ある日、自室に大きな箱が置かれていた。
まっしろな箱には青のリボンがかかっていて、その大きさは人間が軽く入ってしまえるようなものだ。
しかし部屋の持ち主であるジョウイにはさっぱり心当たりがない。
今日が何の日か覚えはある。
セノだろうか。けれど、今朝起きてこの部屋を出る時にこんな箱は当然なかったし、その後もジョウイはずっと居間にいたからセノがジョウイの目を盗んで箱を部屋に運ぶのは無理だ。
なによりセノは今日は朝から出かけている。
窓から――とも考えたけれど、窓の大きさから箱を入れるのは無理だ。
「んー……」
とりあえず、邪魔だ。
ベッドと本棚と小物棚と書斎机と。それだけ置いてしまえばほぼ猶予がなくなるくらいの敷地にこんな人間大の箱は圧迫感が半端ない。
この部屋にある以上、ジョウイが好きにしていいのだろう。
そう決めて、ジョウイは箱を開いて中身を確認したらとっとと畳んでしまおうとリボンに手をかけしゅるりとほどいた。
\ ぱかっ /
「はっぴばーすでーぼーくー」
「は?」
「なんで自分で自分の誕生日を祝わないといけないんだ…(小声)」
「……え?」
箱の中には僕がいた。
ものすごい棒読みで歌われた。
じゃなくて。
とりあえず頬をつねってみた。痛かった。
「残念ながら夢でもドッペルゲンガーはちょっと近いかもしれないけど鏡とかではないよ」
「ごめんちょっと処理が追いつかない」
箱の中で体育座りをしてやや死んだ目でこっちを見ているのは誰だろう。
たぶん今朝、顔を洗う時に水に映っているのを見たのが間違っていなければジョウイそのものだった。
***
「つまりね。今年というか来年の3月にサイトが十周年を迎えるということで、このサイトができた頃の僕に200年後というか十年後の僕が質問に答えてあげようっていう記念仕様なわけだ」
「その心は」
「僕がトップバッターだからテスターを兼ねている」
「…………」
「誕生日を忘れられたり毎年毎年テストばりにあれそれ試されたり説明させられたり、このために僕の誕生日が最初にくるように設定されたんじゃないかって穿って考えたくなるよね」
「……えーと」
「実際は本当に偶然なんだけどね。あ、こっちの僕はまだそういう企画が始まる前だから何も知らないことになってるよ」
「なってるっていうか知らないんだけどね!? なんか僕性格変わってない!?」
「200年擦りきり続けた神経って太くなるよね」
「…………」
「というわけで未来に不安しかないだろうこの頃の僕よ、みっつだけ君には質問をする権利が与えられている」
「はぁ」
「ただし歴史改変に関わるようなことは教えられないからそのつもりで」
「たとえば?」
「この数年後に***があってルックが***して***になるとか、もう少ししたらシグールが***したりとか、セノが***になったりとかそういうの。伏字部分は全部聞かせられない現実さ!」
「具体例が多すぎないかな!」
「ほんの一端だ。大丈夫。あと数年もすれば順番に綺麗になぞって体験できるから」
「今から胃痛しかしない……って、もしかしてまだあいつらとつるんでる、のか?」
「最初の質問はそれかな。答えは『Yes』だ。たいへん遺憾だ」
「…………」
「あいつらから逃げるなら過去に飛ぶしかない」
「未来は」
「あいつらもいるぞ?」
「…………」
「正直僕もさっさと帰って向こうで誕生日を心穏やかに過ごしたいんで、残り2つ決めてくれるかな」
「いきなり言われてもそうそう思いつかないんだけどな!? ……セノ」
「うん」
「セノは、幸せだろうか。あと、デュナンは」
「んー……まぁ、色々不満はありそうだけど」
「っ……」
「なんだかんだで楽しいって言ってくれてるし、まだ僕の隣で笑ってくれてるよ」
「……そ、う」
「デュナンも健在だ」
「そうか」
「けど、それを聞いたからって努力を怠るんじゃないよ。ほっとくとセノはすぐにどっかふらふらいっちゃうからねぇ」
「それも変わらないんだ」
「しかし想定内っていうかこの頃からかって第三者目線で見るとちょっと引くな僕」
「どういう意味だ」
「いやいや。僕の根底を再認識できてよかったなぁという話だよ」
「……200年経つと僕も随分と腹に抱えた奴になるんだな」
「それくらいしないとやってけないからね。あ、あとこれプレゼントな」
「なにこれ」
「シグールとルック特性のロシアン飴。どれかひとつは食べたら三日は意識が戻らないらしい。今の僕が食べると色々と差し障るから君にあげよう」
「色々と突っ込みたい!? というか自分によくそんなもの渡せるな!」
「今の僕の胃は痛くならない問題ない。友人からの誕生日プレゼントだよ嬉しいだろう?」
「それを押しつけてるやつが言うセリフか!」
「僕が食べるなら同じだ。それじゃ!」
***
「……頭痛い……胃が痛い……」
開いた箱の中には誰もいない。
まるで夢の出来事だったかのような数分間に、しかし手にある三つの赤い飴が現実だと教えてくれる。
いっそ夢と思わせてくれればいいものを。
「――とか言いつつ食べるんだろうなー僕のことだから」
などと未来の自分が言っているなどこの頃のジョウイは想像することもできず。
うんうんと唸りながら、どれから食べるべきかを迷っていた。
***
というわけでタイムパラドックス?なにそれ?な世界でお送りします10年目。
ジョウイはジョウイでジョウイでした。
地味に10年間で変化してるなぁと思いつつも割と書けるものだなぁと思いました。
なおシリアスっぽい部分ですが。
「セノは、幸せだろうか。あと、デュナンは」
「んー……まぁ、(王様業の忙しさとか書類の多さに)色々不満はありそうだけど」
「っ……」
「なんだかんだで楽しいって言ってくれてるし、まだ僕の隣で笑ってくれてるよ」
「……そ、う」
「デュナンも(僕らが王と王佐やってるし)健在だ」
「そうか」
ジョウイの肩にのしかかりまくってた!