警備がーとか、予算がーとか。
警備の人数は居ないわ制服以前に武器の予算すら怪しいわ、そもそも統括する人が足りないわで、大混乱の建国元年。
ササライが顔を出しましょうかと気遣ってくれたりしたのだが、対外的に十分にササライをもてなすことが出来なかったので、泣く泣く断ったとか。
(護衛も人も予算もない)
そんないっぱいいっぱいのある日――
「やっほいリーヤ!」
「何やってんだ超VIP!!」
いきなり王宮に現れたシグールに、リーヤはいっそ悲鳴を上げる。
シグールはこう見えて、トランの隠れ重鎮というか大陸五指に入るぐらいの超VIPである。
たぶん各国には「シグール=マクドールの護衛録」みたいなものがあるんじゃないだろうか。あっても驚かない。
「いやあ、リーヤ今日誕生日じゃない? でも忙しいじゃない? だから僕がプレゼントをわざわざ持ってきてあげたんだよ商談ついでにだけど」
クロスとルックも本当は来たがってたんだけど、時間もないだろうしーってことで夜に奇襲するって。
そうにこにこ笑顔で続けられて、リーヤは思わず額に手を当てた。
奇襲って。
奇襲なのか。
予告したら奇襲にはならない気もするが奇襲するのか……
「って、商談!? 聞いてないぞ!」
「あったり前じゃん、ラナイとじゃないもんハルモニアだもん。今のラナイと交易するほど僕もねー慈善業者じゃないからねー」
「……あ、そうですか」
いやまあそりゃそうだけど、あっさりと言われてちょっと泣きたい。
確かに今はデュナンとハルモニアと、なんとか国の管轄内で交易を進めている段階だ。
シグールのような個人が交易に介入してくるのは、もう少し先だろう。
「で、俺にプレゼントってなにー?」
シグールのことだから本だろうか。
国を立て直すのだからしっかり勉強しろ、とかいいそうだな、と思っていると、シグールはどこからともなく長くて大きな……
「……剣?」
大きさと形状からしてそれしか思いつかなかったので、素直にそう呟くと、つまんなーいと唇を尖らせられた。
いやだってそれはどうみても……
「そうだよ、ふっふー。だってリーヤ将軍やるんでしょ?」
「いやまだ決まってな……」
「決まるとその系統の仕事ばっかり増えるからね。まあどうせ本決定するだろうし、これは僕からのお祝いっ」
そい、と押しつけられた剣はずしりと重い。
重厚な鞘、柄まで細かな模様が刻まれ、宝石の類はないものの……これは……
「……シグール……いくら……した?」
「秘密☆」
ぱちり、とウィンクしたシグールに嫌な予感がしつつ、剣を抜く。
すらりと輝くその刀身は一流の刀匠によるものだと見当がつ――
「………………おいシグール」
「なにかな?」
「この……銘は……」
「うん、某伝説級の刀匠に作成を依頼した☆」
「……………………売って国庫の足しに……」
「買う人いないと思うな」
「……です、よね?」
それは今や伝説というか、すでにこの人は引退していたと聞くのだが。
一本を打つのにかなり時間をかける職人で、たしか――
「シグール、あれ……これ、いつ注文した?」
「リーヤの誕生日用に」
「……ほんとに? いや、だってこの打つ人は時間かかるって……」
そんな顔しないでよ、とシグールは肩をすくめた。
「ほんとにリーヤ用だよ。まあ鞘とかはちょっと急に予定変更したけどさ」
お誕生日おめでとう。
そう言って頭を子供の時みたいに撫でられて、素直に頷いた。
「ありがとな、シグール」
「どーいたしましてっ☆」
それじゃあ僕は竜を待たせてるからまた今度!
ひらひら手を振ったシグールは、何かそれ以上言える前にいなくなっていた。
***
というわけでシグールが考えシグールがお金を出すという、
ほとんど個人からのプレゼントじゃね?なリーヤの誕生日でした。