国を建てる、というのは一口で語りきれるような事ではなかった。
零から起こすわけではないにしても、ほぼほぼ更地に等しかったこの国に体裁を取り繕わせるだけでも向こう数年以上はかかるだろう。
本当に大変なのは終わってからだ、と先人達は言ってくれたがそれは全くの事実で。
これなら戦っていた頃の方が寝れてた! とリーヤはぼやく始末だ。
「ラウロさん」
考え事をしながら書類を片付けていると、横から声をかけられる。
「……ん? なんだリーズ」
「今日はもう休んでもらっていいですよ」
「は? いや私は仕事が……」
兄弟が寝室に引っ込んでからも仕事をするのが常である。
今日もその予定だったので、いきなりそんなことを言われて驚いた。
「ラウロ、今日はもういいの。おしまい」
兄に続いて弟の国王までそんなことを言う。
本人は机の上に紙を広げたままなので、休む気などなさそうだが。
「しかし明日の」
「命令。ラウロは今日から明後日の朝までお休み! なの!」
命令なの! と言われてラウロは眉を寄せる。
今日はもう休め、ならばともかく明日は完全に休めとは。
この国王がラウロの仕事内容を把握などはしていないだろうに、なんとも無茶を言ってくれる。
「それはできません、明日は明日で」
「もーう! ラウロの意地っ張り! 兄ちゃんなんとか言ってよ!」
ぷう、と頬を膨らませた年相応……いや以下……にしか見えないリアトの言葉に、リーズは肩をすくめた。
「ラウロさん。明日誕生日でしょう?」
「……………………」
言われて気がついた。
元々誕生日など楽しみにする性質ではないので。
「何あげたらいいか、分かんなかったけど。僕はラウロに苦労かけっぱなしだし。何にも頼りにならない王様だけど。それでも、休日一日ぐらいはあげれるから!」
ちゃんと休んでまた明後日からお願いね、と。
まだまだひよっことすら言えない幼い王は、そう言った。
明日やる予定の仕事が、とか。
宰相が抜けた穴は埋めれないだろう、とか。
二人と残りの面子で一日もたせるなんて無理だろう、とか。
そんな言葉が頭の中を廻ったのだが、リアトの笑顔に口に出すことはできない。
彼が考えて言ってくれたであろうことを正面から否定はしにくくて、しかし明日のことは心配でしかなく、どう返そうかと考えて――
「……それ、は」
「誕生日おめでとう、ラウロ!」
嬉しげに笑った顔に何も言えず、溜息をつくと小さく笑った。
「わかりました。ありがたく頂きます」
「よかった! 怒られるかと思った!」
「怒りは、しませんが。休みがいただけるならせめて昨日、いや一週間は前に」
「わーっ! ごめんって! ごめんっ!」
だってぎりぎりに言わないと、絶対断られると思ったんだ、と。
拗ねたような口調で言われて、それ以上は文句を言わないことにした。
今日は。
「では今日はこれで。……明後日の朝、でいいのですね?」
「大丈夫です。リアトと二人でなんとかしておきます」
リーズがほとんどの負担を被ることになるのだろうが、その彼にも迷わず笑みを向けられたのでラウロは大人しくそのまま退室する事にする。
「……ふむ」
季節は冬。
修繕中の城はまだ寒い。
そういえば、リーヤは先日出張先から戻ってきていたか。
トビアスがここ一週間ほどうろついていた理由が今わかった。
「熱燗、と茶と……」
酒の肴でもつくってもらおう、と厨房へと足を向ける。
明日は休みならば、久しぶりに三人で夜通ししゃべるのも悪くない。
***
ラウロの「印象に残っている誕生日」の一位はリーヤに初めて祝われたものな気がしつつ。
それはもうやってしまっているので。L終了後。
あれこれ前日……? まあいいか……