今日も一仕事(という名のモンスター狩り)を終えて、テッドは自室のベッドの上で横になっていた。
今日も今日とてクロスにこき使われ西に東に大忙しだったが、夕方には船に帰れたのでまあ文句は言うまい。
徹夜よりましだ。
「あー、そういや今日は俺の誕生日か……まあでもこの年になったら誕生日なんかどうでもいいし、そもそも年も覚えてねぇしな。ああでも今日の夕飯は鉄火丼でうれしかったな、偶然とはいえ美味かったし。去年までは鉄火丼の存在を知らずに生きてきたなんて百五十年は損をし、」
「だぁあああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫してテッドは部屋の扉を開け放つ。
ニコニコと崩れぬ笑顔でそこに立っていたのは今会いたくない人物だった。
彼と会いたい日なんてまずないが。
「こんばんは、テッド」
「人に勝手にアテレコすんな!」
「ノックをしても開けてくれないものですから」
しれっと言ったがテッドはノックの音を聞いた覚えがないと断言できる。
だがここで押し問答はただの時間の無駄と悟ってしまったので、テッドは溜息を吐いた。
「何のようだ?」
「誕生日を祝いにきたんです」
「結構だ帰れ」
すぐさま扉を閉めようとしたが、いつの間にか体を滑り込まされていた。
侮りがたし。
「さすが我が軍の裏の暗殺者……」
「何か言いましたか?」
「ナンデモアリマセン」
視線をあさっての方向に向けて呟いて、テッドはこの黒尽くめの優男に見える腹黒男――端的に個人名を言うとシグルド――に穏やかな夜を邪魔される覚悟を決める。
せっかく今日はクロスが上陸していて、本拠地が静かな日だと言うのに。
「っつーかお前はクロスについてかなくてよかったのか」
「ええ。貴方の誕生日を祝ってやれと言われたので」
「十分祝ってもらった。よし、帰れ」
「あ、こちらクロス様とフレア様からの贈り物です」
どこに隠していたのかシグルドは大きな包みを取り出した。
「いらねぇ……」
『あの』クロスとフレアからの贈り物なんて危険物だとしか思えず、テッドは遠い目で呟いたが拒否できるほど彼のヒエラルキーは高くない。
というかクロス、フレア、シグルドの中ではもちろん最下位である、論じるまでもない。
なんでこんなことになったんだろうと泣きたくなりつつも、テッドの手はびりびりと包みを破っている。
クロスと一緒に上陸しているフレアは間違いなく朝一番に感想を求めてくるだろう。
ヘタすると今夜たたき起こしてきかねない。
「……これはなんだ?」
あけたそれは大きな……枕?
グレーと黒と白の縦線が入ったその枕のような材質のモノをしげしげと眺めていたテッドは、その形が楕円形というか紡錘形といえる形である事に気付き、続いて枕にしてはなんかいらなそうなぴらっとした三角形が端についている事に気付く。
首をかしげながらその部分をつかんで持ち上げ、そしてそこで円形の白フェルトに黒フェルトが重ねられた部分を見て合点した。
「誰がマグロの抱き枕がほしいと言った!!」
「鞄と迷ったのですが」
「そこがポイントじゃねぇ!」
「当てられなかったら没収だったのですが、さすがテッドですね、一発でした」
にこにこ笑っているシグルドによっぽどたたきつけようと思ってマグロの尻尾をつかんだが、ふとこちらを見上げているマグロと視線が合った(気がして)動きを止める。
これはクロスとフレアからのプレゼントだそうだ。
そしてこんな需要のなさそうな抱き枕がいくら群島だからとはいえ売っているとは思えない。
なにより手触りが絶妙にいい。
というかマグロはマグロなのに適度にデフォルメされてるけどリアルで――とにかく出来がやたらいい。
「……シグルド」
「はい」
「もしかしてコレは、スポンサーフレアで作成クロスの手作りだったりするんだろうか」
尾びれを持って呟いたテッドに、シグルドはとても何か言いたげな笑顔を見せた。
というかもうその笑顔で十分わかった。
「感想をどうぞ」
「……抱き心地はよさそうだ」
たたきつける案も捨てる案も即効で棄却し、テッドはマグロとしばらく夜をともにすごす覚悟を決めた。
「痺れ薬とか毒とか入ってねぇだろうな……」
怪しいものが仕込まれてないかを調べるのは当然の権利にさせてもらう。