「…………」
「どうした」
「いや、なんか背筋がこう、ぞくぞくっと」
後ろを振り返って腕をさするリーヤの前にコーヒーの入ったカップを置いてラウロが尋ねる。
別にどこも悪くねぇんだけど、と首を傾げてリーヤは淹れたてのコーヒーに口をつけた。
「何か憑いたか?」
「そういう怖いこというのやめてくんねぇ!?」
「あるいはシグール達が何かしようとしているか」
「……ありえそうで嫌だ」
行儀悪く音をたててコーヒーを啜るリーヤは、そういえば、と白い湯気を吹きながら呟いた。
「あー……昨日野宿したからかな」
「お前な……この時期に野宿とかバカだろ。いくらバカは風邪ひかないといってもな、限度ってもんがあるんだ限度ってもんが」
暦の上では晩秋から冬へと移り変わる頃合で、例年になく昼間は随分と暖かいが、それでも朝晩はめっきり冷え込むようになった。
外に出れば息が白くなるし、吹く風は冷たい。
そんな中で野宿をするのはバカか自殺志願者だけだ。
呆れかえるラウロに、リーヤは不貞腐れたように頬を膨らませる。
二十過ぎてその仕草はどうなんだと溜息を吐いて、ラウロは席を立った。
「ラウロ?」
「ちょっと待ってろ……ああ、あった」
棚の中から小瓶を取り出してリーヤに向けて放り投げる。
カップを持ったのと反対側の手で器用に受け止めたリーヤは、じゃらじゃらと錠剤の入っている小瓶に首を傾げた。
「なにこれ」
「風邪薬だ。一応飲んでおけ。傭兵稼業は体が資本だろう」
「サンキュー!」
「それが誕生日プレゼントな」
「えー!?」
不満気に声をあげて、リーヤは風邪薬の小瓶を机に置く。
「いくらなんでも酷くねぇ? しかもこれ使いかけだし!」
「なんだ、新品ならいいのか」
「そういう問題じゃなくてー!!」
もらうけど! もらうけどさ!!
本気で風邪薬が誕生日プレゼントだと信じているのか、文句を言いながらも瓶をしまい込んでいるリーヤに、ラウロは再度溜息を吐いた。
自分の誕生日だからと押しかけてきておいて、それで納得するか。
「明日まで待て」
「へ?」
「予定より荷が遅れてるんだ。ちゃんとしたやつは明日くれてやる」
「まじで!?」
「ああ」
「ラウロありがとー!」
目を瞬かせてラウロの言葉の意味を理解したリーヤが満面の笑みを浮かべる。
随分と手に入れるのに苦労した品だったが、これだけ喜ばれるなら苦労した甲斐もあったかと一瞬考えて、俺が風邪をひいたかとラウロは頭を振った。
***
ハピバリーヤ。
今回の2ショットくじ引きの結果はラウロでした大当たり。
いつになく雰囲気が甘いのには色々と裏事情があるのですが、それについて知りたい方は浅月の11月14日の日記をご参照ください。
すっげぇくだらない。