「え」
「今日はちょっとじいちゃんと……えーと、だいじなようじがあるんだ! だから、ごめんね」
「……そっか。ならしかたないね」
ごめんね、と謝られてジョウイの目の前で扉が閉まる。
しばらく名残惜しそうに木の扉の前にいたけれど、またその扉が開くことはなく。
「……あーあ」
家から離れて、一人。ぽつんと空を仰ぎながらジョウイは溜息を吐いた。
今日はジョウイの誕生日だった。
だけど、それを祝ってくれる人は、あの家には誰もいなくて。
いつものように、セノのところへ遊びに行った。
別に、おめでとうと言ってほしかったわけじゃない。
ただ一緒にいたかった。今日を一人ですごしたくなかった。
だけどそれも叶わないようで。
……誕生日くらい、ささやかな望みを叶えてくれたっていいじゃないか、と溜息が漏れた。
「どうしよう」
家に戻って一人でいるのも嫌で、けどどこにも行く当てはなくなってしまって。
結局セノの家の裏の丘にある、秘密基地の木の下で、一日雲を見て過ごすことにした。
「一人だと静かだな……ここも」
「ムームムムムー」
「あ。ごめんごめん。ムクムクがいたっけ」
抗議するようにジョウイの金髪の上に乗っかっててしてし叩いてくるムササビに苦笑して、木の幹に背中を預ける。
夕方までここにいたら、家に帰ろう。
明日は一緒に遊べるといいな。
「ジョウイ! いた!」
「うわっ! ……って、セノ?」
あの格好のまま眠ってしまったらしかった。
見える空はオレンジ色に染まっていて、薄く星が見え始めている。
「お家に覗きにいってもいなかったからどこに行っちゃったのかと思った!」
ジョウイを覗き込んで頬を膨らませるセノは、少し息があがっている。
ここまで走ってきたのだろうか。
「どうしたの? 大切な用事は?」
「それはこれから! 準備ができたから迎えにきたの!」
「え」
一緒にきて、と手を引かれて、家に入る。
そこに広がる光景を見て目を丸くした。
飾りつけられた室内と、机いっぱいの料理。
それから、満面の笑みを浮かべたゲンカク師匠とナナミとセノが。
「「ジョウイ、お誕生日おめでとう!!」」
「え」
「ナナミがケーキ作るのが思ったより遅くなっちゃって。でもジョウイといると先におめでとうって言っちゃうから行っちゃだめって言われてて」
「だってセノ、絶対言っちゃうもん!」
「……このケーキ、ナナミが作ったの?」
机の真ん中にある大きなケーキ。
白くクリームが塗られて、果物がたくさん乗っている。
「初めて作ったにしてはきれいにできてるでしょ?」
「味はわからんけどなぁ」
「ちゃんとおいしくできてるもん!」
ゲンカクに食いつくナナミをあしらいながら、ゲンカクがジョウイに椅子を薦める。
「ほら、早く座れ」
「……あ」
「ジョウイ、早く食べよ!」
「ケーキのロウソクはちゃんと一回で消すんだよ!」
「……ありがとう」
乗せっぱなしだったムクムクが、ムーと鳴いた。
***
ジョウイお誕生日おめでとうなのだよ!
今年のコンセプトはなんでしょう。
(オマケ)
「う」
「ぐ」
「ム」
「……ナナミ。お前何を入れた?」
「え?」
一瞬目を離したのが、命取り。