「料理勝負、ですか」
「はい、ぜひ一度お願いしたいなーと」
「勝ったらプレミアもののこちらのワインが」
「頑張りましょう」
***
「バカだろ、あほだろ。誰だよこんな企画組んだ奴……!!」
「え、だってせっかくビッキーの転移でナナミがきてたから」
しゅん、としょげているセノに、思わずテッドの悪態も止まった。
止まったけれど、このやるせなさは消えない。
「せっかくでこんな料理バトル組むんじゃねえよ……」
知ってたらこなかったのに、と肩を落とすテッドとは逆に、リーヤはぶらぶらと足をぶらつかせて楽しそうだ。
「ナナミってセノのねーちゃんだろ? 楽しみだー♪」
「…………」
ああ、何も知らない子供はいいなぁ。
知っていても逃れられないジョウイとテッドは、クロスとルックの料理でずいぶんと舌が肥えているリーヤの味覚が崩壊しませんようにと祈るのみだった。
ああ、それともう一人。
「ずいぶんと顔色が悪いな」
「ラウロ……悪いな、リーヤの友人なばっかりに……」
「待て。まるで道連れに俺まで死ぬような言い方をするな」
ラウロは何かを察してか顔色を悪くしたけれど、今更遅い。
恨むならリーヤを呼びにいった時に一緒にいた自分を恨め。
審査員四人がぼそぼそと話している間に、料理は完成したようだった。
「はーい、できたよー!」
「こちらも完成しました」
ほぼ同時に完成したナナミとレックナートの料理がそれぞれ席へと運ばれる。
ナナミはやはりというか特製シチュー。
レックナートはポトフ……のようなものだった。
ごろっと大きめに切られた野菜がスープの中に転がっている。
ところどころ黒いものは何かが焦げたものらしい。
レックナートの家事能力については全員が知るところだったので、特に問題はない。
問題は。
「なんだ、ナナミさんの料理、おいしそうじゃないか」
「…………」
ラウロの浅はかな感想にテッドとジョウイは首を横に振る。
その見た目と味のギャップを思うと、レックナートの見た目から味が予想できる一品がどれほどマシであろうか。
死刑囚の面持ちで、テッドとジョウイはスプーンを手に取った。
ぱくりとレックナートの料理を口に入れたリーヤは、やはりというか微妙な顔をする。
「むー……クロスとルックの料理かはうまくない」
「だろうな」
長い沈黙の後にリーヤが捻り出した感想は、普段の彼の口の悪さからすればかなりうまい評価だったと思われる。
リーヤのことだからストレートに不味いと言うかと思ったが、やはり長年一緒に暮らしている相手にさすがにそれはと遠慮したのか。
大きく切りすぎて中まで火が通りきらずにじゃりじゃりと生野菜をかじる音が口の中で聞こえるが、味の方は問題ない。
素煮とでも思えば。野菜本来の風味を引き出すための味付けと思えば。
リーヤから視線を外して、テッドはナナミシチューを食べてから動かないラウロを軽くゆすった。
まさかこのまま気絶してるんじゃないだろうかと思ったが、目障りだと払われた。
「なんだ、意識はあったか」
「軽くトビかけたがな……なんだこれは」
「ナナミシチュー」
「…………」
「伝説の殺人兵器だ」
「……そうか」
「意外と平気そうだな?」
「我が家にも人間兵器が一人いるからな。二口目は遠慮したいが、かろうじて堪えられる」
「そうか……」
口直しにレックナートの料理を口に入れ(これが口直しになるあたり泣ける)ラウロはテッドの隣に座っているジョウイを冷めた目で見て言った。
「……で、それを平然と食べているジョウイは何なんだ」
「セノとジョウイはずっとナナミの料理食べて育ってきたらしいから」
「……ルックが実験台に選ぶ理由がよくわかった気がする」
ジョウイが聞いたら「なんの因果関係もない」と断固反論するであろう感想を吐いて、ラウロはスプーンを置いて溜息を吐いた。
***
「……なんてこともあったなぁ」
「どうしてそれを今思い出す」
やめてくれ縁起でもない、と眉を寄せるラウロに、テッドは苦笑いを浮かべながら目の前にある器を見つめる。
こんな寒い日にアイスクリームの差し入れかと思わないでもないが、いくら冬だとはいえ、器の中に入れられたままのアイスは一向に溶ける気配がなかった。
そして、とんでもなく赤い。
普通ならイチゴ味を連想するのだろうが、テッドの記憶には数百年経とうともイチゴよりも先に思いつく味がある。
「……ラウロ、一口」
「自分で食え」
「……俺の第六感が告げるんだ。今これをここで食ったら、明日の朝まで目覚められないと」
「そうか」
知るか、とスプーンを口に突っ込まれた。
仕事の目処がたったからって、深夜までつき合わせておいてその仕打ちはねーよとテッドは思った。
せめて毛布くらいはかけておいてくれないと風邪引く……とまで考えたところで、テッドはまだ自分の意識がある事に驚く。
「……あれ、思ったより……マシ……?」
「なんだ」
「ナナミアイスだと思ったんだけどなぁ……あれ、一口食うともっとすっげー苦くて痛くて、シチューなんか目じゃないくらい強烈なインパクトなんだけど」
「それはアイスに対する評価ではない気が……」
「これはすっげー甘ったるいけど……まぁ、なんとか飲み込める……」
「……誰が差し入れてきたんだ」
「しらね。気付いたら部屋にあった」
「そんな得体の知れないものを食わそうとするな!」