幻水好きさんに108のお題。

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61題目:不幸(L)



「不幸の代名詞っていったらフリックだよねえ」
「いやいや丸太で漂流したスノウも捨てがたい」
「ジョウイだってなかなかに不幸だよ現在進行形で」
「……いったい人の名前を出して何をしてるんだ」
「不幸自慢?」
「不幸比べ?」
「だったらナッシュも入れてたもれ」
「ああ、彼を忘れたらダメでしたよね!」
「ううん、この四人はなかなかに甲乙つけがたい……」
むむむ、と本気で悩んでいるらしいシグールとクロスに、ジョウイは何やってんだかと溜息を吐いた。
「平和でいいのう」
「シエラ様は仲間に入らないんですか」
「あのような子供染みた話に加わるほどわらわは幼くない」
さっきナッシュ推挙してなかったですっけ、とジョウイは突っ込みかけた。
突っ込んだら雷が降ってきそうだったので何も言わなかったが。
「世間から見たら、あやつらの方がよほど「不幸」と称されそうな人生を送っておるがのう」
「…………」
「本人達が言わないのであればそれも良い」
「不幸は笑って話せる程度が一番なんですよ」
「もっともじゃ」
ではそんな笑える不幸を提供してやろうかのうとにたり牙を見せて笑うシエラに、勘弁してくださいとばかりにジョウイは逃げた。





62題目:畑(I)


雨上がりの畑は酷い。色々と。
「……うわぁ」
「今回はひっでぇな」
嵐が去った次の日、昨夜までの雨が嘘のように晴れ渡った空の下で、シグールとシーナは畑の惨状に思わず呟いていた。
本降りになる前に作物を保護するために被せたシートは、端を石で押さえておいたにも関わらず飛ばされてしまったらしい。
畑の上は石やら飛んできた木の枝やらが散乱して、苗木もいくらか潰れたり飛ばされたりしてしまっていた。
「なるほど、こりゃ直すのに人手も要るな」
「今日は暇人全員で畑仕事だねー」
「……それに俺も入ってるのか?」
「女の子追い掛け回す以外にする事ないでしょ?」
にっこりと笑みを向けられてはシーナは黙り込むしかなかった。

「収穫時期を終えたばかりだったから、被害はそれほど深刻じゃないけどね」
「しかし、先週植えたばっかの苗木が滅茶苦茶だ」
どことなく沈んだ声でルビィが倒れた苗木をひとつひとつ直しながら呟く。
そういえばルビィはたまにブラックマンを手伝っているのだったっけと思い出して、シグールはまあまあと慰めた。
「皆で手伝うし。苗木は埋めなおせば大丈夫だってブラックマンも言ってたしさ」
「……ああ」
「俺はこいつが畑を手伝ってた事にびっくりしたよ……」
「エルフは見かけによらないってね」
「……あいつもな」
ちらりと視線を向けたあちらでは、スタリオンが腰に鍬を巻いて乱れた畝を直していた。全速力で。
「……あれはいいのか?」
「いいんじゃない?」
「……慣れた」
慣れるほどやってるのかあいつは、とシーナは呆れた。
その間も三人はちまちまと苗木を植えなおし土を整え石ころや木の枝を取り除いた。





63題目:27の真の紋章(L)


「古今東西真の紋章ー」
「……なんだそりゃ」
「全体数が二十七しかない時点で終わりが目に見えてますよね」
「古今東西って大抵終わるのは目に見えてるだろ。山手線の駅とか」
「変なところから例を引っ張ってこないでよ」
「いいじゃんやろうよ暇なんだし」
「…………」
「五行」
「うわルックいきなり始めた!」
「しかもとりまとめやがった!!」
「……盾……剣とバラバラに答えた方がいいんでしょうか? やっぱり始まりでまとめた方がいいですか?」
「……始まりでいいよ」
「じゃあ罰♪」
「ソウルイーターもとい生と死の紋章」
「お前ら自分の宿してる紋章言っただけじゃねーかそれ……えーと、門」
「円」
「えっと、太陽」
「夜」
「月」
「竜」
「……覇王」
「獣」
「八房」
「え、なにそれ」
「湯葉のやつ」
「へえ」
「変化」
「それは?」
「シンダル族が持ってるってやつ」
「で、引斥」
「……これで全部か?」
「えっと……十五個? 一応今所在分かってるのってこんだけだっけ?」
「僕らが知ってるのはこれくらいじゃない?」
「あと十二個かー」
「……いやもうそこらへん突っ込むのやめようぜ……総数に始まり入れるのかとか、五行はひとまとめなのかとか、議論し出したらとまんなくなるから……」





64題目:交易(200after)


「うげ」
夜遅くに届いたらしい手紙を見て、シグールが潰れた声をあげた。
すでに寝支度を始めていたテッドが怪訝な顔で振り返る。
「どうしたシグール」
「……昨日、カモミールの値段決めたじゃない?」
「決めたなぁ。今年豊作だったから結構悩んで、これでばっちりとか言ってなかったか?」
「そうなんだけど……そうなんだけど……」
あああ、と頭を抱えてしまったシグールに、何があったとテッドの表情が曇った。

拡大を続けてきたマクドール家は、トラン国内の市場においていくつかの産物の価格決定権を持っている。
俗に言う独占市場というやつだ(それがいいかどうかはさておいて)。
「南の方のカモミール畑が、この間の大雨の土砂崩れで全滅したって……」
「…………」
「値段は引き上げとして、カモミール畑の人達への保証……イチから考え直しだぁ……」
うふふふふとどこか遠い目をして笑うシグールに、貿易商人も大変だなぁとテッドは労うように肩を叩いた。





65題目:逃亡(77:協力攻撃→70:ずっと一緒からの続き)


「……あの、お二人、もう消えていいデスカネここから」
「ダメですよこの戦争が終わるまではいていただかないと」
「あの……ならもうちょっと俺に優しくしてくれませんか……?」
「俺はクロス様に優しさをすべて傾ける所存ですので」
「真顔で言い切りやがったこのエセ優男!」
「俺は優男でもないですしフェミニストになりたいわけでもないですから」
「物腰だけ柔らかくて中身どす黒いってホントだなおい……」
「……とりあえず二・三発当ててさしあげましょうか」
「言ったの俺じゃないからな!?」
「俺が今聞いたのはあなたからです」
「まままままま待て! この話はすでに船内でとっくに有名だ! 俺が知ったのは遅いくらいだ!」
「本人に向かって言ったのはお前が初めてだがな」
「ハーヴェイ余計な突っ込みを!」
「そーれいきますよー」
「まままままままま待たないか待ちたまえ待とう待て!」
「なんですか」
「………あの、ええと、肉体は立派に少年で止まっておりますのでご存知のとおり耐久性がなくですね……」
「大丈夫です。急所は避けますから」
「おいクロスいい加減助けろ!! シグルドんこと真黒つったのは元々お前らだろうが!!」
「え、シグルドは黒が似合うよねってv」
「しらばっくれんな! もういい俺は逃げるそいで寝る!! 身代わりになれ言いだしっぺその一ハーヴェイ!」
「てめえあとで部屋に生魚大量に突っ込んでやるぅぅぅぅぅ!!!」
「生きてたらな!」





66題目:美少年(L)


「美少年攻撃って、昔ルックとフッチとサスケでやってたんだよ」
「お前の時? セノの時か?」
「セノの時。あの頃はまだ、僕らと同じくらいの身長だったよねフッチも」
「あれ、協力攻撃っていうよりただのしごきでしたよ……ルック、容赦なく後ろからばしばし魔法飛ばしてくるんだから」
「……らしすぎるだろ」
「フッチも大きくなっちゃって、美少年って感じじゃなくなっちゃったよねー」
「さすがに今「美少年」て呼ばれると恥ずかしいと通り越して情けなくなりますよ……」
「そりゃそうだ」
「でもそれを言うと、ルックも美少年って感じじゃなくなったよね」
「なんでだ? あいつはフッチみたいに成長とかしてねーだろ」
「え、だってルック、今は美少年じゃなくて美少女だもん」
「…………」
「…………」
「……納得はしたが、本人には言うなよ。絶対に」
「言ったら切り裂きどころじゃ済まなさそうです……」





67題目:風船(L)


「ロアン、セセナ、どうしたのそれ」
「アズミにもらったのよ」
「なんでもたくさん仕入れたからって、小さい子に配っておいでって」
「風船なんて久しぶりに見たかも」
「リアトはいつも見てるんじゃないの? 戦闘で」
「……うん、あれは風船だけど風船じゃないっていうか……」
「そうなの?」
「でも、色々な色があってかわいいでしょ」
「そうだね」

「――ひっ」
「あれ、ヒーアスさん」
「く、くるなっ!」
「ヒーアスさん?」
「こ、こないでくれ……それを持ってこっちに寄るな!」
「……え、えーっと」
「俺はもう空なんて飛びたくないぃぃぃぃぃ!!」
「…………」
「……ヒーアスさん、どうしたの?」
「うん……この間、ちょっとね……」





68題目:医師(L)


「さっきからなに作ってんだ? 薬じゃねーだろそれ」
「プラシーボ効果ってあるだろ」
「あー……偽薬か」
「そ。まあ多少は混ぜ込んであるけどな。最近不眠を訴える奴が多くってなぁ……。こういうのはあんまり続けて飲むと効果も薄くなるし、薬も簡単に手に入るもんでもないし。つーわけでちょっとな」
「で、効果はあるのかそれ」
「ああ、上々だな」
「思い込みの激しい連中だな……ああ、そういや昔そんな医者いたな」
「へえ」
「自称病弱の奴がいてさあ、そいつに小麦粉を薬って言って渡してた」
「…………」
「本人はそれを薬だと思って随分重宝してて、当時はアホかと思ってたけど、案外本当に効くもんなんだなあ」
「……小麦粉、だけか?」
「小麦粉百%だ」
「……すげえな、その医者も患者も」





69題目:外伝(200after)


「今日は面白いものを持ってきたよ!」
「帰れ」
「ちょ、なにその扱い!」
「あんたの面白いものはアテにならない」
「本当にとっておきだってば!!」
「この間それで群島とグラスランドの本を持ってきた前科があるだろうが」
「とっておきだったでしょ、あれも。そうそうお目にかかれないんだよ?」
「……お目にかかりたくない代物だったよ」

「シグール!」
「リーヤ、今日もいいもの持ってきたよー」
「やった!」
「……リーヤ、真実を知ってもまだ伝記が好きなの?」
「だって色々裏話教えてもらえるし。それに、クロスの伝記かっけーし」
「リーヤは素直でいい子だねえ」
「…………」
「今日はどんなのなんだ!?」
「今日も群島のなんだけどね。ちょっといつもと違うのにしてみたんだ」
「クロスの話じゃねーの?」
「『薔薇の騎士』っていう本でね。まあ、外伝みたいなものかなー」
「……シグール、それって」
「おもしろそー!」
「じゃあ向こうで読もうか」
「それってナルシーが主役のやつじゃ……って聞いてないし」





70題目:ずっといっしょ(77:協力攻撃の続き)


「楽しそうなお話ですね?」
「あ、シグルド」
「げ、脅威その二……」
「一と三は?」
「エレノアとフレア。出会った順だ」
「……脅威順だと?」
「どれも同じだろ」
「…………」
「なにやら記憶喪失とか喰うとか物騒な単語が聞こえましたが……?」
「そういう不穏なところだけ聞き取るなよ!」
「テッド、聡明なあなたのことですし、百五十年長じていらっしゃることに敬意を表しておきますが、クロス様になにかあった場合、俺はあんまり容赦できませんよ?」
「何かされそうだったのは俺であってこいつではない!」
「そうなのですか? クロス様」
「テッドが僕のことボコして記憶喪失にしてからおいしくいただくって……」
「……なるほど。クロス様、貴重な戦力を今ここで海にドボンはまずいですかね」
「回収はしないとまずいですね」
「では全部終わってからの処遇は俺に任せていただけますか? 大丈夫です、真の紋章を継承するようなポカはしませんので……ああ、でもあなたと生きれるならそれでもいいかもしれませんね」
「シグルド……」

※シグルドはわかってますので冗談です
※クロスもすべてをわかってノってます





71題目:ロミオとジュリエット(L)


「ジョウイとセノ?」
「えー普通すぎる」
「ジュリエットがジョウイでロミオがセノだけど」
「そこが予想そのものなんだって。湯葉とダナイとかどうよ」
「もちろん」
「「ジュリエットが湯葉で」」

「……なんの話をしてるんだ」
「今度「ロミオとジュリエット」をやるにあたって誰が配役に相応しいかだって」
「相変わらず実のない会話してんなあ……」

「テッドは誰がいいと思う?」
「そもそもロミオが男性でジュリエットが女性だろうが」
「そんな常識に捕われた配役じゃ、観客の度肝を抜けないじゃない」
「そもそも度肝を抜く劇じゃねえよ」
「僕らのイチオシはクロードとキルベスなんだけど」
「両方男だよなそれ。だいたい二人とも大人しく軟禁だの追放だのされないよな」
「だからテッドはどう思うのさー」
「……ライとセセナ、とか」
「…………」
「……妙に嵌っててなんかやだ」
「でも、確かにライはセセナが死んだって知ったらあっさり後追いしそう」
「それ以前に家名どうこうじゃなくて、セセナ連れて逃げると思う」

「ちなみに次点で思いついたのがウリュウとレンシィだった」
「あー……」
「……的確すぎて見てる方がいたたまれなくなりそう」





72題目:兄弟(V〜)


「ルックとササライ、似てないよね」
「いきなり何を言い出すかと思えば……だいたい、僕とあいつは厳密には兄弟じゃないし」
「ササライのがちょっと上なんでしょ? なら兄弟じゃない」
「……そもそも僕ら、ヒクサクと同じ固体として作られてるんだけど」
「そういう細かい事はどうでもいい」
「…………」

「ササライとヒクサクは似てるといえば似てるんだけどなー。あの二人は親子っていうより兄弟に見えるよね」
「あっそ」
「ルックはその妹? ルックだけなんでこんな女顔になったんだろうねー」
「……知らないよ」
「育った環境の違いなのかなあ。あ、でもルックとササライ、ここは似てるよね」
「なにが……」
「保護者で苦労してるとこ」
「……そこだけは同意してあげるよ」





73題目:姉妹(V〜)


「そういえば、レックナート様とウィンディって姉妹なんだよね」
「血はつながってないみたいだけどな」
「ウィンディって、シグールの時の……?」
「そ。黒幕」

「それで、レックナートとウィンディが姉妹なのがどうしたって?」
「二人とも門の紋章持ってるんだよね」
「表と裏だっけ」
「で、二人とも村を襲われた過去は同じなんだよね」
「復讐に走るか傍観に徹するか。見事に表と裏に分かれたよな」
「テッド、別にうまくないから。それ」
「…………」

「で、シグール。何が言いたいの?」
「もし立場が逆になってたら、僕、レックナート様と敵対してたんだよなーと思ってさ」
「…………」
「…………」
「……嫌だな」
「物凄く、嫌だね」
「……でしょ」





74題目:エレベーター(L)


「エレベーターに乗ってると、たまに思うことがあるんだ」
「なんですか?」
「エレベーターを動かしてる人って大変だなあって」
「……は?」
「だって、鉄の固まりに人が乗るんだよ? 物凄く重いよね」
「はあ……」
「それが綱で支えられてるって知った時も、落ちちゃうんじゃないかってしばらくの間ちょっと怖かったんだけど」
「…………」
「前にアレストとベアンが一緒に乗るのを見て、大変そうだなあって」
「……リアト殿」
「会ったらちゃんとお礼言いたいなあ……なに?」
「その話を誰から聞きましたか」
「シグール」
「とりあえず仕事が終わったらタッカのところにエレベーターの説明を聞きに行ってください」
「???」

「軍主に与太話を吹き込むなとあれほど言ったのに……!」





75題目:呪い人形(L)


「つかれたー……」
訓練と書類で忙殺されたジョウイは、濃い疲労をその顔に浮かべながら自室へと戻った。
部屋に戻っても、セノは今城に帰ってしまっているので一人きりだ。

王と王佐が長々と城を空けておくわけにもいかないので、定期的にセノはルックに頼んで城に転移させてもらっている。
……そういう日に限って、ラウロはジョウイをここぞとばかりにこきつかっているのは気のせいだろうか。

城にいる時より疲れてるのはなんでだろう、と本職よりも疲れる現状にちょっと嫌気を覚えつつ自室に辿り着いた。

真っ暗な部屋に灯りを入れて。

ベッドの上に置かれたあるものに目を引かれて。


ジョウイはそのままシグールの部屋に殴りこんだ。




「シグール、あんたはあああああああああああああああ!!!!!」
「見つけたらすぐ来るとは思ってたけどよ……今戻ったのかよ。遅かったな」
「ああそうだよ! ボロボロで部屋に戻ったらなんだよあれは!?」
「僕特製の抱き枕は気に入ってくれた?」
「どこからどう見ても呪いの藁人形だったんだけど!? しかも等身大!?」
「セノがいなくて寂しくないようにと思って」
「なんか胴体部分に釘が刺さって、赤いものが付着してたんだけど!?」
「セノの服も赤いよね」
「……それをセノに似ているで済ませるか」
「これで今夜はバッチリ安眠だね!」
「……明日の朝、目覚められる気がしない」





76題目:リーダー(II〜III)


リーダー【reader】
1 読本(とくほん)。特に、英語教科書の読本。

「…………」
「珍しいね、シグールが本読んで頭抱えてるなんて」
「……クロス」
「あれ、これ群島の本じゃない。シグール、群島の文字読めるんだ」
「辞書片手ならなんとかね……でも」
「この本は随分なまりがあるね」
「そうなんだよ! おかげでちっともわかんなくってさー……」
「辞書は方言までは網羅してくれないからねぇ」
「……ねえ、クロス」
「いいよ、わからないところは聞いてくれれば」
「ありがとうー……今晩は夕食奮発するからねー……」
「どっちかというと、秘蔵本何冊かルック用に借りていきたいなー」
「ちゃっかりしてるよ……」





77題目:協力攻撃


※リノとフレアの「親子攻撃」の失敗はリノの尻に矢が刺さります。

「い、いまワザと……」
「ほほほほほ。 いやねえ、そんなわけないじゃない」
「……僕、弓が下にさがってるの見ちゃっ」
「あら気のせいよ、ねえテッド」
「……お、おう」
「ほら、テッドが気のせいだって言ってるんだから気のせいよ」
「そうだよねあはははははは」
「……すいませんリノさん」
「ごめんねーお父さん♪」
「お……おう! 大丈夫だ! ミスは誰にでもあるからな!」
「……いいのかそれで」
「リノさんが気付いていないなら……」
「こんなんがオベルの次期女王なのか……」
「ほんっと頼もしいよね」
「……俺これが終わったら真っ直ぐ逃げるわ」
「……僕はこのまま手伝うって決まってるし……テッド、一緒に頑張ろうよ」
「却下。俺は二度とお前にもフレアにもシグルドにも会わずに生きたい。そして逝きたい」
「そんな寂しい事言わないでよ。せっかくの友人なんだから長生きしてさあ、たまには遊びにきてよ」
「絶対に嫌だ。そうだな、記憶喪失にでもなったら会ってやる」
「いいもん会いに行ってやるー。ついでに連れてきてやるもんねー」
「……喰らう勢いで逃げる」




78題目:船(L)


興味津々な表情で「船に乗った事あるんだって?」と聞いてきたリアトに、誰だ人の経歴バラした奴は、とテッドは溜息を吐きたくなった。
いや、船に乗った事があるくらいはバレて困るものでもないが。

とはいえ、テッドだって、放浪生活を含めてちゃんとした大船に乗ったのは、クロスとの一連のあれこれと……シグールのところに居候するようになってからは結構あったかもしれない。買いつけとかに付き合わされて。

「どれくらい大きいの? 寝たりとかできる?」
「ものにもよるけどなぁ……大きい船なら、ちゃんと個室もあってベッドもあるぞ。それこそ百人以上乗れるようなのもあったからな」
「百人!?」
「鍛冶屋から賭博場に食堂、防具屋……栽培室なんてものあったな」
それでキノコとハーブの戦争が起こったりもしていたが、それを言うとリアトが混乱しそうなので止めておく。
テッドもあれほど馬鹿馬鹿し……ユニークな戦争は後にも先にもお目にかかっていない。

考えてみれば、シグールについて何度船に乗ったりしても、あのクロスの船ほど奇抜なものはなかったかもしれない。
あれが本拠地だったと考えればどれも必要(一部不必要なものもあったが)な施設だったかもしれないが、商船には鍛冶屋や防具屋なんてなかったし。


リアトの脳内に描かれた船が果たして正しいものかは分からないが、目を輝かせているところを見ると、随分と感動しているようだ。
「すごーい……」
実はそれは石版の間でのんびりお茶している灰茶の男の持ち物なんだけどな、というのは心の中に留めておいて、テッドは笑顔で言った。
「その船にクロスも乗ってたぜ。あいつのが乗ってた時期は長いから、俺の知らない事も知ってるかもなぁ」
「そうなんだ!」
このままクロスに直行するであろうリアトに、はてさてクロスが自分の船をどう説明するかを聞いてみようかとテッドも一緒に付いていく事にした。





79題目:方向音痴(L)


「まず、地図を見ないんだ」
「見ても理解しないんだよね」
「右だと思ったら、北だとか南だとか一切関係なしなんだ」
「道を覚える時に方角じゃなくて方向で覚えるんだよね」
「その上間違える」
「曖昧にしか覚えてなくても感覚で進むから、立ち止まって考えるなんてこともしないんだよね」
「しかも自信たっぷりだ」
「おかげで知らない土地だったりすると、こっちも釣られて付いていって悲惨な目に遭うんだよ……」

「クロードとクロスが意気投合してるなんて珍しい組み合わせだね」
「なんでも、方向音痴の特徴について話してるみたいよ?」
「なんでまた」
「今日の遠征でキルベスが盛大に道を間違えたみたい。クロードが一緒じゃなかったから、キルベスが方向音痴って皆知らなかったのね」
「それはそれは……それでクロスは?」
「なんでも、お父さんが随分な方向音痴だったみたいよ」
「…………」

「地図持ってても見ないからね」
「見ろっつって見せたらどうなるか分かるか?」
「どうなるの?」
「逆さに見る。挙句の果てには面倒だって放り投げる」
「うわぁ……ああ、でもやりそうだなぁ」



「……テンプルトンが聞いたら怒りで卒倒しそうだな」





80題目:悲しい(?)


「悲しい時ー」
「「悲しい時ー」」

「誕生日を忘れられたジョウイの悲しみー」
「……僕だけ毎年忘れられるのってなんで」
「一人だけ時期が外れてるからじゃない?」
「前日まで覚えてるのにね」

「Lに出られなかったよヒューゴの悲しみー」
「……出ない方が幸せだろうよ」

「こつこつやってきた研究内容をぶっ飛ばされたルックの悲しみー」
「……なんの研究だ」
「水を被ると女に」
「ぶっ飛んでしまえ!」

「徹夜で書いた書類をぶっ飛ばされたシグールの悲しみー」
「書き直しを手伝わされた俺の悲しみー」
「…………」

「最近ジョウイがつれないセノの悲しみー」
「そんなことないよセノ! 今すぐにでも(がふっ」
「はい次」

「洗濯物が梅雨でうまく乾かないクロスの悲しみー」
「梅雨だからねぇ……」
「布団が干せない……」

「ビッキーに「ヒモ」認定されたテッドの悲しみー」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……おい、誰かコメント言えよ」
「……負けたよテッド」
「MVPは君のものだ」
「嬉しくねえよ! 否定してくれよ!!」
「「それは無理」」
「……orz」