「これはあなたの花ね」と言われたのを小さな頃の記憶で覚えていた。
紫色の小さな花がいくつもついたその束を花瓶に挿して、母親が笑っていた。
いつか素敵な人を見つけた時に送りなさい、なんてまだ恋のこの字も知らないような子供相手に楽しげに。
誕生日の祝いの席に置かれた青は、色あせた記憶の中でもなぜかずっと鮮やかに残っていた。
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「テッド誕生日おめでとーだよん」
部屋でソファに座ってのんびり本を読んでいたら、シグールに祝いの言葉と同時に頭に何か被せられて、テッドはずり降りてきたそれを手で受け止めた。
ばら、と膝の上に落ちる青い花びらに目を瞬かせる。
「なんだこれ」
「花冠。知らないの?」
「それくらい知ってるっての。なんで花冠?」
「……誕生日プレゼント」
馬鹿にするなとそのまま首に手を回してくるシグールの腕を軽く叩いて、輪に編まれた花の種類に目を細めた。
毎年なんだかんだでいらないと言っても凝ったプレゼントを渡してくるこいつが、今年は花輪ひとつとは考えにくい。
誕生日を忘れて慌てて作った……というには丁寧に編まれている、というか。
「お前。花輪とか作れないだろ」
{つ、作れるようになったんだよ! クロスに教えてもらったから」
「ほう」
やはり慌てて、というセンは消えた。
わざわざクロスに習ってまで、この花輪を作りたかったのかと言葉を濁すシグールに生返事をして、青く小さな花を撫でるように擦ってみる。
ぱらぱらと簡単に落ちてしまって慌ててやめたが、ふわりと鼻をくすぐる匂いは優しい。
「いい匂いでしょ」
「そうだな」
一旦花冠を膝に置いて、シグールの腕を首から外させる。
こっちこい、と自分の隣を示して、シグールが隣に座るのを待ってから尋ねた。
「で、マジでこれが誕生日プレゼント?」
「そう。だ、よ?」
「まぁクロス達は別に用意してるだろうからそれは置いといて」
「…………」
にやにやと笑いながら、テッドはシグールの頭にもらったそれをぽすりと乗せた。
「『永遠にあなたのもの』だっけ?」
「っ、……知ってたの!?」
「自分の誕生日花の花言葉くらいは知ってらぁ」
「絶対知らないと思ったのに! テッドだから花に興味ないと思ってた!」
「お前俺をなんだと思ってやがる」
クロスがテッドは食べられないものと生きるために不要な知識は割と頓着ないよって言ってたのに、と足で床を鳴らすシグールに、テッドはおい、と半眼になる。
たしかに優先度は低いが、最近は結構豆知識系にも精通してるんだぞ。暇だし。
とはいえ、花言葉はもっとも薄い分野のひとつで(効能とか食べられるかとかそういうのは万全だが)、知っているのは偏に「自分の誕生日花」であるからだ。
くそう、と花冠を被ったまままだ悔しがるシグールに、さて、とテッドは首を傾げる。
「単純に誕生花だからくれたのか、それとも花言葉の意味も含んで考えていいのかどっちかね」
「……深読みはよくないよテッド」
「花ひとつで誕生日祝い終わりとかねぇよなぁ?」
「…………」
口を尖らせて抱きついてきたシグールに、プレゼントがしかめっつらってどーなんだ、と苦笑をもらした。
まぁそんな甘い空気はパーティ会場の準備ができたというルックによってぶち壊されるわけだが。
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9月3日の誕生花:ブルーサルビア
ある意味プロポーズなんですけど甘すぎて死にそうになりました。
テッドが報われてるだなんて……!
花言葉でも1年通せたよなぁ、と思ったのは後の祭り。