その日はいつものように起きて、仕事をして、ご飯を食べて、仕事をして。
お風呂に入って寝室に戻ったところで、ちょっと違う事に気がついた。

「お疲れ様、セノ」
「どうしたのこれ」
寝室のドアを開くと、ジョウイが夜のティータイムの準備をして待ってくれていたけれど、机の上にあったのは、お茶だけでなくいくつかのプレゼントと思しき包みだった。
心なし、お茶の準備も豪華だ。

ジョウイに尋ねれば軽く両手を広げて肩を竦めた。
「さっきクロスが来て矢のように準備して去ってった」
たまには二人っきりにしてあげる、とウインクを残していったのは心遣いとして感謝すべきなんだろうか、と苦笑する。

お祝いの言葉は後日改めてだって、と聞きながら、残された包みをひとつひとつ丁寧に開いていく。
透明な瓶に入って黄金色のリボンがついているのはシグールとテッドからだろうか。
こっちの白い小壷に入っているのは茶葉っぽいので、ルックかクロスな気がする。
「こっちのは香水はシグールとテッドから。クロスからはこのお茶」
茶葉はまだこっちにあるよ、と白い小壷を示される。
予想通りの内訳に頷いて、差し出された湯気の立つ茶を受け取った。
少しだけいつもと違う香りのするお茶は、何かがブレンドされているのかわずかな苦味があるけれど、ほっこりとする味だ。

「ルックからはこれだって」
お茶を飲んで一息吐いた頃に渡されたのは一冊の本で、ちょっと顔を引き攣らせる。
「これならセノでも読みやすいだろうから頑張れってさ」
「が、がんばる……」
苦笑気味に言うジョウイに本を受け取って頷く。
ルックからの
そもそもルックが手ずから誰かに本を選ぶのは珍しい。
相手がセノの場合、普段読む本と難易度もジャンルも違うから、ルックにとってもかなり難易度はあがるだろう。

重厚な表紙をめくると、白い小さな花を箔押しした栞が挟まっていた。
「あ。かわいい」
くるくると栞を回し見て小さく笑む。
「気に入ってもらえてよかった」
「これ、ジョウイの?」
「そ。ちゃんと使ってね」
暗に本を読んでねと言われているようでぺろりと舌を出して笑いつつ、お茶で濡らしたりしないように本と一緒に脇に置いた。
「……てことは、その花は?」
シグール達と一緒に持ってくる他の心当たりに首を傾げると、ジョウイが小さく笑って答えを教えてくれる。

「これはササライから」
ずっと机の中央に置かれていた、白い籠に入ったミニチュアブーケの贈り主に、セノは目を瞬かせる。
「ササライから?」
「頑張って育てました、だってさ」
渡されたメッセージカードには、セノを祝う言葉と共にそのままの文字が一緒に入っていた。
細いシルバーリーフに、白と濃紅色の二色を合わせた小さな花は、日照と温度を考えるとハルモニアで咲かせるにはなかなか苦労するだろう。

「…………」
「……セノ?」
「……どうしようジョウイ、すっごく嬉しい」
「よかったね」
こくこく頷くセノに、ジョウイの頬が少し引き攣っていたのは秘密だ。



***
ジョウイはスミレ(白)。花言葉は「無邪気な愛を」「誠実」
シグール、テッド、クロス(+ルック)、はコブシ。花言葉は「歓迎」「友愛」
ササライはパンジーゼラニウム。花言葉は「あなたを深く尊敬します」

この花言葉だけでセノ嬉しいよね。
ササライは一人勝ち。普段もらえない分嬉しさ倍増。