ドアをあけると、部屋の中央に大きな箱が置かれていた。
昨日仕事を終えて寝室に引っ込む時には影も形もなかった、まっしろな箱には鮮やかな赤のリボンがかかっていて、その大きさは人間が軽く入ってしまえるようなものだ。

「…………テッドかな?」
ネームカードもない箱に、シグールは首を傾けつつ推測する。

今日が何の日であるか、シグールはしっかりばっちり覚えている。
日付を覚えておくのは商人としては必須だし、自分の誕生日を忘れるなんてことはしない。何度か忘れたことがあった気もするがそこはノーカンで。
自由奔放な旅をしている最中はともかく、本家にいる時はプレゼントだの祝いの言葉だのがあるから忘れることはありえないのだ。
そして、差出人もない贈り物なんて、テッド以外はまず考えられない。
一応ルックあたりも無名はやりそうだがそもそもこんな大きな贈り物をよこしてくるなんて考えられないし。あいつ僕の誕生日知ってるかも謎だし。

「隠しておこうとしたのか隠す気がないのか…」
この大きさを隠しておけるわけもないからと開き直ったのだろうか。

悪いという気持ちはこれっぽちもなく箱に手をかける。
こんなところにおいておく方が悪いよね、と。



\ ぱかっ /




「はっぴばーすでーぼく☆」
「……うん?」

箱から僕が出てきた。
自動人形……としたらほんとよくできてると思うくらい瓜二つだ。
出てきた「シグール=マクドール」的な人形の関節をまじまじと見るけれど、繋ぎ目もない。
まじまじと見てから感嘆の声をあげる。

「テッドってばすごいの見つけてきた……!」
「その思想、嫌いじゃないよ200年前(仮)の僕」
けたけたと笑って「僕」は僕の頭に手を置いた。
同じ身長だろと即座に叩き落とした。





***





「つまりサイト十周年記念ってことで過去と未来の僕らを引き合わせて面白おかしくしようっていう企画なわけだね」
「飲み込みが早くていいね、さすが僕」
「これ需要見込めるの?」
「時には費用対効果を無視するのも大切だよって僕はこの200年で学んだ」
「へぇ」
「それくらい、世の中には楽しいことがあったりする」
「それは興味ある」
「とりわけ友人をいじるに際しては労力を惜しんではいけない。これは鉄板だ」
「それは今もよく知ってる」
「いいよなぁ打てば響くフリック……あれを超える逸材はなかなか見つからない」
「やっぱりフリックは人類の至宝だったんだ……」

「まぁ、フリックトークで延々と語れそうだけど今日の目的はそれじゃないからね。そういうわけでさ。みっつだけ君には僕に質問する権利が与えられた!」
「へぇ……なら」
「その前に注意。歴史改変に関わるようなこととか、質問の個数を増やすこととかそういう質問はダメだよ☆ あと、質問に答えるかどうかは僕の気分しだいです」
「嘘は吐かないだろうね。あ、これは質問じゃなくて確認ね」
「答える時は嘘は吐かない」

「ひとつめ。今後マクドール家が貿易を続けるにあたって、最も儲かるタイミングと狙い目商品は?」
「時期かぁ……指定は難しいけど、造船技術と航海術を握っておくのをお勧めするよ♪ 手早いのとなるとやっぱり軍需産業になる」
「やっぱり群島には引き続き手を伸ばしておくべきかな……」
「あそこを伸ばすならクールークがあるしねぇ」
「そこらへんどうしたかも聞いてみたいけど」
「それは2つ目の質問?」
「うん、やっぱいい。次にしよう」
「こういうところのソツはないよね。他は決まってる?」

「そーだなぁ……200年後の僕、楽しい?」
「楽しくなさそうに見えるかい」
「ワンチャン空元気かと」
「残念。毎日とっても楽しいよ仕事はくそくらえだけど」
「……僕、まだ当主してるのか」
「さぁね。結構あちこち行ったりはしてるよ。詳しく聞きたい?」
「いや、なんか聞いたら羨ましくなりそうな顔してるよね、僕」
「別に聞いてくれてもいいのに。けど、今は今の楽しみ方があるから、しっかり楽しんでおくといいよ」
「たとえば?」
「レパントの私財庫を奇襲したりフリックの実家を奇襲したりネクロードの根城を奇襲したり」
「それ一部歴史改竄入らない?」
「むしろ入れと思ってる。あと30年くらいしたら身に染みるよ」
「…………」

「そいじゃあとひとつだけど」
「僕が200年後も生きている意義……いや、やっぱこっちにしよ。フリックと並ぶ逸材は未来にいる?」
「……さすが僕。目の付け所が違う」
「で、どうなの」
「いる。真なる天暗星として燦然と輝く青い奴が!外見はあんまり青くないけど!」
「それが聞ければ本望だ☆」
「楽しみにしてるといいよ☆」




***




ぽふん、と煙に巻かれたように残されたのは空箱だけ。
「おーいシグール? ……なんだその箱」
部屋に入ってきたテッドが大きな箱の前にたたずむシグールに首をかしげる。
それにゆるく首を傾けて、シグールはさぁ、と呟いた。

「ルックあたりの悪戯じゃないかなー」
「中に何か入ってたのか?」
「もう消えちゃったけどね。これ商品化できたら面白いのに……」
「悪戯を商品化するな」
指の背で小突かれて、シグールは呼びにきた理由を尋ねた。





***
テッドのこととかいろいろ聞かなかったのは、2番目の質問でやつらがいなければ楽しいなんてことはないと自分の中で確定事項としているからです。