その日ラウロを叩き起こしたのは、ノックも何もなしに開けられたドアの音と、無遠慮極まりない大声だった。
「ラウロ誕生日おめっでとー!!」
「…………」
「…………」
「…………」
無言で上半身を起こして半目で部屋への侵入者を睨んだラウロに、侵入者……つまりはリーヤは、浮かべていた笑みをやや引き攣らせた。
「……ラウロ、もしかして寝てた?」
「リーヤ」
「ハイ」
「今何時だ」
「……えーと、朝、四時?」
「…………」
がりがりと無造作に頭を掻いて、ラウロはカーテンに遮られた窓の外に視線をやった。
なるほど少し明るくなってきたか。まぁそんなもんだろう。

そしてそのままベッドにもぐりこもうとしたのを、リーヤが止めた。
「あぁ?」
「……た、誕生日おめでとうって!」
「どうも」
「それだけ!?」
「あのな、今の時間と場所と俺の格好を見て考えることはないか?」
「えーと……」
うーん、と首を捻って考え込むリーヤはまったく考えがつかないようで、ラウロが青筋を立てながら回答を口にした。
「祝ってくれるのはありがたいが、常識的な時間と場所を考えろ」
「……ごめん」
口調がかなりとげとげしくなった自覚はある。
普段でも不機嫌になるレベルだが、昨晩寝る前にやっていた研究がちょと興にのって、ついつい熱中して、寝たのが三時すぎだったのだ。
つまり、実質睡眠時間、約一時間。これくらいキれても許されると思う。

本気で不機嫌なのが分かってさすがにまずかったと思ったのか、しょげて素直に謝るリーヤに、さて今度こそと思っていると、「でも」とリーヤが続けた。
「だって俺が一番に祝いたかったー……」
「……起きて最初に顔を合わせるのは嫌でもお前だ」
ハルモニアに留学中の今、ササライの屋敷にリーヤと二人で間借りしている。
ササライとも顔を合わせるが、彼は朝食の始まる時間ぎりぎりまで起きてこないから、最初に会うのは必然的にリーヤだ。

「だって朝イチでシグール達が襲撃しにくるって言うからー……あ、これ秘密にしとけって言われてたんだった」
「…………」
来るのか。嵐が。
他国までわざわざご苦労な事で……と思うが、そういえばリーヤの時も来ていたか。

来ると分かっていたら半徹なんてしなかったのに、と考えて、ラウロは目の前でしょげているリーヤに告げた。
「今日は俺の誕生日だな」
「お、おう」
「じゃあ、一日俺の言うことなんでも聞くか?」
「え、もうプレゼント用意してんだけどー……」
まぁいいけどさ、とあっさり承諾したリーヤに頷いて、ラウロはもぞもぞとベッドに潜ってリーヤに背中を向けつつ言った。

「俺は昼過ぎまで寝るから、それまでシグール達を部屋に入れないように」
「無理ー!!!!」
「なんでも言うこと聞くんだろう」
「できることとできないことがある!」
「威張るな」
「つーか昼過ぎまでって長くね?」
「例年からして、パーティの準備ができるのはそれくらいだろ」
「…………」
「できなかったら来年の誕生日覚えてろ」
「俺への言動なんか酷くねぇ!?」
「まさかそろいもそろって相方引き当てるとは思ってなかったせいでネタがつきてる上に食傷気味なんだ」
「何の話!?」
ぎゃんぎゃんわめくリーヤを無視して、ラウロはさっさと眠りにつく。
どうせ完遂は無理だろうから、あいつらに体力をつけるためにもとっとと寝て時間を稼ぎたい。





***
くじ引きを決めた時に被りアリだとしたものの、まさかこのペアで被るとは想定外だったんだ……!!
リーヤが誕生日の時にラウロを引き当てて、お祝いと親心でつい甘めにした結果がラウロでもリーヤを引き当てるというギャグ仕様。

「……え……これ……どうしたらいいんだ? もうリーヤの誕生日で甘さ書ききったぜ?」

というわけで辛めに頑張ったんですが、結局のところラウロがリーヤに甘いのはデフォなんだと挫折した……orz