―――はあ? なんて言った?
クロスにそんなこと聞かれるとは思わなかったなぁ。
美味しいつまみと酒のお礼に答えてもいいけどさ。
君だっていつもうんざりだって顔してるじゃないか、分かってるんだけど。
だって可愛いだろセノ。
あの笑顔を見ると疲れも吹っ飛ぶよね!
一日に何度見ても全く飽きない!
なんで今日君らが押しかけてるのにいないんだセノ……。
え? そんないつも通りのことじゃなくて? うーん……。
……クロスってさ、セノって単純だと思う? 複雑だと思う?
まあそう見えるよね。実際何も考えてないことも多いとは思うけど。
でもセノって本当はすごくいろいろ考えてるよ。
君やシグールは……まあ僕もだけど、ある程度決めて、そこから考えるけど、セノは決めるまでも決めてからもずっと悩んでる。
本当に良かったのか。誰も悲しんでないか。何かもっとできないか。
ずっとぐるぐる考えながら、何も考えてないよって顔で笑うんだよ。
一人で頑張るのに、周りに悟らせない努力をすごいなと思うんだ。
もっと言うと、僕から見て、君やシグールはなるべくしてなった英雄だと思う。
もちろん周囲の状況や時の流れもあっただろうけどね。
何もなくたって君たちは一角の人間になったはずだ。
でも、セノは違う。
セノは王様の顔をしているけど、選ばれた存在でも何でもない、けど。
それを表に出さずきちんとやり切っているところを、僕は尊敬している。
……なんだよ、振ってきたのそっちだろ。
え? それはそれとして直してほしいところ?
一緒にいてくれれば僕はそれでいいよ。
いろいろ悩んでるのもわかってるけど、僕はセノが隣に居てくれるのが一番だ。
***
再生が終了し浮かんでいた映像が消える。
クロスがちらっとセノを見れば、映像が見えていた空間を見つめたまま目を見開いて固まっていた。
「セノ」
「あっ――は、はい!」
「大丈夫?」
一度頷きかけたセノは途中からふるふると首を横に振る。
誕生日にと持ってきたジョウイからのサプライズメッセージだったが、セノは食い入るように映像をみて言葉に耳を傾けていた。
「すみま、せん。びっくり、しちゃって」
「僕もびっくりしたよ。ジョウイってセノのことよく見てるんだね」
実際にこれを最初に聞いた時のクロスの衝撃もかなりのものだった。
クロスは英雄になった後のセノしか知らなかったが、例えば戦乱がなかったらセノが人々の記憶に長く残る存在になっていたかと問われると――それは、違うような気がする。
それ以前からセノを知っていたジョウイがそういうのなら、きっと真実なのだろう。
「クロスさん、ありがとう。面と向かっては絶対、言ってくれないと思います」
「そうなの?」
「言わないですよ。言ったら、僕が頑張る理由ちょっとだけ減っちゃいますもん」
ようやく微笑んだセノの前で首をかしげていると、指先を唇の前にもってきて声を潜める。
「内緒ですよ? 僕が頑張ってるのは、ジョウイの隣にちゃんと立っていられる自分でいたい、っていうのもあるんです」
本当は色々ダメなんだって、ジョウイが分かってたら甘えちゃうから。
そう言って恥ずかしそうに笑ったセノに、そんなことないのになあとクロスは思った。
きっとジョウイはセノの限界も長所もわかっているだろうし。
それも込みで、最後の言葉だっただろうに。
「お互い色々考えてるのに、難しいね」
「いいんですよ。気持ちが分かってれば」
そう笑ったセノの言葉は確かに真実で、クロスは頷くと持ってきたケーキに合わせたお茶を淹れるために立ち上がった。