幻水好きさんに108のお題。

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21題目:狂気(I)


「一人殺せば殺人者だけど、百万人殺せば英雄になる、か」
「また物騒だな話だな」
「比喩の話だと思うけどね、本当に百万人殺したかなんて数えてないだろうし」
「実際無理だろそれ」
「剣や弓で殺せる数はしれてるけど」
紋章砲を使えば船一隻沈められる、たった一撃で数十人の命が消える。
手に宿る紋章を開放すれば、それこそひとつの島すら消せるほど。

「人を殺せと命令する事だって、間接的にだけど殺人にかわりないんじゃない?」
「そういうのを入れれば、百万人も不可能じゃないってか」
「うん」
「……そんだけ殺せば、世の中だって変革するだろうな」
百万人を殺した事が讃えられるわけではなく。
百万人を殺す事で変わった世界に人は歓喜する。

「かなり難しいと思うけどな」
「達成する前に死ぬか狂うか、ってとこじゃない?」

人を殺して最後まで生き抜いて、狂気を表に出さずにいられるものが、英雄と呼ばれるのかも。





22題目:本拠地(II〜)


本拠地、それは旗の下に集う人が寄りべとする場所。
生活が築かれ、拠点として重要な役割を担う重要な場所だ。
戦が終わればそこはすでに拠点としての役割を終えるが、新しい役目が待っている。

「で、自分のとこの本拠地に入るのになんでお金を払う必要があるんだろうね」
「お忍びですからー……」
セノが苦笑いを浮かべて言う。
ノースウィンドウは、統一戦争時の名残を元に街として見事に復興を遂げた。
その中でも本拠地として使われた建物の内部は、軍事機密に触れる部分を除いては一般閲覧が可能とされている。
ただし有料。

セノが身分を明かせば当然無料で入れるが、お忍びなのでそれはできない。
というわけできちんとお金を払って中に入ったわけだが。
「こちらが軍議に使われた広間で〜す」
案内係らしい女性の言葉はどれも自分達にとっては当たり前のもの(なにせ実際に使っていたのだ)で、つまらない。
今回はちょっと自室に残してきたモノを取りに来ただけなのに。
「次は屋上に行きますよ〜。最上階は軍主様のお部屋だったので、入室不可ですけど、お部屋の前まではいけますからね」
にこりと笑う案内係の女性に、困ったなぁとセノは呟いた。





23題目:謎(II)


「幻水最大の謎といえばジーンさんだと思うけど」
「そこに突っ込めるほど勇敢な奴はいないだろ」
いつものように暇つぶしで石版前に当然の顔をしているシグールとシーナに、ルックはもう突っ込み疲れたのか何も言わなかった。
言われないので二人の会話はどんどん続く。
「だよねぇ……リッチモンドも駄目だったみたいだし」
「調べさせたのかよ」
「セノがね」
「……あいつもある意味すげぇな」
「ま、結局分からなかったみたいだけど」
だからもっと身近な謎から攻めてみようよ、というシグールに、シーナは何があるだろうかと首を捻って考えた。
そこにぱたぱたとセノがやってきて。
「何のお話ですか?」
「面白い謎がないかなって」
「謎ですか……」
ぱしぱしと瞬きをして、セノは言った。
「シグールさんのバンダナって、左右でどうして色が違うんですか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「?」
シーナとルックの視線がシグールのバンダナに注がれ、シグールは無言で立っている。
セノだけが純粋に答えをもらえるのを待っていた。





24題目:戦闘終了(IV)


最後のモンスターが地面に崩れ落ちる。
その屍骸から鏃を抜いて、テッドは溜息を吐いた。
これで戦闘は終了した。
全てのモンスターが地に伏せ生命活動をしていないのは見るからに明らかだった。
けれどまだ、誰一人として刃を収めない。
「さて皆、もう一仕事しようか」
クロスの一声でめいめいが己の倒したモンスターに近寄り、そしておもむろに「作業」を開始した。
いいかげん見慣れた光景ではあるが、物悲しくなるのは自分だけではあるまい。
船ひとつ、そこに乗っている多くの人のための食材やら防具やら燃料やら紋章やらで金がかかるのは分かるが、モンスターから羽やら毛皮やらをひっぺはがす事までやらなければならないのか。
そんなに船の財政は苦しいのか。
……限りなく、軍主の個人的趣味というか性癖な気が。
「テッド、何一人ぼーっとしてるの」
あなたもやりなさいな、と王女であるはずの人物から叱咤されて、テッドは溜息を吐いて手持ちの小刀を抜いた。





25題目:T(II)


「……当時、山からはいよる粘液が消えたね」
「ああ……水の紋章片がほしいからといって……しばらくはあのぶよぶよを見るのも嫌だった」
「オデッサの事で最後までねちねちいわれ続けた……」
「お前のそれは自業自得だろ、最初にあんなつっかかったりするから」
「普通つっかかるだろ!?」
「ちんちろりんであれだけ巻き上げられたのは先にも後にもあの頃だけだぜ……今でもたまに夢に出る」
「ご愁傷さま……」

「あそこ、集まって何の話してるの? いやに顔が暗いけど」
「継承戦争の時にうんざりしたエピソードだってさ」
「…………」
「僕はあんたに連れまわされる事にうんざりしてたけどね」
「……あいつらもだけど、これは僕への挑戦と受け取っていいんだよねルック?」





26題目:石版(II)


「どうしてルックはいつも石版の前にいるの?」
「石版を守るのが僕の役目だから」
そっけなく言うルックに、セノは首を傾げる。
この石版が大事なものらしい事は分かるのだけれど、これだけ大きいと盗むのは大変だ。
それに広間の中央という人目につきやすい場所にあるこれを盗むとしたら誰かが見咎めるはず。
「……いや、盗まれるのとかはどうでもいい」
「どうでもいいんだ」
「よくないけど、たぶん。こんなのどうやっても盗めないだろうし。……それよりも」
言い終わるが早いか、ルックはロッドを振り下ろした。
それはルックとセノの膝辺りをこそこそと移動していた人物の頭に思いっきり当たる。
「いったーっ」
「何やってんのあんたは」
「……てへ☆」
可愛らしくウインクするシグールの右手には黒マジック。
それを認めた瞬間、ルックのロッドがもう一度きらめいた。
「危ないってルック!」
「何回落書きしようとすんだ! あんた三年前もやろうとしただろ!!」
「いいじゃん自分の石版だし」
「今回は違う!!」
「……つまりは、落書きされないように見張ってたってこと?」
頑張るなぁ、とセノがぽそりと呟いた。





27題目:いつもいっしょ(II)


ふと気付くと、いつも同じメンバーでつるんでいる。
大抵はそのうちの一人が石版の前にいるから石版の前にいることが多いのだが、食堂だったりそのへんの芝生の上だったり訓練所だったり、ひょっとしたところでも見かける。
彼らがいると、周りはなんとなくそっちに視線が行く。
なにしろ三人とも目立つから。
一人は三年前にひとつの国を倒してふらっと消えた英雄。
一人は絶世の「美少年」で見た目とは裏腹に魔法隊の隊長を担う風使い。
一人は隣国の大統領の息子で、良い悪い関係なしに噂のあるイロオトコ。
その三人がひとところに固まって、どつきあったり笑ったり(前者のが圧倒的に多いのだけれども)しているのだから目立たないわけがない。

「お前らって仲いいのな」
そう言ったら三人とも物凄く嫌そうな顔をしたけれど、傍から見たら十分仲がいいんだよ。

だって嫌いな奴となら、一緒になんて絶対にいないんだから。





28題目:砦(I)


砦の門の前で、小隊がひとつ悲痛な面持ちで立っていた。
完全装備を身にまとった隊長が、部下を鼓舞するように叫ぶ。
「いいか、ここが最後の砦だ。なにがなんでも死守するんだ!」
「た、隊長……俺にはできません……いくら、いくらこれが命令だからって……」
「マッシュ様直々のご命令だ、なんとしてでも……」
「なんとしてでも?」
「なんとしてでもシグール様をここから外に出さないように……ってシグール様!?」
逃さないようにときつくきつーく軍師に言われていた人物がいきなり隣の中に出現していて、隊長は思わず後ずさった。

「うーん、とうとう軍まで出してくるとは……マッシュも本気だな」
「シグール様……お、お願いですから大人しく戻ってください」
「ヤダ」
兵士達の哀願を綺麗さっぱり切り捨てて、シグールは笑顔で隊長に向けてのたまった。
顔は笑っているが目は獲物を狙う狩人と同じ目をしている。
だらだらと、戦場ですら滅多に味あわない寒気が襲ってきて、隊長はその場に膝をついた。

そして今日も軍主は見事、逃亡に成功する。





29題目:赤ずきん(I)


いつものように壁際に座り込んでいるクライブは、今日はちょっと寒いからか、日向にいる。
目を瞑っているのは考え事をしているからか眠っているからなのか見ただけでは分からない。
もっともそれを確かめようとする人は、本拠地ではほんの数人しかいないのだが。

「クライブ、ちょっとしたお願い聞いてくれるかな」
「……なんだ」
シグールの言葉に、クライブは静かに答えた。
どうやら起きていたらしい。
「何も言わずにこれに着替えてほしいんだ」
真剣な表情で行ったシグールが差し出したそれを、クライブは掴んで広げてみせる。
赤い生地は広げればフードマントのようだった。
まるでクライブが今着ているものと色違いのような。
「…………」
「ほら、これで赤ずきんちゃんv みたいな……オジャマシマシター!!」
無言でそれを見つめていたクライブが、おもむろにシュトルムを肩から外したのを見て、シグールは一目散に駆け出した。

「……着ろというから着ようとおもっただけなんだが」
着なくていいのか? と首を傾げるクライブが一人。





30題目:酒場(II)


くくくーっといい飲みっぷりでカップの中を空ける姿は歴戦の猛者を感じさせる。
しかしその外見は明らかに未成年。
真の紋章を持っている彼らにとっては外見など関係ないが……。
「シグールまだ未成年だよな。俺と同じ歳だろ」
「ちっ、ごまかされてくれないか」
「三年ばかしで外見と中身のギャップを語るなよ」
呆れたシーナとルックの視線を受けつつ、シグールは別にいいじゃないと新しい酒を注ぐ。

「だってお酒好きだしー」
「この歳でそれかよ……お前将来絶対酒太りすんぞ?」
「その分運動するから大丈夫だもんね。なに、レパントそんなにやばいの?」
「大統領になってから書類仕事ばっかりだしなー……って親父の事言ってるわけじゃねーから」
「明らかに本音が出てたけどね」
ルックが余計な茶化しを入れて、親父には言うなよとシーナが自棄気味に酒を煽る。
シグールはどうしようかなぁなどとグラスを掲げて笑った。

大きな声を出すわけでもないが、この三人が座っている席はなにかと人目を引いていた。
けれど近寄る者がいないのは、どことなく入り込めない雰囲気があるという事と。

「あ、タイ=ホーだ!」
「……な、なんだぁ」
「「「というわけでここはタイ=ホー払いで」」」
「三人揃って言うな! なんでそうなる!?」
近くを通りかかったタイ=ホーを捕まえて強制的に奢らせている三人の様子はさながら蟻地獄で、酒場の常連達は決して近寄るまいと今日も固く心に誓うのであった。





31題目:力を合わせて(III〜)


ある日デュナン王国第三部隊に指令が下った。
数日後、ノースウィンドウの南に現れる集団を捕縛し連行せよという、一見盗賊退治にも思える命だった。

上からの命令を疑う事などするわけがなく、装いを整えて向かった兵団が見たものは。

「なんだい僕らに手をだすのかい?」
先頭を歩いていた、赤い服の少年がにこりと首を傾けると、左右で色の違うバンダナの端が揺れる。
少年その他五名を認識した古株の兵士達は一瞬にして凍りついた。

「……なんで、彼ら、が」
「……シュウ様?」
まさか、とここで彼らは気付いた。
これは盗賊退治でもなんでもない。デュナンのトップの捕獲任務なのだと。
そしてそれにくっついているのは、トランの英雄。

「俺には家族と子供がぁぁ!!」
「鬼だ……やっぱり軍師は鬼なんだ……」
頭を抱えて戦意喪失している彼らに、まだ事態の把握をしていない新兵達は混乱していた。
そう、彼らはまだ春に入ったばかりで、この任務の過酷さを知らないのだ。
一度経験したらあとはもうこの任務が降ってくる度に自分達の不運を呪うしかなくなる。
盗賊退治やモンスター討伐の方がどれだけ幸せな任務なのかと身に刻み付けられる。

「僕も参戦しようかな」
「ええー、僕ひとりでいいのにー」
「なになに、うって出る?」
「僕もたまには混ざりたいですー」
「俺は見とくわ」
「……なんか、ここで見ているのも共犯ぽくていやだなぁ」
「じゃあ加勢してやれば?」
「あー……寧ろかばってあげる感じで?」
「ま、そうしたらお前には裁きとか飛んでくるだろうけどな」
「……みんな頑張れ!」

ジョウイ様あなた達の部下なんですけどね私達、と泣きたくなった。
あと自国の兵隊相手に嬉々として殴ろうとするのやめてください王様。
はらはらと涙を落とす古株とは逆に、新兵達は侮られたと思って憤っていた。
もうここは彼らに全てを任せよう。
これも試練だ。こうして自分達も強くなった。
誰もが一度は通る道だと、古株達は使命感に燃える若き兵達をさくっと見捨てた。





32題目:いってきます(31の続き)


死屍累々。
まさにその通りだなぁとジョウイは思った。
いや、さすがに致命傷とかはないと思う。

毎回毎回セノとシグールを連れ戻しに来る度に兵士達は大変だと思う。
その度にこの事態なのだから……どうやら実地訓練も兼ねて送り込んできているらしい事は、捕まえに来る兵士達のローテーションっぷりで分かっているが。
そして毎年この時期の捕獲騒動は、新兵が真っ先に餌食になる。


『この手加減っぷりが懐かしいよね』
『あ、しまった。セノ、そっちに威力五割な切り裂き飛んでったからよけて』
『はーい』
ルックの放った手加減バリバリの切り裂きをセノが避け、その先にいた古株達に直撃した。
そこからは傍観者も何もなくなっての大乱戦。
結局面倒になったシグールがクロスと一緒に最大限手加減した焦土をぶっ放して、現在に至る。

効果範囲から逃れた運のいい古株達が、顔を引き攣らせながらこちらを窺っているのを見てジョウイは苦笑した。
「悪いけど、頑張って連れ帰ってね」
「一緒に城まで戻ってください!!」
「えー」
「お願いします! じゃないと宰相が……宰相が……」
悲愴な顔をしている彼らにさすがに良心が痛む。
が、ここで情に負けて帰るとシュウにとっ捕まってこっちが地獄を見るのでジョウイは視線を逸らした。
「……ごめんよ」
「あんまりです王佐!!」

「なんていうか、毎度の事ながらドラマみたいだよね」
「いいんじゃない。見てる方はそれなりに面白い」
「今回も僕らに勝てなかったから、休暇延長でよろしく!」
勝てって言う方が無理なんですよと絶叫した兵士達に片手をあげて、シグールはにこやかに告げた。
「それじゃ、いってきまーす」

今度は群島の方にまた行こうかなどと嘯く彼に、兵士達はさめざめと涙を飲んだ。





33題目:ただいま(たぶん32から続いている)


「…………」
「おかえりなさいませ、国王陛下」
「た、ただいま……シュウ」
絶対零度の笑みを浮かべるシュウを前にして、セノは涙目になりながらシーナをちらりと見た。

「聞いてないよ」と雄弁に語る目を見ないフリをしてこっそり部屋を出たシーナに、一緒に出てきた、ここでは部外者のテッドが突っ込む。
「最初からそのつもりだったのか?」
「あーいや……シュウがいるのは予想外。親父からシグールを連れて帰って来いとは言われたけど」
「あの手腕は見事だったけどな」
シグールがほしがっていた品物と上等な酒をちゃっかり手に入れて、それをダシに呼び込む作戦。
物で釣れるあたり単純だと思うが、シグールを釣れる品をゲットする腕と、シグールをして素直に聞き入れさせる手腕は素晴らしいものがある。
そしてシグールは現在、それらを御褒美に、レパントの小言を聞いていた。

「あー……年季の差? それなりに付き合いは長いし。濃さじゃ負けるだろうけど」
にやりと、しかし相手が不快にならない笑みを浮かべて言うシーナに、テッドは苦笑するしかなかった。
「こういう仕事とか面倒かもしんないし、あんま戻って来たくもないかもしんないけどさ。たまには顔見せるようにしてくれよ。その内嫌でも戻って来たくなくなるだろうしさ」
「…………」
その言葉の意味を理解していたので、テッドは素直に頷いた。
「そうするよ」
「よろしく頼むわ」
じゃ、俺は酒盛りの準備しとくから、終わったら連れて来て。
場所はマクドールの屋敷でいいと告げて部屋を出て行ったシーナと分かれて、シグールの迎えに行きながら、いい友人持ってるじゃねーかと小さく口笛を吹いた。





34題目:さようなら(L)


「ああ、これでとうとうお別れか」
「こんな結果になってしまったのは残念ですが」
「逃れようと思って逃れられるものでもないしね」
「せめて笑顔で送ってあげようじゃないか」

「「頑張って死んでこい☆ ジョウイ」」



「いやいやいやいやいやいや!?!?」
「ジョウイ……ジョウイなら生きて帰ってきてくれるって僕は信じてるから」
「セノまで何を言い出すんだい!?」

「遠征についてくくらい引き受けてやれよ」
「遠征のメンバーが明らかにおかしいだろ! そもそもなんでメンバーにリアトがいないんだ!?」
「そりゃあ、今回はモンスター退治とかシナリオを進めるのが目的じゃないからね」
「そうそう。単にストレス解消だから」
「…………」
「けどメンバー的に、護衛つけないとまずいし?」
「万が一のために万全のメンバーにしておきたいじゃないか」
「……それで、どうして僕が」
「じゃんけんで負けたからだろうが。ぐだぐだ言うな」
「へぶっ」


「いい加減出発するぞ」
「久々に思いっきり暴れてもいいんだよな!」
「後始末とかは引率者がなんとかしてくれるだろ」
「たまにはつきあってやるのも悪くないのう」
「…………」


***
ストレス発散メンバーのお目付け役ジョウイ。
ラウロ・リーヤ・トビアス・シエラ・湯葉です。
ある意味とっても死亡フラグ。





35題目:城主(III)


「僕、今まで天魁星がイコールで城主になるもんだと思ってたよ」
「あながち間違った認識じゃなかったと思うんだがなぁ」
たかだか四つ程度の前例しかないが、歴史と年数と紋章の数からして、そう少ないものではないだろう。

ある時は船。
ある時はシンダルの遺跡。
ある時は古城。
ある時は朽ちた町の館。

それら全てが、真の紋章を宿す者を主とした場所となっていた。
が、どうやらここでは少々趣が異なるらしい。

城主はぱっと見冴えない青年で、実質的に軍を統率しているのか、カラヤの民の少年だ。
どちらが優位というわけではないが、城を持つ者と軍と束ねるものが違うのは少々もの珍しく感じた。
「城主としてはしっかりしてんじゃね?」
「そうだねぇ。結構きっちりしてるもんね……特に、金銭に」
まさかヨソからの宿泊者の宿代と食費に備品代が上乗せされてるとは思わなかったよ。
食事をつつきながら、この城の財政状況を鑑みてクロスは苦い笑みを浮かべた。
もちろんこの問題は城主兼軍主が抱えるべき問題として、共通のものだったけれど、ここの場合は軍事費ではなくて完璧に城の修繕費らしいから、同情に値すると、思う。





36題目:美少女(L)


「美少女……」
「美少女ねえ……」
「……文句があるなら直接言ってくれる?」
「いえいえ文句なんてないないですヨ」
「傍から見れば紛れもなく美少女だもんね」
「あ、この間、また兵士から告白されてんの見たぜ」
「うっわぁまた命知らずな」
「なんだかんだで後を立たないよなー」
「ルックはクロスとらぶらぶなんだから、他なんて目に入るわけないのにねぇ」
「ルック、ちゃんと断ってんのか?」
「……問答無用で切り裂き発動してるけど」
「あー……てことは、誤解といてないの?」
「ほんとは男だって言わないと、いつまで立っても誤解持たれたまんまだぜ?」
「ま、言われたくらいじゃ信じられないけどねー」
「断るための方便だって思われるかもな」
「女の子にしては胸ないけどね」

「……あんたたち、そろそろ真面目に死にたい?」





37題目:宿屋(I)


「最近こんな投書がきましたー」
「……別に知りたくもないんだけど」
「かわいこちゃんからの投書か?」
「残念。各地の宿屋経営者からの連名です」
「…………」
「……なんの投書なんだ?」
「『国内で宿屋の宿泊代は統一すべきだ!』だって」
「……その心は」
「安いところばっかり使って高いところには来てくれない、だそうな」
「そりゃ安いところのがいいだろうさ」
「でもよ、近くに他に宿屋がなければ高くても使うだろ?」
「僕らは手鏡とルックのテレポートで本拠地か安いところに飛ぶけどね」
「ああ……」

「つまりは御用達の看板が使えないってわけか」
「どうでもいい内容だよねほんと」
「うちの軍は宿泊費をケチるほど貧乏なのか……」
「そうだよ。知らなかった?」
「…………」
「十ポッチでも切れるところから切るよー。塵も積もれば山となる。冬を乗り切るための城の修繕費のため!」
「……石造りだからね」
「穴だらけだしな……」





38題目:朝(I)


「ちゃーらーららったったったちゃーらーららったったったー♪」
「……朝から煩いよ」
「面白い体操を教えてもらったからやってみた」
「あ、そ」
「朝やると清々しい気分になれるんだって! しかも結構なウォーミングアップになるから、訓練前の運動にも最適!!」
「それはいいけどさ……今何時か分かってる?」
「まだ暗いね」

「鶏よりも早い時間から大声で歌ってんじゃないよ!!」

※本拠地の目覚ましはラジオ体操。





39題目:親子(IV)


「フレアは母親似?」
「どこから見てもそうじゃねーか?」
「髪の色だけはリノ王譲りのようですが」
「そうね、母は茶色がかってたから。でも顔立ちは私よりもうちょっとおっとりしてたかしら」
「それはフレアの顔立ちがキツいって――」
「なぁに?」
「ナンデモアリマセン」
「……テッド、余計なツッコミはしないの」

「しかし、性格の方はリノ王に多く似ていらっしゃるかと。責任感の強いところなどは特に」
「それは王女として当然の事だわ。でも私は父と違って仕事をサボったりはしないわよ?」
「ある意味今はサボりじゃないのか?」
「今は軍主様のお相手のお時間よ。クロス、おかわりいただけるかしら」
「ん、わかった」
「……軍主に茶を淹れさせてるのにか?」
「まあ、息抜きには違いありませんよ」





40題目:全滅(III〜)


「……僕はもう無理だ」
「俺もこれ以上はね……」
「さすがにこれは……無茶だろ……」
「ごめんなさい……」
「…………」
「僕もちょっと、ギブアップ、かなぁ」

「……誰かお茶飲む人ー」
「「はーい」」
「あ、ケーキあるよ」
「当分補給すっか」

「書類に茶ぁ零すなよ」
「さすがに今それやったら泣ける」
「右手が震える……」
「こんだけやってまだ終わらないとか、どんだけあるのさ」

「――あなた方がしでかしてくれた所業についての始末書の山ですが、なにか?」

「「なにもございません」」