「んー……」
ころん、と寝返りを打ってからセノは目を開いた。
視界の先、窓の外からは薄く日差しが差し込んでいる。
寒さの緩みとともに、日が昇る時間も少しずつ早くなってきた。
少し前までは起床時刻でも真っ暗だったのにと季節の移りを感じながら、起きたくないなぁと思ってもう一度反対側へと体を
転がしたところで、寝る前にはなかったものが視界に入り込んだ。
「……はこ?」
白い箱だ。
人が両手で抱えても余りそうな程の大きさの箱に、朱色のリボンがかかった状態で、ベッドの脇にどどんと置かれている。
自分で置いた記憶はない。
誰だろう。
シュウはまずないだろう。だとしても、中身が全部書類だったらいやだなぁ。
チャコとかはこういうことをしそうだけれど、前に勝手に部屋に入って大事な書類にインクを零してからシュウから入室禁止
令が出ている。
フリックか。それともシーナか。
それとも、それとも――
寝起きの頭でうつらうつらと考えていると、リボンがしゅるりとひとりでにほどけて箱が開いた。
「おはよう、僕。お誕生日おめでとう」
「……ぼく?」
ひょこりと現れた笑顔に、セノはぱちくりと目を瞬かせた。
***
「――っていうかくしかな感じなんだけど、わかった?」
「んー……」
「寝ぼけてるね僕……」
「だいじょうぶ……みっつまで質問できるんだよね」
「そうそう」
「なんで僕のところにきたの?」
「厳正なる抽選の結果、ってシグールさんが言ってたよ」
「そっかぁ?」
「これってひとつめになるのかな」
「かなぁ。あんまり思いつかないから、それでも構わないけど……あ。今日って晴れるかな。アイリと街に出る約束してたんだ」
「天気……ごめんね。天気までは覚えてないんだ」
「そっか、残念。でもそうだよね。だって僕だって少し前の天気覚えていられないもん」
「うん」
「僕は僕だもんね。えとね、あ。ナナミが料理上達する日って」
「くると思ってたなら、ごめん」
「うん。僕もなんかごめん」
「…………」
「…………」
「改めてなんでも聞けるよって言われるとなかなか困るね……」
「ゆっくり考えてくれればいいよ……ってそれもだめか。早くしないと起こしに人がきちゃうし」
「あ、そうだった。よかったらお菓子食べる? 昨日テンガアールからもらったやつなんだけど」
「ありがとー」
「みっつめかぁ……シュウがもう少し優しくなる方法とかも知りたい気がするけど……」
「それは僕も知りたかったなぁ」
「んー……どこかに、引っ越すにいい場所ってあるかな」
「……あ、そっか。ええとね、バナーの村って結構いい感じだなって思ったよ」
「シグールさんがいたところだよね」
「そうそう。たまにモンスター出るけどおおむね和やかだし、森に少し入ったところあたりに小屋建てるのもいいよ」
「キャロよりそっちのがいいかなぁ」
「当分はね。でもやっぱり、キャロが一番住み心地いいよ」
「だよね」
「じゃあこれでみっつ……かな?」
「うん」
「それじゃ、僕はもう帰るね」
「また会おう……でいいのかな」
「なんだか変な感じだけどね。また未来で会おう。僕」
「うん。それまで元気でね、僕」
不思議な気持ちになりながら別れの挨拶を告げる。
ふわりと朝の空気に溶けた自分の影を見送って、セノはぐぅ、と伸びをした。
扉の外から足音がする。
「おはようございます。軍主殿。軍儀のお時間です」
「はぁい。今行きます」
声をあげてセノはベッドを降りた。
今日もまた一日が始まる。
――本当は、ひとつ聞いてみたかったけど、怖くて聞けなかったんだ。
未来の僕がああやって笑っていられる理由は、今の僕と同じまま、なのかな。
***
〆を飾るセノですがツッコミがいないのでほわほわとしかしませんでした。
副音声を入れるのであればテッドが全発言に何かしらぶっこんでくるでしょう。