気付いたらそこは豪華な部屋の中でした。
呆然としているリーヤの目の前には、天蓋のついた大きなベッドがあり、見るからにふわふわしていそうな布団に小柄な体が沈んでいる。
その姿を見て、手に持っているトマトジュースを見て、リーヤはゆっくりと足を後ろへと向け――
「何をしておる。もっと近くまで来れや」
「…………」
「どうした?」
「……いや、ここで……」
気持ちは今にも部屋から駆け出したいのに、体は固まって言うことを聞いてくれない。
ベッドの中央に堂々と体を横たえ上半身を起こしているシエラは、真っ赤な唇を三日月に象って、首を傾けた。
「そんなところで酌ができるとでも? ほれ、ベッドの上に乗っても構わんぞ? わらわが許す」
「いや、ほんと勘弁してください……!」
「トマトジュースは鮮度が命だというに、味が落ちたら責任を取ってくれるのかえ?」
すっとシエラの目が細められる。
彼女の機嫌を損ねる事がどれほど恐ろしいかを知ってしまっているリーヤは、泣く泣く従うしかなかった。
「うう……」
びくびくしながらシエラにトマトジュースの酌をする。
ちろりと杯の中身を舐めて、満足気にシエラは笑みを作った。
「ふむ、やはり極上の一品は喉越しが違うのう」
「シエラ様……この手はなんでしょう、かー」
しっかと掴まれた腕に頬を引きつらせて問うたリーヤに、シエラは花が綻ぶような笑みを浮かべて言った。
「前菜の後はやはりメインディッシュであろう?」
「もう夕食の時間は過ぎてますー!」
「わらわの活動時間はこれからじゃ。こうしてわらわのところにやってきたということは……そういうことだとわかっておろう?」
つ、と顎に指を這わせられて、リーヤはぞくりと背筋を震わせた。
血の気が失せた。いや、これから実際に血を抜かれるのだけれど。
「ほれほれ♪」
「わかってたから来たくなかったのに……」
美少女に首筋に抱きつかれても、真実を全て知っているリーヤはちっとも嬉しくなかった。