「時々うらやましいなって思うんです」
「あぁ?」
いきなりなんだ、と目を細めるテッドに、フッチは手に持ったサンドイッチの中からレタスだけ歯で器用に引き出して噛み千切った。
普段ならここで「行儀悪い」とその行為を咎める人物が、今日この場にはいない。
テッドの恋人は今頃自分のお国で突発的に起きたトラブルの解決に奔走していて、フッチの思い人は本拠地のどこかで職務に励んでいるのだろう。
こんなにいい天気なのにどうしてこの人と二人きりなんだろう、と思っているのはフッチとテッドのどちらもだろう。

今度はトマトだけ引き出して食べながら、フッチは溜息交じりに言う。
「テッドさん、いつだって一緒にいれるじゃないですか」
「今は離れ離れだぜ?」
「そんなの一時的じゃないですか。会いたくても会えないとか、ないでしょう」
「お前だって、会おうと思えば会えるだろ」
「会えますよ。会えますけど、抱きしめたりキスしたりずっと一緒にいたりはできません」
「だったらとっとと告白するなり押し倒すなりすりゃいいじゃねぇの」
恋愛相談はお断りだ、とテッドは 水筒から紅茶を注いで喉を潤す。
食堂でもらったものだが、香りの強いハーブ系がテッドはあまり好きにはなれない。
一口だけ飲んでフッチに押し付けると、恨みがましい目つきで睨まれた。

「できたら苦労しませんよ。けど、あっちは絶対そんな目で僕を見てはくれません」
「だったら閉じ込めて縛りつけてみるか?」
「体だけで満足できるんだったらとっくにやってますよ。僕がほしいのはつながりです」
「怖いねぇ、団長さんは」
けらけらとおどけて笑ってみせると、フッチにまとわりついている暗い雰囲気が更に増す。
テッドとしては人事だから楽しんでいられるが、いい加減当事者であるフッチの方は限界が見えているらしい。
「ほんと、あなたがうらやましいですよ。だって紋章でつながれてるんでしょう? シグールさんが死んだらあなたも死ぬなんて。死ぬ時まで一緒だなんて」
「妬ましいって聞こえるけどな」
「そのつもりで言っていますから」
「ははっ。百年早ぇよ。三百年焦がれてから言えっての」
文字通りの年月を指摘されて、フッチはパンだけになったサンドイッチを口の中に押し込んで、紅茶で胃に流し込んだ。



あと百年経ったら、この恋心はもっと醜くて重たいものになっているのだろうか?