「いきなり帰ってこいとかなんなんだ……」
旅先に届いた一通の手紙に急ぎラウロに戻ることになったリーヤは疲労を隠し切れない表情で呟いた。
というか、どうして滞在している先が分かったのか。
毎度届くシグールからの手紙のそこについてはあまり深く考えない方がいいんだろうと考えを打ち切って、リーヤはラウロの家のドアを叩く。

「……よう」
「ひ、ひさしぶり」
家主に不機嫌全開で出迎えられて、リーヤは顔を引き攣らせた。
次いで室内に溢れる花の数々に目を丸くする。

「どしたのこれ」
「全部お前用だ」
人の家を物置にしてくれるな、と苦虫を噛み潰すような顔でラウロは言うが、リーヤはまだ理解できていない。
なんでリーヤ宛だというそれらがラウロの家に届くのか。
いや、たしかにリーヤに定宿はないけども。
シグールが手紙を寄越したと考えると、送り主は。

「えーと……なんなんだこれ」
「知るか」
床に置かれた鉢植えに植えられているのは、小さな緑の葉が寄り集まって大きな葉を形成している緑だけのもの。変わった形をした大振りの紫花弁を開いたもの。
机の上には小柄な白と桃色の蕾をたくさんつけた鉢と、オレンジ色の花弁に黄色の筋が走っている大降りの花が生けられた花瓶が置かれている。

亡羊とそれらと見ていると、ラウロに何かを投げつけられて、リーヤは呻いて額を押さえた。
なんだと思えば床に転がったのは松ぼっくり。

「……なんで松ぼっくり?」
「それ全部、誕生日の贈り物だぞ」
「は」
一瞬息を止めて花の鉢達を見やる。
それぞれの鉢に刺さっているメッセージカードのうち、葉だけのものに刺さっている一枚を手にすると、シグールの文字で「ハッピバースデー!」と簡潔に書かれていた。
おそらく他のも、それぞれの人からのメッセージが書かれているのだろう。

紫花の鉢に刺された鉢のカードを取って、開かないままじっと見つめる。
「……クロス達からのも、あんの」
「ちいさな鉢と、それだな」
「そ、か」
「見ないのか」
そのまま開こうとしないリーヤにラウロが声をかけると、ゆるゆると首を横に振った。
「今見たら、顔見たくなるから見ない」
「……そういうところは親子だな」
「へ」
聞き取れなくて聞き返すと、ラウロは呆れ顔のまま人差し指をリーヤへと向ける。
「ちなみにその松ぼっくりは俺からのだ」
「これ一個!?」
いくらなんでもあんまりだ、と叫ぶリーヤに今度は全力で何かが飛んできた。
さっきよりもいい音がした気がする。

ピンポイントでおなじ場所にぶつけられて、うずくまったリーヤの目の前にころんと黄色い結晶が転がる。
「この間交易でいいのが出回ったからな」
「おお、きっれー」
小さな粒だけれど、薄く向こうを透かす色は不純物も少なく、上等な琥珀だった。

「サンキュー!」
「ああ」
すでに加工が済んでいるそれをうきうきと剣の柄に括りつけたリーヤに、さてこの鉢植え達をどうさせようかとラウロは考える。
後に残らない方が今のリーヤにはいいだろうと生花を選んだのだろうが、その世話を果たして誰がするのか。
……まぁ、リーヤにやらせればいいか。


「自分の誕生日プレゼントの面倒はきっちり見ろよ」
「お、おう?」






***
家出中のリーヤの誕生日。

シグールはアジアンタム。花言葉は「無邪気」「繊細」
クロスとルックはクリスマスローズとジゴペタラム。花言葉は「私を安心させて」と「あなたを信じる」
セノとジョウイはアルストロメリア。花言葉は「未来への憧れ」「援助」

ラウロは松(琥珀)。花言葉は「不老長寿」「同情」「向上心」「慈悲」……どの意味で渡してるのか果たして。
ちなみに琥珀の宝石言葉は「社交性」「人間関係」。「人間関係」(二度言う