あくびをこらえつつ、自室として割り当てられている部屋へと戻る。
グレミオのおかげで正しい健康的な生活に慣らされつつある。目下、舌が肥えるのが悩みです。

「……ん?」
部屋の中には大きな黒い箱が置いてあった。
上には紫のリボンがかかっている。
暗い色に暗い色の包装は、どうにもめでたい気配を漂わせてこない。
それが死体でも入っていそうな大きさなのも、不気味さに拍車をかけている。

「なんだあ、これ。誰だ? シグールか?」
こんなサプライズをしてきそうなのは彼ぐらいで、ここは彼の屋敷なのだから当然の発想だ。
クロスも嫌がらせ的にはしそうだったが、家人の目を盗んでテッドの部屋にこんな大きな箱をこっそり運び込めるとは思えなかいから、なんにせよシグールは一枚噛んでいるのだろう。
シグールが関与している、という時点で命に関わりそうな気配はしなかったので、中身は確かめておこうと箱に手をかける。



\ ぱかっ /



「誕生日おめでとーよ、俺」
「………なんだこれは」

箱の中から出てきたのは、見間違いようもなく「テッド」だった。
背丈も髪の色も、目の色もまるで同じだ。一瞬、右手を見るが紋章は反応しない。
二回ほど瞬いて魔力を探ったが、幻の類いでもなさそうだった。
信じられないことだったが、今もシグールと紋章を分かち合っているのだから認めるしかない。
確かにそこにソウルイーターが「ある」のだ。
ついでにシグールは周囲に「いない」。

――となれば、テッドの行動は決まっていた。

懐からナイフを取り出し、一瞬で間合いを詰めて流れるように相手ののど元にナイフを突きつけた。
切っ先は既に薄皮には触れており細く血が流れている。

「何者だ」

「ああ、「俺」だなあ」
自分の殺気は格別だ、と妄言を呟いてから、どこからどうみても「テッド」にしか見えない相手はくつくつと笑いながらテッドと同じ青い目を真っすぐ向けてくる。

「――っ」
のしかかる魔力の圧力に、テッドはナイフを引く。
ソウルイーターで対抗しようとして、その「同じ」魔力の質に気がついた。

「ああ――俺なのか」
「そうだよ。二百年前の俺」
「何しにきた」
「みっつだけ未来予知をしてやりにきた」

へえ、とその言葉に頷いた。

二百年後の「自分」に聞きたいことか。
それも三つということは――質問はきちんと選べということだろう。

だがテッドに、三つもの質問はいらない。
そもそも、先ほどの魔力で一つは知れた。

「目的は達成したか」
「した」
一つ目の質問への回答は、短く。
そして、肯定だった。

「ならいい」
「いいのか……まあ、そうだな」
「それ以外、俺が知りたいことなんかねぇよ。あとは当たり年のワインでも教えてくれ」
「……それはそれで答えるのも癪な気がするんだが……自分のことながら可愛げないよなあ……」
「五百歳が三百歳になにを期待してんだよ」
「デスヨネー。ちっくしょう、シグールやジョウイが楽しそうだったから油断した。二百年前の俺は全然ぴゅあでもまともでもなかった知ってた」
「……さいで」

ぶつぶつ呟く「テッド」の言葉から二百年後の様子が垣間見えた。
先ほどの質問と、それだけで今のテッドが知りたいことはすべてなのだ。
二百年前を思い出せばすぐにわかるだろうに、と思いながらナイフを懐へとしまう。

「楽しそうで何よりだよ未来の俺」
「おうよ。ここから二百年は文句なしに毎日楽しいぜ。仕事は程々にな」
「どーも」
三つ質問をしなかった見返りのつもりか、おせっかいな忠告を残して未来のテッドはひらひら手を振った。





***
テッド遅くなってごめんね!!
そして誕生日だと思えないほど、なんだかんだで予想通りひどくなった。
テッドは楽しいばっかりだし、たいして未来への不安もないのでこんな感じ。
未来全部知っててもテッドは多分ry