仕事の合間、小さな箱を時々開いては表情を緩める時がある。
髪飾りであったり先が完全に潰れてしまったペンであったり、止め具が外れてしまったカフスであったり。
今までもらったそれらはどれも何物にも変えがたいもので、手に取る度に当時に喜びが蘇る。

「……ヒクサク様、まだそれ取ってあるんですか」
もう使えないのにとそれらを眺めるヒクサクにササライが呆れとも苦笑ともつかない声音で言う。
大事そうにしている小物の数々が、かつて誰かしらからの誕生日祝いとして贈られた事はササライも十分に承知している。
国の神官や貴族から贈られるものにしては失礼ながら質素なものだし、それらをヒクサクはこれほどまでに大事にはしないという自負もある。
大切にしてくれるのは嬉しいが、そうも取っておかれると気恥ずかしいのが本音だった。
リーヤなんて、小さな頃に贈った似顔絵とかが今も大事に大事に寝室の引き出しにしまわれていると知ったら悶絶するに違いない。

「いいじゃないか、取っておいたって。当時を思い出して嬉しくなるんだ」
「……そうですか。もういっぱいになるんじゃないですか、それ」
「そうなるまで祝ってもらえたのだから、嬉しいね」
ほわほわと微笑む上司にササライはむず痒い気持ちに襲われる。
なんていうか、年々駄々漏れというか、数十年の間に自分と人が変わった。

「思い出に浸るのもいいですが……ちゃんと仕事はしてくださいね。今日が何の日かお忘れじゃないでしょう」
「もちろん」
にこりと微笑んでヒクサクは分厚い方の書類の束を押し出す。
なんだかんだですでに大半を終わらせているようで、夕方の約束には余裕で間に合いそうだ。
ぱらぱらと内容を確認して、ひとつ頷くとササライは自分の書類と一緒に持ってきていたそれを机の上に置く。

両手に乗せるより、もう一回り大きいくらいの小箱は綺麗な細工が施されていて、真ん中には鍵もかかるようになっている。
「それでは、これは私からです。おめでとうございます」
「ありがとう」
にこりとそれを手に取って、中を開いたヒクサクは首を傾げる。
「……焼き菓子?」
中に入っていたのは、小袋に包まれたクッキーやガレット、それから可愛らしい飴玉の小瓶。
誕生日プレゼントなのはササライの言動で予想できていたが、少し予想外な中身だ。
普段はペンであったり手袋であったり、割と実用的なものをくれるのだが。

「さすがに箱だけ、というのは味気なかったので」
弁解するように少し横を向いてササライは続ける。
「今の箱はだいぶ窮屈なようなので」
その言葉にヒクサクは数度瞬きをして、それから嬉しそうに破顔した。

「ありがとう、早速使わせてもらうよ」
「……喜んでいただければ、なによりです」

新しい箱に最初に入るのは、中に入っていた小瓶になりそうだ。





***
というわけで今年のコンセプトは「思い出に残っている誕生日」でした。
いやみんな残ってるとは思うんですが。
ヒクサクなのにリーヤ絡みじゃないんだというツッコミは野暮というものです。





(オマケ)

「ちなみにその中に入ってたお菓子はササライの手作りです☆」
「ほぉ」
「ちょ、クロス言わないって約束……!」
「空の箱じゃ寂しいけどちょうど入る大きさのものが思いつかないからって相談されてね。お菓子作るのは初めてっていうしどうなるかと思ったけど最後はどうにかなってよかったよね」
「最初の頃は僕の兄と思えないほどの不器用っぷりだったけどね」
「ルック……それは言わないで」
「いやいや初心者にしてはまずまずだったよ。僕の指示はちゃんと聞いてくれるし慎重だったし」
「…………」
「それでもまぁ、ちょっと焦げちゃったりしてるのはあったけどヒクサクに渡せる分はできたしよかったね」
「おや、まだあるならそれもほしいなぁ」
「ヒクサク様渡した分まだ食べてないでしょ!」
「ササライが私のために作ってくれたなら全部食べたいなぁ」
「……太りますよ」
「…………」

「照れ隠しがクリティカルヒットしてるからやめてやれササライ」