近くまで王国軍が来ている、という報告はあった。
良く晴れた、風も穏やかな今日はきっと何かしら動きがあるだろうと予想されていて、出陣の準備も整いつつあった。

のだけども。



「じゃあ、セノの誕生日のお祝いできるね!」
「……そうだな」
顰め面のシュウの前で臆面もなく喜ぶナナミは、一緒に聞きにきていたビッキーと手を取り合って喜んでいる。

朝から静かな敵陣は、昼過ぎに伝令からあった、内部でなにかあったらしいという知らせにより、本日の進軍はないという判断が下された。
どうも営倉地をたたむ様子もなく、騒がしく何かやっているらしい。
最初は裏があるのではと勘ぐっていたシュウも、何度もやってくるナナミの押しかけにとうとう折れたらしかった。

「こんな時だからこそ、おめでたいことはちゃんとしないと!」
生まれてきた事に感謝する日なんだから、と豪語するナナミは、今までセノの誕生日の祝いを欠かした事はなく、今回できないかもしれないという知らせに一番落ち込んでいたのは彼女だった。

「今年は人がいっぱいだから、たくさんお料理作らないとね!」
「いやいやナナミ。ほら、ここにはハイ・ヨーがいるから」
「料理は本職の奴に任せてさ、ナナミは会場の飾り付けの指揮を頼むよ」
ナナミを厨房に立たせまいと奮闘するビクトールとフリックを、その場にいる何人もの目が見ている。
せっかくの女の子の料理……と切なそうにしているのは被害前。
頑張れと熱い視線を注いでいるのが被害後だ。

「つーか、まったくサプライズでもなんでもないっていうかなんで手伝ってんだ?」
セノの手から布で作りかけた花を手にしてシーナがくるくると回す。
「今までいつもそうだから、かなぁ」
祝う人数がすくないから、祝われる側も一緒に準備をして片付けをするのだ。
今年はしなくてもいいと言われたけれど、なんだか一人でぽつんと待っているのも寂しくて、結局手伝わせてもらっているのだ。
「セノがいいならいいけど。今なら俺と一緒に遊びにいかねぇ?」
「もうすぐ準備できるから、変なところ連れてったらだめー!」
セノと肩を組んでにやりと笑ったシーナの後ろから、ナナミの大声が飛んだ。


沢山の人がレストランに集まって、ハイ・ヨーの作ってくれたおいしい料理に舌鼓を打ったり、いつの間にか厨房に忍び込んだらしいナナミの特製料理で搬送される人が出たりと、最後まで賑やかさの絶えない時間だった。

今までで一番多くの人に囲まれて、おめでとうと言ってもらって、プレゼントも沢山もらって。
嬉しかったし、楽しかった。

「……なのに、なぁ」
ベッドの中でころんと横になってから、なんだか落ち着かなくてセノは天井を見上げた。
嬉しかったはずなのに、なんだか寂しいのはなんでだろう。

ころりと寝返りをうって、窓の外にちりばめられた星を流れる。
そのうちのひとつがすうっと空に長い尾を引いて。

「あ、そっか」
白く光るそれに、すとんと落ちた答えにセノは小さく声を漏らした。





***





「ジョウイと出会ってから誕生日お祝いしてもらわなかったの、あの時が始めてだったんですよね」
「…………」
「ってことを、思い出しました」
「セノ! 僕は! これから先何百年先でも絶対君を誰よりもお祝いするからね!!」
「うん、ありがと」

「お前らその頃から無意識でらぶらぶかよ」
「僕がいない間もセノが僕を想っててくれて嬉しいよ……」
「ジョウイのことだから、てっきり当日忍び込んだかと思ったけど」
「あの時も本当はセノのところに行きたかったんだけど、シードとクルガンが追いかけてくるから逃げるのに大変で、結局それで一日潰れちゃったんだよね」
「…………」
「……もしかして進軍日和なのにハイランド軍が進軍しなかったのって」




***
セノにとって印象に残っているのは、ジョウイのいない誕生日。てなわけで。