幻水好きさんに108のお題。
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41題目:図書館(III〜)
「あれ、何読んでるの?」
「いろいろ……」
図書館の一角を陣取って本を積み上げ読み耽っているジョウイにシグールが声をかけた。
ちなみにここはマクドール家本家の書庫。
シグールが積み上げられた本を見ると、トランにおける経済の推移だとか各地の地理と収穫高の差異だとか、経済と農業関連のものが多かった。
もともとマクドール家は貿易を生業にしているから、それに関係して経済動向だとか生産に関する書籍も多くある。
ついでに建国以来シグールが集めたり、また直々に(あるいはテッドが)まとめたり調査したものもあるから、その精度と量と密度は保証されている。
「いやさ……今度デュナンで農業改革しようって話になってて」
「うん」
「トランでいい方法とかないかなーと」
「それで読み耽っていると」
シグールの問いに、本から目を話さずにジョウイは頷く。
「鍵貸してくれた人が貸出禁止って言われたし」
「……いや、僕に言ってくれれば貸すけど」
「は?」
「僕に直接言えよ……その辺の奴に言ったってダメって言うに決まってるだろそういう決まりにしてんだから」
あっきれたー、とシグールは首を左右に振る。
ここにある本を貸出禁止にしているのは、そうしておかないとあちこちから借り手が来てそのうち紛失とかしそうだからだ。
一応ここにあるのはここ百年以上のトランにおける生産の流れとかそういう重要なもので、ここにしかないものだってあるのだ。
かといって、それに当主までが倣う必要はない。
ここのルールを決めたのは僕。
ならば例外を作るのも僕。
「別に僕が把握できるくらいならいいよ、てなわけで好きなだけ持ってけば」
「いいのか」
「そのかわり、紛失したらそれなりの補償をしてもらう」
「……大切に借りさせていただきます」
42題目:冒険(III〜)
ひたひたと塔の廊下を歩きながら、小声でテッドは少し前を歩くシグールに話しかける。
「……マジでやるのか」
「だってこんなチャンス滅多にない……わけでもないけどなんか気分乗ったから」
「あいつらもなーなんで俺達いる時にやるかなぁ」
「まあノっちゃうもんはしょうがないよね」
「それに気付いて覗きに行こうとするお前もお前だ」
「付いてくるテッドもテッドだよね」
時は夜半、目指すはクロスとルックの寝室。
客室と階が違うから大丈夫だと高を括ってはいけない、ちょっと寝る前に遊びに行こうと覗いた寝室のドアの隙間から、なかなかにいい雰囲気の二人を見てしまって、シグールは慌ててテッドを呼びに行ったのだ。
世間で言う出刃亀のために。
「だってどんな感じなのか気になるじゃん?」
「明らかに甘ったるい気がする」
「ここは意外性に期待だよね」
「期待するところかねえ……」
気乗りしなさそうな受け応えをしているが、付いてくる足が止まらない時点でテッドも乗り気だ。
二人は足音と気配を殺して寝室にまで辿りつき、目配せをする。
視線だけで会話をし、そうっとドアの隙間を作ろうと手を伸ばし――
ばったん、と開いたドアに固まった。
「やあ」
「……や、やあルック」
「あれまだ寝てなかったの?」
「魂胆なんかミエミエなんだよこのバカどもがーー!!!!」
近所迷惑を考えなくていい立地で大声を張り上げ、ルックは室内で盛大に切り裂きをぶちかました。
最初のシグールが目撃した時点で気付かれていたのだと悟ったところで後のまつり。
43題目:野望(200after)
「今日の稽古はここで終了〜」
「……あ、ありがとう、ございました」
「リーヤ手当てしようか」
「相変わらず容赦ねーなぁシグール」
「容赦してたら強くなんてなれないよ〜」
「くっそー!」
「目標とか作ってみたら?」
「もくひょう?」
「こうしたいっていう、頑張るための願いみたいなものかな?」
「あ、ある!」
「一度叶えてみたい野望ならある!」
「なに?」
「シグールにいつかぎゃふんって言わせるんだ!」
「ぎゃっふん」
「…………」
「…………」
「シグール大人げなさすぎっから」
44題目:枕元(III〜)
「枕元……」
「いろんなものに立たれた事はあるけどね」
「あ、僕暗殺者さんがいたとかあります」
「危ないなぁ……」
「それなら僕もあるー」
「軍主は一度は通る道ってやつなのかな」
「見張りは何してるよって感じだけどね」
「寝室に戻ったらいた、とか」
「ああ、それってルシア?」
「はい。あ、でももっと怖かったものあります」
「何?」
「ナナミが水の入ったバケツ持って立ってたりとか」
「…………」
「そこまでで起きられればいいんですけど、だめだと最終的にはバシャって」
「セノ……」
「君どれだけデンジャラスな生活送ってたのさ」
「すっきり起きられますよ」
「……冬場はショック死しそうだね」
「にしても、『枕元に立つ』で思い浮かぶのって、幽霊とかじゃないのかね」
「でも見た事ないですし」
「まあねー。現実のが怖いってか」
「……あ、僕立たれた事ある」
「え、幽霊に!?」
「ううん。レックナート様に」
「…………」
「…………」
「いきなり気配がして起きたら枕元にぼおっといるからさ……変質者かと思ったよ……」
「それ、初対面ですか……?」
「うん」
「怖っ!」
45題目:U(III〜)
「当時はどこの動物園かと思った」
「……僕の時は人魚とかいたけど、それでもまだ言語通じるしなぁ」
「犬とかだけならまだいいとして……」
「ムササビにユニコーンに熊……」
「熊なんていたっけ?」
「いただろ、黄色いのが」
「…………」
「あれは言語通じたよ?」
「それは何か? ビクトールさんの事か?」
「…………」
「…………」
「共存の可能性を示した城だな……」
「いい感じにまとめたところで何も変わらないから」
46題目:運命(III〜)
「運命なんて嫌いだね」
「それに逃げ込もうとする奴はもっと嫌だけどな」
「自分の運命なんてものは自分で切り開くもんだ」
「最初から決まっている事なんてなにひとつないんだから」
「……そうですね?」
一人一人が思い思いの言葉を紡ぐ。
四人は決意を込めて、一人はちょっと小首を傾げて。
遠くから、確実に近づいてくる足音は、彼らにとって今は断罪の鐘の音だ。
立ち向かうか、頭を垂れるか、それとも。
「というわけで」
「というわけで?」
「逃げる」
「同意だ」
「……君達、言い残す事はそれだけ?」
カツン、と一際大きく靴音がした。
どす黒いオーラを醸し出し、米神に青筋を立てたクロスに追いつかれ、五人はごくりと喉を鳴らした。
怒らせると怖いとわかっているのにどうして怒らせずに済むようにできないのか。
それは悪ノリの賜物である。
「げ、クロスが来た!」
「散々散らかしてくれた塔の中全部片付けるまで許さないからね!!」
「ルック、転移!」
「さすがにちょっとやりすぎたかなぁ」
「僕までとばっちり……」
「クロスさんごめんなさい〜」
「一人差し出せばその人は怒るのは免除してあげる」
「うっわ仲間を売れと!?」
「とか言いながら僕の背中を押すなシグール!」
「お前らまとめて怒られてこい、僕の代わりに」
「ルック非道!!」
「……結局、皆で怒られると思うんです」
わいわいと手足の出る言い合いをしている四人に、セノがぽつりと呟いて、完全に追い詰めたクロスは笑顔で「そうだよね」と宣告した。
47題目:再会(II)
「心に残る再会?」
マイク代わりのペンを突きつけられて、シグールは首を傾げた。
どうやら城で定期的に発行されている新聞のコラムで載せるらしい。
期待の目を向けられて、ううん、とシグールは頭を悩ませた。
娯楽を求められているのか、それともここはお涙ちょうだいを求められているのか。
でも新聞って真面目さと同時に笑いがあってこそのものだしなぁ。
「じゃあ、こんなのはどうだろう」
にこりと笑ってシグールは、まだ本拠地での記憶も新しいであろう再会劇を口にした。
そして数日後、トランの英雄とその背中を守った二人の英傑との再会劇が、別れの一幕と再会時の周辺の証言とともに掲載され、いろんな意味で好評を博したらしい。
「うまい編集の仕方してるなぁ」とインタビューを受けた本人は感心していたけれど、その後ろでぐったりした青と熊がいたとかいないとか。
48題目:チンチロチン(L)
「もう一回やるからね、よく見てなよ」
「おう!」
「ここで、こうして」
「…………」
「こうで」
「…………」
「こうなるから……こう! わかった?」
「見てるとカンタンに見えるんだけどさぁ……」
「やってみ? 最初はゆっくりでいいから」
「……こーなって、こーで……こう!」
「うん、仕組みはそういう事。あとはもっと速く自然にできるようになるために練習するんだね。人目についたらアウトだから」
「わかった!」
「じゃあもう一度」
「おう!」
「……何やってんだ」
「リーヤがチンチロリンをやりたいっていうから、ルールとイカサマの方法を」
「――阿呆か!!!!」
49題目:ウィリアム・テル(L)
「よっ……と」
弓のしなる音がする。
矢が空気を切る音がする。
弦が戻り切る頃には、放たれた矢は木に生った林檎を地面へと落としていた。
「さっすが」
ぱちぱちとクロスは手を叩いた。
人間の技じゃない、というのは賞賛になるのか微妙だが、まあ、褒められているのだろう。
「それくらい上手なら、アレもできるんじゃない?」
「アレ?」
「ウィリアム・テルごっこ」
「ああ、あれか」
頭の上に物を乗せる仕草をしたクロスに、実際にやった事はないけどな、とテッドは軽く笑う。
「そういえばやらないね。やりそうなものなのに」
「あれは芸人の技だろ」
そう返して、テッドはまた弓を引き絞る。
またひとつ、林檎が落ちた。
「物に当てるって事では同じじゃない?」
「練習中に命を落とした奴だっているんじゃないか」
「手元が少しでも狂えば額に直撃だもんね。でもテッドくらいの腕があれば、外しそうにないと思うけど」
「外しはしないだろうな……手が勝手に狙いを逸らしそうだ」
「林檎じゃなくて?」
「林檎じゃなくて」
どこに、とはクロスは聞かなかった。
代わりに、テッドが拾った林檎をひとつ投げ受けて、服で軽く擦って齧った。
50題目:軍師(L)※本拠地襲撃戦後だと思ってください。
「軍師って馬鹿ばっかだよね」
「まったくだ」
「僕もそう思います」
「……珍しく三人が同意してる」
「セノまで言うとは珍しい」
「ま、あいつらの軍師も軍師だったからなぁ」
「献身的といえば聞こえはいいけどさー」
「合理性と効率ばっか重視しやがって……」
「自分が怪我したら心配する人がいるんです!」
「ああ、マッシュさんて確か……」
「シュウも馬鹿な策使ったしね。あの後珍しくセノがマジギレしたの覚えてるよ」
「……そういえばエレノアもなぁ……」
「エレノアってクロスの軍師だっけ」
「ああ。敵の親玉と砦もろとも」
「…………」
「これは僕らの教育もよくなかったんだよねきっと」
「イチから鍛えなおさないといけないかな」
「自分も大切にしないとってきちんと教えないとですね!」
「……ラウロ、トドメさされるんじゃない?」
「ま、今は無理して動くとこじゃないからなぁ。休めってあいつらなりの心配だろ」
「……で、ラウロが休んだ分の仕事は僕らにくるんですけどね? 一番元気なテッドサンが引き受けてくれるんですよネ?」
「…………」
51題目:憧れ(III〜)
「憧れの人物なんていないもんっ」
ぺいっと筆を投げ捨ててシグールが吼えた。
今度はなんだと様子を見にきていたテッドが机を覗き込むと、紙には誰からのものなのか、シグールに宛てての質問が書き連ねてある。
その半分ほどが埋まっていて、半分ほどが空欄だ。
……年齢のところはもちろん空欄。ある意味正しい判断だ。
「それ、なんだ?」
「今度トランで発行する国新聞に使うらしい」
「よく引き受けたな」
「シーナが勝手に寄越してきた」
「……なるほど」
で、何が憧れなんだ? と問えば、だってさとシグールは口を尖らせる。
「尊敬する人はいくらでもいるけど、「この人みたいになりたい」って人はいないんだもん」
「へえ。てっきり……」
テオ様みたいになりたいと言うと思った。
出かかった言葉を飲み込んで、テッドはだったらと違う名を口にした。
「……歴史上の人物にしとけばいいんじゃないか。それだったら、一般受けするだろ」
「そうだけど……」
「適当に答えときゃいいんだよと、何気に真面目に答えているらしいシグールに言ってやると、そんなもんかなとシグールはペンを持ち直した。
「でもあんまり変な人にすると僕のイメージが……」
「……もともとそんなに良くもないだろ」
「む。敏腕実業家に失礼な……あ」
「どうした?」
「いた。一人、憧れの人」
どうして忘れてたんだろ、とさらさらっとシグールが欄に書いたのは。
「…………」
「ね?」
「……もう、十分近づいてると思うが」
海を越えた女王国の、元女王騎士長。
52題目:腐れ縁(L)
「腐れ縁といえばリーヤとラウロでしょ」
「昔はどっかの熊と青マントだったけどね」
「さすがに時が経つと印象も薄まるよなぁ」
「何年になりますかね」
「リーヤがグリンヒル入ってからだから……もう十年? もっとになる?」
「よく飽きないよな」
「ずっと一緒ってわけじゃないしね」
「……少なくともハルモニアを出るまでは一緒だっただろ」
「途中からトビアスも一緒だったけど」
「あいつはつかず離れずだからなぁ」
「おかげであんまり遊べてない」
「……子供は遊ぶものじゃないと思いますケド」
「……とか話してるシグール達が一番の腐れ縁だと思うんだけど」
「まったくだ」
「六人とも二百年は一緒だろ?」
「ずーっとべったりってわけじゃないみたいだけど」
「気付くとつるんでいるだろう」
「俺が塔にいた頃は、なにかって遊びに来てたー」
「それはリーヤで遊びに来てたんじゃないのか?」
「…………」
「それもあるだろうがな」
「そこは否定してほしかった!」
53題目:いかないで(200after)
「んー……」
「あれ、起きちゃった?」
「……あさ?」
「朝だけど、まだちょっと早いかなぁ」
まだ半分目の開いていないリーヤにクロスは苦笑する。
まだ窓の外では、朝日が半分顔を出したかというところだ。
ルックが出稼ぎ(というと非常に切ないのだけれど、この塔の住人の生活費はルックが稼いでくるものが大半だ)に行っているので、昨晩はリーヤとクロスで一緒に寝た。
「まだ早いから寝てていいよ」
「……むぅ」
ぽふ、と上がりかけていた首が枕に落ちる。
その手がはしっとクロスの寝間着の裾を掴んでいて、クロスは困ったなぁと苦笑した。
「リーヤ、手、はなして」
「……やー」
むずがるように眉を寄せて、そのまま寝入りそうなリーヤの手を、無理に解く事はもちろん容易かったけれど。
今日はたぶんいい天気で。
ルックもいないし、朝食が少しくらい遅くなってもきっと問題ないわけで。
……レックナート様はお腹空いてたら外で食べてくるだろうし。
ま、いっかと思って、もそもそとクロスは久しぶりに二度寝をした。
54題目:仲間集め(III〜)
「僕はレオンかな。アップルもなかなかだったけど、使い勝手としては絶対レオン」
「……僕は……バドさんでしょうか」
「僕はトラヴィスだね」
「何の話してるんだ?」
「宿星の中で一番面倒だったと思う人」
「…………」
「ほんっと、何度手紙届けさせれば気が済むんだよあの男はさぁ……」
「紋章球がちょっと……」
「あの遺跡の奥に二度も足を運ばせた罪は重いよね。まぁ、彼のおかげで猫が増えたから少し情状酌量してあげるけど」
「やっすいなお前……」
「あ、ちなみにテッド。君もだからね?」
「へ?」
「テッド、そんなに仲間になるの渋ったの?」
「ううん、その時のパーティが強制でね。キカさんとリノ王。キカさんはともかく、リノさんは全然レベル上げてなかったからさ。僕とキカさんとシグルドで、船の奥まで突っ切ったよ」
「うわぁ」
「しかもその間、一緒にいるのにテッドはちーとも戦闘に参加してくれないしね」
「……時効だ時効!」
55題目:牧場(L)
「…………」
「どうしたの? そんなに見つめて」
「いやぁ、牛とか鶏とか羊とか、沢山いるなぁと思って」
「そうだね」
「一頭いなくなったらやっぱりまずいかなぁ」
「……クロス?」
「羊の香草焼きを作りたいんだけど、やっぱり一頭使った方が美味しく作れるんだよね」
「……ソドムに直接お願いしてみたら?」
「やっぱり無断はいけないか。OK出たら作るから、リアトも食べに来てね」
「う、うん……」
(あの子とかいい感じに太ってて美味しそうだなぁ)
(なんだか生きてるところを目の前に会話するのは気が引けたなぁ……)
56題目:料理(II〜III)
「料理は愛情だって言うけど……」
「それで済むなら……済ます事ができるなら……苦労しないよな……」
毎度毎度、ナナミの料理を前にこの世の果てを見たとでも言うような顔をしている友人達に、ジョウイとセノは申し訳ないと微妙な笑みを浮かべている。
基本セノ達がシグールやクロスのところに遊びに行く側で、シグール達が遊びに来る事は少ないので、ここぞとばかりにナナミが腕を振るうのだ。
それは決して悪い事ではないし、歓迎の証だともわかっているのだけれど。
そこで、一人フォークを進めていたクロスが言った。
人一倍の腕を持っていて、味の機微も分かるというのに、ナナミ料理を顔色ひとつ変えずに食べるあたり猛者だと思う。
「何言ってるの。愛情は2乗なんだよ」
「……意味が分からん」
「だからね。プラスの料理に愛情をくっつけると、2乗になるんだよ」
「はあ」
「だから、マイナスの料理にも同様にすると」
「……つまり、マイナスの値が更に増えると?」
「でも奇数乗ならプラスに変換できるんじゃ」
「だから「2乗」なんだってば」
わかった? とまるで生徒に物事を教える先生のような口調で言って、クロスは見た目はおいしそうな、その実生焼けかつ中に入っているナッツは皮付きなパンを口に入れた。
「……………………」
「……………………」
「納得できるけど」
「したくないな」
理解したところで、料理が美味しくなるわけではなかった。
57題目:目安箱(IV)
「クロス、なんだ? それ」
船内を見回っていたらしいケネスが、クロスが手に持っている大ぶりの箱に目を留めた。
木でできているらしい箱は、上の部分に小さな穴が空いている。
クロスはそれを手に抱えたまま、楽しそうに笑った。
「うん? 目安箱ってやつ」
「目安箱?」
「軍の皆の意見とか聞けたら面白いかなと思って」
「なるほど。いいんじゃないか?」
よく考えてる、と笑うケネスに、クロスは更に笑みを深めた。
……どことなく性質の悪い笑みを。
「それにね、面白い事が書いてあったら、いいネタになると思わない?」
「……脅すなよ?」
「あはははは」
ああ悪い癖が出た、と溜息を吐いたケネスに、クロスは楽しそうに笑うだけだった。
〜数百年後〜
「というわけでいいネタが沢山と」
「ほんと、皆遠慮なく書いてくれるもんねー」
「他言はしないけど、僕らの心にはしっかりと刻みこまれるしね!」
「目安箱なんて……っ」
「律儀に書くからだろ」
58題目:新聞(II〜III)
「前々から思ってたんだけどさぁ」
「ん?」
「新聞の隅にあるコラムって、何の意味があるの?」
「暇つぶし?」
「……身も蓋もない言い方だね」
「僕が乗ってた船でも新聞がたまに発行されててね。その時にもこういう隅に、コラムっていうか、まあ、短編小説みたいなのがあったんだけど」
「うん」
「ちまちま連載されるから、意外と気になるものなんだよ。続きが読みたくなる。そうすると、次の新聞も楽しみになるだろう?」
「購買意欲促進ってやつ?」
「僕らの時は壁貼りだったけど。でも、沢山の人に見てもらうきっかけとして、小説はいいんじゃないかな」
「なるほど」
「それが娯楽度の高いものだと尚更ね」
「じゃあ、新聞で新薔薇の騎士とか連載したら、売れるかな」
「……誰が書くのそれ」
59題目:逃げ足(L)
かつかつかつ、と神経質な足音は、立てている本人の気質を表しているのか。
それはある部屋の前で止まり、止まったと思った瞬間にはドアが壁に激突する勢いで開いていた。
容赦なく開かれたドアは、留め金がギイギイと嫌な音を立てている。
「!?」
中にいた数人が、ドアと壁のぶつかる音にびくっとして顔をあげた。
書類がぁぁ、と叫んだ者もいて、どうやら驚いたせいで、筆を滑らせて書類をダメにしたらしかった。ご愁傷様。
「ど、どうした?」
「……どこにいった」
「え」
「ラウロ。どこに行った」
「……ええと」
ちら、とリーヤはトビアスに視線を向ける。
トビアスは肩を竦めて、やれやれといったように首を横に振った。
「ラウロならさっき出て行って、まだ帰ってきてないですよ」
「ど、どうかしたの? ジョウイ」
「どうもこうも……次の遠征のメンバー! 及び遠征目的!! ふざけてんのか!?」
「資金繰りも立派なお仕事ですよ?」
リアトの隣で補佐をしていたササライがいい笑顔で言うが、ジョウイはふるふると震えている。
だからやめとけって言ったのに、とリーヤとトビアスは視線を合わせて溜息を吐く。
シグールやクロスの要望を取り入れたり、あと効率を考えたりすると、特に問題ない組み合わせだったけれど、ジョウイの精神的には確かによろしくないかもしれない。
期間結構長いし。セノいないし。
「たぶんここで待ってても戻ってこねーと思う」
「……だろうね」
オジャマシマシタ、といつになく刺々しい口調で言って、ジョウイは部屋を出て行った。
リアトはぽかんとしたまま、残り三人は仕方がないとでもいうように苦笑を浮かべる。
「ラウロがさっき出てったのは予測してだよなぁ」
「危険察知能力が高いというか」
「逃げ足が速いのは誰の仕込みでしょうねぇ」
ふふふ、と笑うササライが、一番的を射ていたようだった。
***
パーティ面子はお任せで。
60題目:親友(200after)
「親友暦二百年おめでとー」
「おう!」
「嬉しそうだねえ」
「目標は三百年だ」
「あと百年? またなんで」
「……お前、俺が「お兄ちゃん」探して三百年生きてきたの知ってるよな」
「散々からかったからね」
「つまり今年で、俺が「お兄ちゃん」……つまりシグールと出会って二百年経つわけだ」
「うん」
「でもその前に、俺は三百年生きているわけで」
「そうだね」
「俺の人生のうち、シグールと出会ってからの人生はまだ40%なわけだよクロス君」
「…………」
「せめて人生の半分! いや半分で済ますつもりもねーけど!! それっくらいの権利あるだろ!?」
「…………そうだね……君にはその権利があるね……(ほろり」