食事を終えて部屋に戻ると、部屋に巨大な箱があった。
先程部屋を出るまでは何もなかったはずだとクロスは扉を閉めながらまじまじと箱を見つめる。
それなりの広さがあるとはいえ、掌に乗る小箱ならいざ知らず、人が入れそうなくらいの大きさの箱があったらさすがに気付く。
塔の中ほどにあるこの部屋に侵入するには窓はあまりに高すぎるし、こんな箱を持ってはそもそも窓の大きさ的に無理。
扉の方は、さっきまで食事をしていた部屋を通らないといけない上、結界を張っているレックナートやルックが侵入者を素通りさせるはずがない。
「ルックかレックナート様……もないよねぇ」
だってさっきまで同じ部屋にいたのだ。
そもそも二人とも、こんな大きな箱を運んだりするのとか嫌がりそうだ。絶対しなさそうだ。まだ短い付き合いでもそれくらいは分かる。
「ああ、でも綺麗な包装だなぁ」
海に浮かぶ島々を思い出す。白い箱に、深い青のリボンがかかって、リボンの端には翠と黄の玉が通してある。
とりあえず調べてみようかなと数歩近づき、箱から物音がしないのを確かめてリボンの端を軽く引っ張った。
リボンは思いの他ゆるく結われていたようで、はらりと解けて――
\ ぱかっ /
「誕生日おめでとう、僕」
「……僕?」
きょとんとしたクロスの目に、同じ顔をした青年が笑う姿が映っていた。
***
「この企画も折り返しかー…なんとかなるものだなぁ。してるだけとも言うけど」
「ええと、僕は僕に何の用なのかな」
「表面上は動揺見せないってさすがっていうかやっぱり僕だよね」
「自己分析はいいから説明がほしいなぁ?」
「200年後の世界の僕達が、200年前…今この時代あたりの君達自身にQ&Aコーナーをしてあげようっていう企画だよ」
「……うん、突拍子もないことはよくわかった」
「疑わないんだ?」
「僕のことは僕が一番よくわかるし。ヨーンとか見てるとそういうこともあるのかなって」
「さすが放浪しただけはある……」
「さて、と。あんまり時間もないから何が聞きたい? 今の時代だとルックとお近づきになる前だよね」
「あ、ストップそれについてはノートークで」
「えー」
「知っちゃったら面白くないじゃない。自分で進めていくのが楽しいんだもん。僕だからわかるでしょ?」
「まぁね」
「ってことで、質問したいことって特にないんだよね」
「未来についてはいらないってことか……あれとかこれとか色々あるけど」
「何かいい小金稼ぎの方法でもあれば聞きたいけど」
「小金……来年あたり竜の出現時期だから竜饅頭の材料作成でもするとか?」
「あ、それいいかも」
「あんまり僕きた意味なかったねー」
「200年後も元気に存命してるってことがわかっただけでも十分な収穫だけどね」
「色々楽しいよ☆」
「とはいえ手ぶらで帰るのも着てもらって申し訳ないし、これ聞いてみようかな」
「何?」
「僕にテッドのことを教えてくれた青い人と熊の人ってまた会えるかな。お礼言いたいんだよね」
「ああ、なるほど。それならそう遠くない内に会えるから安心していいよ」
「楽しみにしてる!」
「それじゃあねー」
「あっ、もひとつ! 掃除洗濯って楽になってる?」
「未来だと今の時代ある石鹸より数倍よく落ちる洗剤ができてる」
「なぜそれを持ってきてく れ な か っ た の か」
「持ち込みは禁止なんだよねー……」
「じゃあしょうがないか……」
「掃除が楽になる日を心待ちにしてて!」
「うん、また未来でねー!」
***
ぱたん、と閉じた箱は瞬きひとつでどこかへ消える。
今のは現実だったのか夢だったのか分からないが、残ったリボンを手にクロスは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
***
クロスの質問がまったく思いつかなかったという。
掘り下げたら「こいつそもそも質問とかいらなーい」タイプだ…と頭を押さえたのでした。
その結果が洗剤オチ。