、の話ね」





93題目:からくり(II〜III)



「なんだこれ?」
「ジュッポから借りてきた。からくり丸の設計図」
「……なんのために」
「いや、あれがどう動いてるかって知りたくない?」
「つまりは暇だったんだな」
「でも見てるだけじゃちーっともわかんないだよねー」
「こんな細い線組み合わせただけで動くのか……」
「なんか色々くっついてるみたいなんだけどね。その中にもまた線があって……って感じらしくて」
「へぇ」
「正直暇つぶしには向かなかったね(゜▽゜)」
「暇つぶしって認めやがったΣ( ̄□ ̄|||)」
「ルックあたりに見せたら喜ぶかなー」
「……ジュッポに返してやれ」





94題目:ビンタ


「どうしたんだジョウイ、そのほっぺ」
「……セノに」
「セノに?」
「いや……その……」
「話せ☆」
「……ちょっと女性と……」
「焼餅だねぇ」
「青春だなぁ」
「っていうかジョウイ浮気?」
「違う! いや、実はいつも行く雑貨屋の娘さんが僕に告白をされてきまして」
「うっわー自慢だよ自慢」
「これだから見目のいい男ってのは」
「聞けよ人の話! とにかく僕は断ったの! 僕にはセノがいるから!!」
「まさかそれを直球で言ったとか?」
「それをすると恥ずかしがってセノが怒るから、僕にはお付き合いしてる人がいますからって丁重にお断りした」
「なら別にセノがジョウイを殴るなんてことはないんじゃ?」
「……そしたら、彼女泣き出しちゃって」
「はぁ」
「そこをセノに見られて……「なんで女の人泣かしてるの!」って……」
「……なるほど」
「災難だったなぁ……」
「そりゃもう首の骨が折れるかと思うほど全力で!」
「セノ、一番得意なの体術だもんね」
「それでもう誤解は解けたのか?」
「解きます。解きたいんです。解くつもりなんです。だから足止めしてないでとっととセノのところに行かせてくれ!!」

(セノ、マクドール家に逃走中)





95題目:抱擁(94:ビンタの続き)



「へへへ〜ジョーイ☆」
「……なんだ」
「え、傷心のジョウイを労わってあげようと思って(^▽^)」
「結構です。だから早くセノのところに」
「僕の抱擁だよ? 超レアだよ?」
「だったらその権利は別の人に譲渡する。主にテッドに」
「つまりは?」
「全身全霊を持って拒否する!」
「……そういうことを言われると、ますます抱きたくなるなぁ」
「寄るな!」
「じょーういくーん」
「いらん! 寄るな!! テッド助けろ……ってあれ、いない?」
「……なんか楽しそうだねジョウイ」
「セノ煤i゚▽゚;ノ)ノ」
「あ、なんか余計お怒り?」
「誰のせいだと思ってんだー!?」





96題目:封印の地(L)


その日、長い間封印されていた場が開かれようとしていた。
クロスとルックは武器を手にお互いの顔を見合わせ、静かに頷く。
入り口へと手をかけたクロスの手は震えていて、その表情は固い。
それでも開けなければならないと、手に力を込めた。
できる限り息を殺し、ゆっくり、ゆっくりと閉ざされていた部屋へ光を入れていく。

勝負は一瞬。
中の現状を視界に入れた瞬間、クロスは自分の身だけをするりと中へ入れ、一直線に奥へと足を進めた。
周囲にぶわりと舞うものを吸い込まないように息を止め、固く閉ざされたままだった錠を壊すように開いて、硝子の窓を思い切り押し開ける。
「――ぶっはぁっ!!」
軋んだ音と共に開いた窓の外へと身を乗り出して今まで止めていた息を吐き出したクロスは、ぜいぜいと肺に新鮮な空気を取り入れる。
その背後からルックの恐々とした声がかかった。
「クロス、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
即答してクロスは窓枠に手をついたまま室内を見渡した。
そう狭くない部屋の中、日光が窓から差した室内は見事にくすんでいた。
クロスが通ったところを中心に舞った埃が日光をきらきらと反射して綺麗……綺麗じゃない綺麗じゃない。

「予想はしてたけど……してたけど……」
悲痛な声音にルックもそろそろと室内へと入り、すぐに袖口で口元を覆う。
「埃くさい……」
「僕が出てってから一度も掃除なんてしなかったんだろうなぁ……そうだろうなぁ……」
リビングや自分達の寝室は時折軽く掃除をしに訪れていたのだが、レックナートの私室までは手が回っていなかったのだ。
ようやく塔へと戻ってこれて、はたとそれに気付いた時の絶望は半端じゃなかった。

「足跡つくよ……」
「生ごみがないのはせめてもの救いだよ」
「一度やってクロスに散々怒られたからじゃないの……にしても、あの人どうやって移動してたんだ」
「転移じゃない?」
「なんつー無駄使い……」
あの人のずぼらっぷりは治らないのかなぁ。治らないんだろうなぁ。
クロスとルックは顔を見合わせて深々と溜息を吐いた。





97題目:呪い(???)


「ナニコレ」
「巷で噂の呪いのビデオ\( ̄▽ ̄)」
「……ナニソレ」
「ルックが骨董市で見つけてきたんだよねー。これを見た者は呪われるって触れ込みでさ。せっかくだから皆で見ようかなって」
「自分達だけで呪われろよ!Σ( ̄□ ̄|||)」
「友情に薄いぞジョウイ」
「テッドは怖くないのか」
「ジョウイは怖いのか?」
「え」
「俺達全員真の紋章の呪い持ってんだぞ?」
「…………」
「つまり僕達全員すでに呪われてるんだよね」
「(゜□゜)」
「そういえば不老って真の紋章の呪いでしたっけ」
「最近忘れてる節があるけどね」
「毎日バカやってるから……」
「というわけで、呪いのビデオを見たところですでに呪われている僕らに何があるのか実験がしたくて買ってみた」
「Σ( ̄□ ̄|||)」
「ルックがこういうものに興味持つなんて珍しいと思ったんだー」
「真の紋章の呪いと呪いのビデオか……呪い同士でぶつかったりしないのかね?」
「呪いVS呪い? 面白そう☆」
「吸血鬼だのゾンビだのゴーストだの呪い人形だのがいる世界で呪い怖がってたら生活できないと思うけどな」
「……それとこれとはベツモノだと思います」





98題目:約束(200年後)


「ゆーびきりげんまんっ、嘘ついたら針千本のーますっ!」
「「ゆーびきった!!」」
「約束だかんなジョウイ!」
「わかってるって」
「なに? なんの約束?」
「クロス! ジョウイが今度の休みにキャロ連れてってくれるって!」
「よかったね」
「おうっ!」
「いいの、せっかくの休みなのに」
「たまには遊んで好感度あげておかないと、僕だけおいてきぼりにされそうでね……」
「シグールとテッドはしょっちゅうくるからね……」
「それにたまに会える時くらい遊びたいなーと」
「なあクロス、針ちょーだい!」
「……ええと、何に使うの?」
「ジョウイが飲むの(゜▽゜)」
「(゜□゜)!?」
「約束破ったら針千本飲むんだろ? だから今の内に準備しとくんだー」
「……え、なに、破るの前提? すでに僕の好感度底辺?」
「……針がもったいないから、破ったら用意してあげる。ね?」


「……ジョウイ、これで休み取れなくなったとかになったら、君本当に死ぬことになるからね」
「何がなんでもぶんどってくるよ……」





99題目:信じる(I)


軍主様が楽しみにしていらしたレツオウ作新作ケーキが不届き者によって食された!
犯人を捜し出せ!

という指令が本拠地を駆け巡る――わけでもなく、下手人候補のフリックがシグールの前に突き出されていた。
「せめて犯人探しとかしろよ! なんでまっさきに俺なんだよ!!」
「いや、その時間帯にこの周辺にフリックがいたってシーナがね。だから一応聞くだけだって」
「明らかにこれ犯人扱いじゃね!?」
シーナとクレオに両側を固められたフリックはすでに泣きそうだった。

違うよう、とシグールはフリックの前に膝をついて顔を覗き込む。
そして優しげな笑みを浮かべていった。
「僕は君を信じてるよ」
そんな無邪気な目で見つめられながら言われて、フリックの良心がずきりと痛んだ。
そしてぽろっと陥落した。
「すまない……食べたのは俺だ!」
「連行。やっぱり君だったか」
「おまっ……」
「最初から君だと思ってたんだ」
「信じてるっていったじゃねぇか!」
「うん、君が食べたって信じてた☆」
「……orz」

「僕の三時のおやつを食べた罪は重いよ〜」
「軍法会議ものだよな」
「ね。レパント達呼んできてくれる?」
「そんな大事!?Σ( ̄□ ̄|||)」





100題目:弟子(III〜)


「またあの人は……!」
苛々とした空気を隠そうともせずに窓の外を睨みつけているルックを、少し離れたところで見ながらセノがクロスに尋ねた。
「ルックどうしたの?」
カリカリしている時のルックに直接話しかけるのは危険行為極まりないので事情を知っているであろうクロスに聞いたのだが、普段であれば率先してルックを宥めるクロスは、ただ困ったように首をかしげた。
「レックナート様がまたふらっといなくなっちゃってねー」
「あの人もいい年なんだから、そんな心配しなくていいんじゃないの?」
あれじゃまるで年頃の娘の帰りを待つ父親のようだ。
「うーん……と、僕も思うんだけどね。ルックはやっぱり心配みたい。お師匠様だもんね」
「…………」
「どうしたんだシグール、急に黙り込んで」
「いや……そういえばレックナート様ってルックの師匠だったっけ、と」
「…………」
「何を今更」
「え、だってレックナート様が誰かに何かを伝授するとか想像できない」
「「…………」」
全員に、沈黙が落ちた。
確かに。
確かにレックナート様は普段あんなんだけれども。
具体的に何がどうとは言えないが。
「一応……星読みとか魔法制御とか……教えられることあるんだよ……?」
「一応星読みの権威だろ……」
苦笑、としか取れない表情で言ったクロスと、微妙な顔のテッドにダブルで突っ込まれて、シグールは無言で紅茶を啜った。





101題目:故郷(III〜)


故郷とは、遠くにありて思うもの。

「というわけで里帰りがしたいです」
「……何、いきなり」
「てかテッドの里って場所不明なんじゃなかったっけ」
「今の俺の里はマクドール家だ」
「そんな無理矢理里を作らなくてもいいから」
「かえるーおうちかえるーもうやだー」
「テッド、そんな風に言ってもまったくかわいくないからね」
「シグールに会いたいー」
「そんなの僕だってルックに会いたいよ」
「ルックの奴一人だけうまく逃げやがって……」
「二人とも、帰りたいなら口より手を動かして」
「…………」
「僕だって里帰りしたい……ていうかセノに会いたい……セノに会えるならどこだっていい……セノどうしてるかな……シグールと外交とか言ってシグールの奴セノに何かしてないだろうな……」





102題目:忍者(L)



「忍者っていうと、やっぱり隠密行動だよね」
「暗闇に紛れて……っていうのがセオリーだよね」
「うんうん、正体は絶対に明かさないっていうのが忍者の鉄則ーみたいな」
「カゲとかそんな感じだったよ」
「キッカもそうだよね。真っ黒」
「逆に美少年攻撃に加わってる忍者もいるけどねー……」
「俺のことか!? あんたらが勝手に突っ込んだんだろうが!」
「いや、歴代にちゃんと先達はいる」
「カスミが美女攻撃入ってたなぁ」
「サスケも美少年攻撃やってたしね。ちょうど今のヤマトと同じポジション」
「……俺に……先輩がいたのか……」
「毎回華麗に吹っ飛んでたよ」
「サスケがいたからヤマトを推薦したってのもあるかもね」
「…………」





103題目:竜(II〜III)


「きゅ〜」
「どうしたんだい、ブライト」
「……もしかして俺、嫌われてる?」
「テッド、ブライトに何かした?」
「何もしてねぇよ! つーか初対面だし!!」
「真の紋章を持ってるから……とか」
「その場合僕らが乗れてテッドさんだけだめな理由がわからないです」
「うさんくさいオーラでも出てるんじゃないの」
「ルックΣ( ̄□ ̄|||)」
「ブライド、他の竜達じゃだめなんだ……大丈夫、僕も一緒だから」
「きゅー……」
「不安にならなくて大丈夫だよブライト。もしテッドが何かしたら、その瞬間宙に放り出して構わないから」
「むしろ放り出すから」
「ブライトには危害ひとつ加えさせないから」
「そうそう、ちゃんと責任持って始末するから」
「……もう……そこまでして乗りたくない……orz」
「……きゅ」
「……ブライト」
「きゅ、きゅ、きゅー」
「……乗せて……くれるのか……」
「きゅー」
「さすがに哀れに思ったんだな」
「竜にまで同情されるとは、さすがだねテッド」
「よかったですね、テッドさん」
「お前らのせいだお前らの」





104題目:最後の戦い(II〜III)


「これで最後だ……」
「ようやくお前と決着がつけられるんだな……」
「「くくくくくくく……」」

「何やってるの、あの二人」
「トランプ」
「それは見ればわかるよ」
「今のところ、三十回やって十五勝十五敗同士」
「暑苦しいから他の部屋でやってほしいよ」
「ポーカーとかやればいいのに、なんでスピード?」
「ポーカーだとお互いイカサマするから、らしいですよ?」
「……なるほど。負けた方は何か罰ゲームとかあるの? あんな必死になってるけど」
「さぁ?」
「僕らは何も言ってないよねー?」
「うん。二人でやりだして、勝手に白熱してるだけ」
「……そっかー。じゃあ、負けた方には夕食の材料取りに行ってもらおっかなー」
「おい、勝手に罰ゲームを作るな」
「よっし僕の勝ち!」
「うあぁぁぁぁぁぁおまっ、それ反則だろ!?」
「勝負中にツッコミ入れてるからいけないんだろ」
「ちくしょうクロスお前のせいだ!」
「テッドが勝手にツッコミしたんじゃん。というわけでよろしくね☆」
「ちくしょー……まぁ、買出しくらいならいいか」
「じゃあちょっと無人島まで巨大カニ捕獲お願い」
「Σ( ̄□ ̄|||)」





105題目:幸福(???)



部屋の中に元気な赤子の泣き声が響き渡る。
妻は額に汗を浮かべ、憔悴しきっているが、その表情は安堵と喜びに溢れている。
そんな妻の手をずっと握り締めていた夫は何度も何度も妻に礼を述べながら、涙を流した。

「ああ、元気な男の子です」

赤子を取り上げた手が、妻に生まれたばかりの赤子を渡す。
妻がその子を胸に抱き、夫は支えるようにその手に添わす。

「ああ、私達の赤ちゃん」
「生まれてきてくれてありがとう」

妻は母となり、夫は父となる。
その瞬間は確かに幸せがそこにあった。





106題目:108星(L)


「ルック」
「ルック」
「テッド」
「今回もルック、と」
「じゃあ天異星は」
「カゲ」
「ゲオルグ」
「キーン」
「リーヤだねぇ」
「地撻星」
「ビッキー」
「ビッキー」
「ビッキー」
「で、ビッキー」
「ジーンとビッキーはコンプだねぇ」
「すごいですねぇ」
「本来ありえないことなんだけどねぇ」

「……何やってんだ? あいつら」
「同じ宿星を誰がやってたか、だってさ」
「楽しいのか?」
「さぁ……本人達は楽しいらしいけど」
「次は天暗星」
「フリックv」
「フリックさん」
「スノウ……そういえばスノウは青くなかったなぁ。どっちかっていえばテッドのが青かったなぁ」
「で、ジョウイ、と」
「テッドが天暗星ならよかったのにね」

「さりげに怖いこと言われてるΣ( ̄□ ̄|||)」





107題目:終結(II〜III)


「……やっと終わった」
「おつかれー」
はふぅ、とソファに身を埋めたまま深い溜息を吐いたシーナに、シグールが気の抜けた声で労いの言葉をかけてくる。
ちっとも労わられている気がしない。
そもそもシーナが疲れ果てているのはシグール達が本気出してあれやこれややってくれた後始末をさせられたせいなのだが、分かっているのかいないのか。
……分かっていてもこんな感じか。

「どっと年取った気分だ」
「確かに。あ、白髪」
「げ、まじで!?」
ばっと頭に手を当てて焦るシーナに、シグールはさらりと返す。
「光の加減だった」
「……やめてくれ。そろそろ本気で心配なんだ」
「大丈夫だよ、レパントも後退してないし」
「…………」
それは微妙に心配するところが違うような。

別の疲れまで襲ってきて、深く深く溜息を吐くと、シーナは足を組んでシグールを改めて正面から見た。
「で、お前どうすんだ?」
「何が?」
「本家の当主問題について」
「あー……」
今回の根本的問題について尋ねると、シグールはやや気まずげに視線を彷徨わせてから、腹を括ったように言った。
「やるよ、当主。ちゃんと」
「そか」
「跡取り問題とかでまた揉めるの面倒だし。ほったらかしにしておくにはちょっと膨らませすぎたしね」
ここらが潮時だよね、と言うシグールはさすがに自分のお家問題からもう逃げるのは止めたらしい。
全部ほっぽって逃げるのも手だったろうに、それができないお人よしな根っこの部分は何十年経とうと変わらないらしい。
苦笑を浮かべたシーナに、シグールが眉を寄せて言った。
「シーナ、なんか失礼なこと考えてない?」
「なーんも」
「顔がいやらしい顔してた。……あ、それはいつもか」
「誰がだΣ( ̄□ ̄|||)」


***
マクドール家お家騒動終結後日談。
お家騒動についてはその内書くような書かないような。
つまりはシグールがマクドール家当主をやるって決めた話。





108題目:出会い(???)


「……こういうのを奇跡って言うんですよねぇ」
「どうしたの、セノ」
彼が突拍子もない事を言うのはいつもの事だったが、礼儀のようにクロスは聞き返した。
セノは窓の外を見つめながら、どこかぼんやりと答える。
「あそこで」
「うん?」
セノの視線を追うようにクロスが視線を向けると、窓の外ではジョウイとシグールが棍で打ち合いをしていた。
テッドは審判なのか、上着のポケットに手を突っ込んでぼんやりと立っている。
ものすごくやる気がなさそうだ。

「ジョウイとシグールさんが鍛錬してますよね」
「そうだね」
鍛錬というより結構本気でやりあってる気もするけれど。

セノは視線を前に向けて、手の中のカップに視線を落とし、クロスを見た。
「今、ここで僕はクロスさんとお茶を飲んでますよね」
「うん」
「で、ルックはあそこで本を読んでる」
少し離れたソファで本を読んでいるルックを見て、セノはもう一度繰り返した。
「こういうのを奇跡だなぁって、思ったんです」
「ここにいることを?」
尋ねれば、ゆっくりと首を縦に振った。

「たとえばクロスさんがテッドさんを生き返らせなかったら。僕とジョウイが戦争を途中で放り投げて逃げていたら。僕がシグールさんに手伝いをお願いしなかったら。そしたら僕らは、ここでこんな風に一緒にお茶したり、鍛錬したり、してないんですよね」
「……そうだね」

たとえば。
クロスがオベルに拾われなければ。
シグールが反乱軍に入る事を拒んでいたら。
セノがジョウイをあの時殺めていたら。

誰かが戦争に負けていたら。
紋章の試練を乗り越えられていなければ。

そのどれかひとつでも違う道をたどっていれば、ここでこの六人はこうして集ってはいなかった。


「だから、今こうしていられることが、凄く素敵で幸せなことだなぁって思ったんです」
「そうだね。そう思えるセノも素敵だと僕は思うよ」
「へへ」
クロスにほほえまれて、セノは嬉しそうに顔を綻ばせた。






Complete!!