「はあ……困ったなあ」
溜息を吐いたクロスは、目の前にいる兵士たちを見やった。
「あの、僕ちょっとほんとに急ぐんだけど。だめ?」
「だめだ、現在国境は封鎖されている」
「……しょうがないなあ」
にべもない相手の態度に、クロスは懐をまさぐると、とりあえず印籠代わりになると持たされたそれを取り出した。
「はい、よく見る」
「…………?」
「もっと近く。はーい近く。ここにあるサインね? よく読んでね? 印じゃないよサインだよ? 直筆だよ?」
ぐいぐいと鼻先に突きつけていると、何度か左右に目を往復させてから兵士たちは首を傾げた。
「これは……本物か?」
「本物だよ。疑うなら一番偉い人呼んで」
ひらひらと証拠を振りながら要求すると、しばらく待つまでもなくガシャンガシャンと甲冑の音を響かせ、長身の男がやってきた。
いかにも、といった様子の彼(隊長らしい)の目の前に、クロスはまったく同じにそれを突きつける。
「…………なんだこれは」
「通行書。発行元の名前よく見て、よぉーく見て?」
「ん? サインか、これは……うっ!?」
真っ青になった隊長に、クロスはにっこりとほほ笑んだ。