「おかえりーテッド」
「お邪魔してます」
「おう」
テッドが散策から戻ってきたら、シグールと一緒にソファに座って茶を飲んでいるササライに迎えられた。
いつの間にきたのかと思ったが、机に乗っているカップからはまだ湯気がのぼっているからそう前ではないようだ。

「今日はどうしたんだ?」
「はい、ちょっとした報告に」
そう言ってはにかむササライに、珍しいものを見たとテッドは内心驚きながらシグールの隣に座る。
それを待ってか、ササライはすでにシグールにはしたのだろう報告をテッドへ向けた。

「実はこの度結婚することになりまして」
「……それはめでたいな?」
面食らったがまぁ、おかしいことではない。
ササライだって男だし、外見はともかく実際はいい年齢だし(むしろそのせいで恋愛に興味がなさそうに見えた)、元々は常識もあるし仕事もできるわけだから、相手の寿命云々さえ折り合いがつけば結婚のひとつやふたつ今までだってしていてもおかしくないのだ。

勝手に空のカップを取って、紅茶を注ぎながら、けれどそれでなぜシグールに挨拶に来たのかと疑問が浮かぶ。
知人に報告のため、はるばるハルモニアから来る必要もあるまいに。
するならルックがせいぜいだ。

見ればササライの隣の席にはすでに中身の注がれたカップも置いてある。
そこにいるのだろう人物の影は見えないが、中座しているのだろう。
「相手がね、トランの人なんですよ」
「へぇ」
やっぱりか、とテッドは納得するが、まだ疑問は解けない。
「別に、いちいちシグールの許可とかいらねぇだろ。国王じゃないんだし」
「別に僕が国王だとしても、国際結婚にNOなんて言わないよ?」
「そうだろうけどな。……シグールに挨拶にきたってことは、あれか、ここのメイドかマクドールの従業員をたらしこんだのか?」

それだったら納得である。
ササライがよく会うとすれば、花壇の手入れをしている栗色の髪をした子か、給仕の赤髪の子か。
ハルモニアとの外交を担っている支店の顔ぶれまでは知らないが、対ハルモニアとなれば仕事もできる器量良しが多いだろうし……と紅茶に口を付けて――



「フッチなんですけどね」


「ぶっふぉっ!!!!!」



「うわ、やだテッド汚いなぁ」
「ごほっ、げ、ごほっ……わり、しぐーる……って俺は今何を聞いた?」
「フッチと結婚することになったので、シグールにご挨拶をと」
「別に天魁星だったのも二百年も前なんだし。律儀だよねぇ」
「そういう問題じゃねぇよ」
口を袖で拭い気管に入った茶でむせるのを堪えながら、なんでそんな平然としてるんだとシグールに詰め寄れば、僕だって驚いたよと肩を竦める。

「仲がいいと思ってはいたけど、二人ともノーマルだと思ってたんだけどねぇ」
「そこはまぁ……僕としても過去には予想もしてませんでしたけど」
小声で呟きつつカップを傾けるササライの頬が心なしか赤い。

「僕だって意外ではありましたよ?」
会話に会話に割って入ってきたのは、戻ってきたフッチだった。
ササライの席の隣に置かれていたカップの前に座り、ぺこりと頭を下げる。

「お久しぶりですテッドさん」
「お、おう……」
「一応竜騎士団はトランの国内にありますし、何かと受注するのも多いので一応ご挨拶に。あくまでも僕個人の話ですとお伝えするために本日は伺ったんです」
「ようやくある程度国交がマシになってきたところで崩したくはないですからね」

あとついでにこれをどうぞ、と足元の荷物からササライが取り出したのは、弓の弦だった。
指で触れてみると普段使っているものよりも滑らかで張りがある。

「最近ハルモニアで開発したもので、従来の弦より強度を上げたものなんですが、ご意見を聞かせていただけたらと思いまして」
「へぇ。いいのか?」
「今日は誕生日でしょう? お祝いも兼ねてどうぞ」
「……ありがたくもらっとくわ」
さっきの報告ですぱっと忘れてたわ……と苦笑したテッドに、今後ともよろしくお願いします、と二人して頭を下げ、席を立つ。

「どうせなら夕食までゆっくりしてけよ。夕方にはクロス達も来る予定だし」
「いえ、その前に戻らないと。あの二人を巻き込むと嘘を本当にされかねないので」
「お二人には誕生日ドッキリじゃない時に改めてご挨拶に行きたいですからね」
「……はぃ?」

すちゃっと手を掲げて真顔で言ったササライと、にこやかな笑みで言い放ったフッチの言葉が言い終わると同時に部屋のドアが閉まった。
最後にササライの疑問形が聞こえたのは気のせいだろうか。


「……シグール?」
「バースデー☆ドッキリはどうだった?」
「……いや、まぁ、驚きはしたけどよぉ……」


本当にドッキリだったんだろうか、と疑問は尽きない。





***
テッドが驚くドッキリ(※ただし健全に限る)について考えた結果、ササライとフッチが結婚報告したらきっと驚いてくれるに違いないと斜めに不時着した結果でした。
取ってつけたような祝い方は面子的に致し方なし。