「あれ、ルックまだ起きてたの?」
「……まぁね」
居間でちくちくと裁縫をしていたら、ルックが寝巻き姿のまま現れた。
結構前に出て行ったからとっくに眠っていると思っていたのだけれど、歩み寄る足取りはしっかりしているから、一度寝たわけではなさそうだ。
寝巻きで実験をしたりはしないから、ベッドに入ったはいいけれど本でも読んでいて、喉が渇いたから起きてきたのだろうか。
「お水? それともココアでも用意しようか」
「いらない」
裁縫道具を脇に置いて立ち上がりかけたクロスに、首を横に振ってルックは裁縫道具が置かれているのと逆隣へと腰掛けた。
寝巻き越しに感じる熱はほんのりと温かくて、今までベッドの中にいたのだと知れる。
怖い夢でも見たのか……いや、そもそも眠っていないのに怖い夢も何もない。
だとするとルックがクロスの隣に座った理由が分からなくて、クロスは肩に首を寄りかからせるルックを横目で見た。
クロスの目に見えるのはルックのつむじだけで、彼がどんな表情をして、何を考えているのか分からない。
「ルックどうしたの?」
「……ん」
返ってくる返事は鈍い。
このまま眠ってしまうのではないだろうかと思っていると、ルックの頭が動いて、緑色の目とかち合った。
ルックが少し首を伸ばしているせいで、吐息が触れ合うくらいの近さに二人の顔がある。
相変わらず綺麗な顔をしているなぁと思っていたら、唇に軽く触れる柔らかい感触がした。
あれ、と目を瞬かせる。
ルックの顔は相変わらず近くにあって、じっと見つめてくる瞳から視線が逸らせない。
その目がふと細められて、柔らかな声が届いた。
「誕生日おめでと」
「……あ」
「それじゃ、おやすみ」
ようやっとさっき触れるだけのキスを送られたのだと気付いて声を漏らしたクロスに、ルックは相変わらずの冷めた表情で立ち上がっていた。
慌ててその腕を引いて、自分の腕の中に引き入れた。
咄嗟に動いたせいで加減ができなくて、二人してソファに体重を預ける形になって、古いソファはぎしりと軋んだ音を立てる。
「ちょっと、僕はもう寝るんだけど!」
クロスの腕の中でルックが不機嫌そうに声を荒げる。
だけどその声も表情もわざと作ったものであるとクロスには分かる。
そうであってほしいという願望も多分にあるにはあるのだが。
「ルック、お祝いを言うために起きて待っててくれたの?」
ちら見で確認した柱時計は、長針と短針が頂上で重なったところだった。
クロスの誕生日になったのを見計らってわざわざこんな時間まで起きていて、なかなか寝室までこないクロスのために起き出してまで。
「ありがと。すっごく嬉しい」
「…………」
耳元で囁けば、髪の隙間から見える耳がほんのり染まる。
肯定はないが否定もないので、全てを自分の都合のいいように解釈して、クロスは幸せをかみ締めるようにルックの首筋に額を擦りつけた。
***
というわけでハピバクロス。
クロスも2ショットの地雷は少ないけれど、完璧に大当たりを引いてきたあたり天魁星の実力を見せ付けられた気分です。
ちなみにやりなおしたらシグルドだった。天魁星の(ry
(オマケ)
「ルック、今日シグール達がくるのって昼過ぎだったよね」
「それが?」
「ちょっとくらい寝坊しても大丈夫だよね?」
「…………」
「ね、ルック」
「……いいんじゃない」
「v」