ごめんなさい、と頭を下げてくる相手を問答無用で切り裂くほどルックは鬼ではなかった。
?だろと空耳が聞こえるが、ちゃんと自分の非を認めて誠意を持って謝罪してくる相手に鞭打つほど非道じゃない。ただし敵は除く。
シグール達は口で謝ってもまったく反省をした様子がないから灸を据えているだけだ。

今回の場合は前者で、そのうえ紋章を向けたらあいつらのように難なくかわしたり痛いと叫んで済んだりするような相手でもない。
「……とりあえず頭あげて」
だからいつもと同じ平坦な口調で言えば、ラウロは下げていた頭を上げた。
ルックより僅かに低いだけの身長だが、窺うように向けてくる視線は随分と低く感じる。
普段は堂々としている肩が少し丸くなっていて、背後の扉から聞こえた音に僅かに跳ねた。

別に怒っているわけじゃないんだ。これが普通になっているだけで。
フォローしようとも思ったが、ラウロの後ろにある扉の向こうをどうにかする方が先だろう。
今はそこは閉じてあるが、元々はルックの研究部屋のひとつである。

メインの研究室ではないが、入りきらない本や薬品の貯蔵に使っているそこへの入室許可をラウロに与えたのはルックだ。
あれやこれやと飲み込みのいい子供に気をよくしたのもあるし、入らせても指定した物以外には触れない律儀さは信用できた。
今日も、手が離せないからと、この後の行程に必要な本を持ってくるようにラウロに言って、何かが盛大に割れる音が聞こえて駆け出した。

室内には立ち竦むラウロと、その足元には数本の割れた瓶。
中に入っていた色とりどりの液体や粉末が混ざり合った床からは、白い煙がのぼっていた。

「出ろ!」
思い切り腕を引っ張って部屋の外に引きずり出す。
ドアを閉めてすぐに破裂音が聞こえたところで、銀色の頭が下げられたのだ。


「怪我は」
「……ありません」
「そう。ならいい。後始末するから、ラウロは戻ってて」
「しかし」
「ここにいる方が邪魔」
普段のつもりで言い放って、ラウロの表情を見て顔を顰める。
長い間シグールやクロスといった気の置けない奴らに囲まれすぎて、リーヤには気を遣うようにしているけど、それ以外への調整は難しい。

調子が狂う、と拾い子が初めて連れてきた友人の下がった眉を見て吐き出しそうになった溜息を飲み込んだ。
「後始末が終わったら部屋を片付けないといけないから。その時はまた割らないようにして」
一言いえばクロスが完璧にやってくれるだろう。でもそれじゃ意味がない。
「……ルック」
詰まったようなラウロの声に、その髪を乱してルックはラウロと位置をかえると扉に向き直る。

「本当に、ごめんなさい」
この時振り向いたら、きっと神妙な顔をしたラウロが見えた。
だけどルックの目の前は扉で、それはルックがドアノブを開くより先に内側から勢いよく開かれて。


「「ドッキリ☆大成功!!」」

「…………」
「本当に爆発したと思った? 思った?」
「お前子供相手なんだからもう少し表情動かしてやれよなー。けど、結構優しいじゃん」

にやにや顔のシグールとテッドに、全力の切り裂きをたたきつけた。





***
るっくんハピバ☆

今回の仕掛け人はラウロでした。
仕掛け人より「成長したら(俺が報復で)死ぬ」ということでまだ日が浅い内に。
発案はドッキリの看板を持ってた人ですけど。薬品は全部偽者にすりかえて、爆竹とクラッカーで代用しました。


「寝起きドッキリとか色々考えたんだけどねー」
「Vで仮面取った瞬間に俺達が見えた時を上回る驚きはないだろうからって方向性をな」
「あれはドッキリじゃなくてトラウマだ」