騎士団での訓練が終わった後、雑用仕事をこなして部屋に戻ろうとしたら部屋の前でタルが仁王立ちしていた。
「……タル、なにしてるの」
「クロスおかえりっつーかお前早いな」
「まあ、ね」
再度尋ねると、タルはあからさまにしどろもどろとし始める。
何か隠しているのだと丸分かりだ。なんとも分かりやすい。
タルのこういうところはとてもいいと思う。

「え、ええとだなー……おい、まだかよ」
「中に誰かいるの」
慌てているタルに更に問いを重ねれば、大きく肩が上下する。
……本当に嘘を吐くの苦手だよなぁタルは。

「あのな、別に中で何をしてるってそういうわけじゃ……」
「うん、いいから中に入れて?」
「…………」
ほんの少し、笑みに凄みを混ぜてみると、タルは目を泳がせ始める。
頑張ってるのは分かるけれどここでほだされてあげるわけにはいかない。

この日はあまり、運がよくないのだ。
今日だって朝からなんだかちょっと遠巻きにされるし、朝食の量は多いし、訓練はあんまり打ち込めないし、お使いに行った品は切れているし、帰りに手袋を片方が破れるし。
だから残りの時間は部屋に閉じこもって安全にごろごろしていたい。

「僕の部屋……なんだけど」
自分の部屋に入るのがどうしてこうもままならないのか。

「タル、準備終わったよー」
ドアの内側から聞こえた声に目を瞬かせる。
「ジュエル?」
「やっとかよ! よし、クロス中に入れ!」
待ちわびたとばかりにタルがクロスの手を掴んで、今度は部屋の中に入れようとする。
百八十度変わっているその態度を疑問に思いつつも、自分の部屋にようやく入れるのだとクロスは扉の前に立った。

タルがなぜか律儀にノックを三回してから、クロスを先に立たせて扉を開く。


「「クロス誕生日おめでとう!!」」
部屋の中にいる人達に、思わず呆けた。
「やだっ、クロスがそんな顔するの初めてみた!」
「大成功……ですね」
「タル、早く扉しめろよ」
「おう」
タルが足を止めてしまっているクロスの背を押して中に入ると扉を閉める。
中にいたのはケネス、ポーラ、ジュエル、それからフンギ。
小さくてガタガタな机は今日は白い布がかけられていて、饅頭と、それから白いクリームと果物で飾り付けられたケーキがあった。
「……どう、したの?」
「今日誕生日だってスノウから聞いてな」
「急だったから、フンギにお願いしてお饅頭とケーキだけ用意してもらったの」
「教えろよなー水臭い」
お前はこっちの誕生日は祝うくせに、と強く背中を叩かれて、ようやく思考回路が再起動し始めた。

「そんな、祝ってもらうとか考えてなかったし」
「友人の誕生日は祝うものだろ」
「あんまり祝ってほしくなさそうってスノウからは聞いたけど、さ」
やっぱり楽しくお祝いしたいじゃんとジュエルが笑う。
「もう少し前に分かってたら、もっと色々できたんだけどな。来年からはちゃんと準備しておくよ」
「直前にお願いしたのに、これだけ作ってくれたら十分です」
ポーラが小さなお皿とフォークをクロスに差し出して、さぁ始めましょうと促す。
「蝋燭、年齢分挿したらいっぱいいっぱいだよなぁ」
「どうしよっか。五本くらいでもいい? クロス」
「……何本でも一息で吹き消してみせるから大丈夫」
「よし、じゃあケーキいっぱいに乗せようぜ!」
「それ本来の意図からずれてる」
「あああああせっかく綺麗に飾りつけたのに!」

ケーキを中心にわいわい言っている五人の姿に、クロスはこみ上げてくるくすぐったさを抑えるように唇を結んだ。
それでも緩む頬は隠せそうにない。
……散々な一日だったけれど、今年はこれで、帳消しだ。


「それじゃ僕の誕生日ケーキが食べる前にぼろぼろになっちゃうじゃない」
嬉しい気持ちを抱えて、ケーキを穴だらけにされまいと、クロスも輪の中に入ってフンギ特製ケーキを死守する事にした。




***
騎士団でのお祝い。
スノウは本当はお祝いしたいんだけど考え付かない。
グレン団長は後日知って翌年からそわそわじりじり。
シグルドが木の陰でギリギリしています。