「はい、僕の勝ちーってね♪」
「負けた……」
「なんか久々に負けたなぁ」
「たしかに珍しいな、クロスが負けるの」
「罰ゲーム、どうするんですか?」
「ふふふ……( ̄▽ ̄)」
「……あああああ、嫌な予感が」
「あきらめよう、これも敗者の運命だよ」



***



「風向きよーし、天候よーし。はいジョウイどうぞ☆」
「ほ、本当にやるのかい……?」
塔の最上階、晴れ晴れとした空の下に立つジョウイは、普段の彼の格好からはかけ離れた服装をしていた。
赤いベストの下は何も着ておらず、ズボンも余裕のあるジーンズ生地で、素足にサンダル。そして頭には麦藁帽子。
つまりはどこかのひとつなぎの財宝海賊スタイル。
「似合わないねぇ……」
「誰が好きでこんな格好してると……!?」
「そうだね、罰ゲームだから仕方がないだろ? それともここからトイレットペーパーバンジーをしたいのならそっちに今からでも変更はできるけど……」
「一番、ジョウイ=アトレイド、叫びます!!」

いくつかの罰ゲームの選択肢(あらかじめカードに書いてあった)から一番まっとうなものを選んだつもりだったけれど、クロスの方がよかったのかなぁと今更ながらにこんな罰ゲームつきのゲームなんてしなければよかったと、ジョウイはさめざめと泣きながら、その セリフを口にした。

魔術師の塔の屋上で。
澄み渡る空へ向けてこぶしをつきあげ。

「海賊王に、僕はなる!!」



***


「くそっ、こんなところで……!!」
青年は必死に走っていた。
慣れた行程のはずだった。
雪の多く降る土地で生まれ育った彼は、雪山の越え方も熟知していて、モンスターの出没地点や冬眠の時期だってきちんと把握していたのだ。
それが慢心を招いた。

今は夏だが雪山であるこの山にはところどころ雪が残っている。
そして、冬に比べてゆるくなっている地盤をうっかりと踏み外した青年は、普段なら立ち入らないはずのところまで滑り落ちてしまったのだ。

護身用の剣こそあれど、追ってくるモンスターは両手の指よりも多い。
明らかに不利なこの状況で、こんなところで俺は死ぬのかと青年は悲壮な覚悟を決めた。
その時。

「そこのモンスター、待てっ!」
「グルルルッ!?」
「とうっ!」

どこからか聞こえた声の主は、しゅたっと青年とモンスターの間へと割り入った。
突然の乱入者に、モンスター達も一瞬追う足を止める。
「こ、こんなところに人が!? ……人?」
天の助けだと思った青年は、ちょっと我が目を疑った。
だってその人物は、頭のてっぺんからつま先まで、真っ黒なよくわからないツナギのようなものを着ていた。
体のラインや背の高さから男性であるとは分かるけれど、それ以外はまったく素性が知れない。
なんでこんなところで戦隊戦士。
しかもブラック単品。

「さて、この正義の味方が助けてあげましょう☆」
「グルアッ!」
「あ、危ないっ!!」
「――永遠なる許し☆」
「ギャアァァァァァァァ!!」
敵の巨大化も変形も一度のピンチも何もなく、一瞬でモンスターは滅び去った。