あたりには壊された建物の残骸と瓦礫が散らばり、そこかしこから燻る火が見える。
いかにも襲撃にあった村の様相を前に、ユーバーは困惑していた。

今までユーバーはいくつもの村を同じようにしたし、その事に罪悪感など覚えた事はなかった。
どれがどの村であったかも覚えてはいない。
しかし、ここ二百年ほどはそんな振る舞いはとんとご無沙汰していたし、この数年は静かに暮らしていたはずだ。
ついでにさっきまで自分は寝ていた。

「いったい、どうなってるんだ……」
体を動かせば、昔 脱ぎ捨てたはずの黒い甲冑が音を立てる。
その時、何がなんだか分からないユーバーの視界を横切るものがあった。
それはひらりとなびくバンダナだった。

その色は、記憶を振り返る事など滅多にしないユーバーが、鮮明に記憶している数少ない色だった。
緑と、ひるがえるは紫。

「やぁ湯葉☆」
記憶の底から恐怖を呼び起こすような軽やかな声に、ユーバーはその場から身動きが取れなくなった。
ユーバーを「湯葉」と茶化して呼ぶ者はこの世に数えるほどしかいない。
その中でも最たる人物が、今ユーバーの目の前にいた。
黒髪に赤い胴衣を身にまとい、不思議な色の組み合わせをしたバンダナを締めている少年は、茶髪の弓矢を背負った青年を横に従えてそこにいた。

「あれ、思ったより無口? この頃の湯葉ってもっと饒舌だったと思ったんだけど」
「そうなのか?」
「うん。すっごく流暢でねー。今の湯葉もこの頃の半分もしゃべれば面白いのにねぇ」
その時ユーバーは本能のままに動いた。
ここがどこなのか、いつなのか、自分がどうして昔の格好をして立っているのか、疑問は数多くあったが、それら全てを後にしても優先すべき行動があった。










「…………」
「……おい、お前何したんだ」
「何もしてないよー……まだ」

無言でその場に土下座しているユーバーに、シグールとテッドはさすがに戸惑ったようだった。