その日はいつもよりずっと早くに目が覚めた。
クロスの誕生日の日に自分の誕生日を決めてもらってから一年間、ずっと楽しみにしていた日がとうとうやってきた。
太陽が低い時間に目を覚まして、もぞもぞと布団を這い出る。
クロスの姿はもうないけれど、ルックはまだ眠っていたので起こさないように部屋を出て階段を降りていけば、ていつもの部屋からいい匂いが漂ってくる。
「クロス!」
「リーヤおはよう。今日は早いね」
朝食の準備をするクロスに抱きつくと柔らかな声で返された。
更にはすでに朝食の準備が乗っていて、もういつでも食べられそうだ。
「だって今日、俺の誕生日だし!」
「そうだね。お誕生日おめでとう、リーヤ」
準備を終えたのか、調理道具を置いてリーヤを抱えあげたクロスに抱きしめられる。
そのまま頬ずりされて嬉しげにリーヤはクロスの首に抱きついた。
「ルック起こしてきてくれる? 今日は午前中からシグール達もセノ達もくるらしいから」
「うんっ!」
床に下ろされたリーヤは今しがた出てきた部屋を目指して階段を上る。
その途中に、珍しい姿を見つけて足を止めた。
「リーヤ、おはようございます」
「レックナート様?」
こんな朝早くにレックナートが起きているのを見るのは、ここに来て一年経ってもほとんどなかった。
いつも夜遅くまで星を見ているようで、朝日が昇る頃に眠る生活をしているようで、だから今頃は眠りの世界だと思っていたのだけれど。
リーヤが目いっぱい疑問符を浮かべているのに気付いたのか、レックナートはくすりくすりと笑って言う。
「こんな日くらいは起きておかないとと思いまして」
緩やかにほほえんで、レックナートは腰をかがめてリーヤの頭に手を乗せる。
「今日はリーヤの誕生日でしょう。私もおめでとうを言いたかったんですよ」
「へへっ、ありがと!」
「これは私からの心ばかりの贈り物です」
両手に持たされたのは、透明な玉だった。
丸くて向こうが透けて見えるのは綺麗だけれど、何に使うかはさっぱりだ。
不思議そうにレックナートを見ると、彼女はふふふと微笑むだけでこの玉が何なのかは教えてくれなかった。
「ルックを起こしに行くのでしょう」
「あ、うん! レックナート様ありがと!」
「大切にしてくださいね」
初めての誕生日プレゼントを大事そうに抱えてルックを起こしに行くリーヤの小さな後姿を、微笑ましげにレックナートは見守っていた。
***
もっと家族でらぶらぶとか思ってたけどレックナート様が起きていて祝ってくれるとかすごいレアだよねという話。