「あーうー……」
ごろごろごろ、と転がって、リアトは意味にならない声を出してみた。
ごろごろごろ。
ごろごろごろ
ごろごろごろごろ。
ごつん。
「…………」
元々は広い部屋に箱や袋が沢山置かれているから、ころころと転がればすぐに何かにぶつかってしまう。
箱にぶつかって、リアトはまたしばらく唸っていたけれど、その内唸るのも止めてしまった。
今日は暑い。
とても暑い。
リアトは寒いのも苦手だけれど、暑いのはもっと苦手だった。
それでも普段はここまでだらけたりしないけれど、だって今日はとにかく暑かったのだ。
そして朝からリアトはなんだか何もする気が起きなかった。
今いるのはユーバーが最初にいた地下倉庫で、日光が当たらないこの部屋は、入り口に隙間を作っておくと船着場からの少し冷たい風が流れ込んできて涼しい。
石でできている床は転がっていると体から熱を奪ってくれて、リアトはひやりとした石の温度を楽しみながら、体温が移ると違う場所へ移動を繰り返していた。
「あー……」
ころり、と転がって、リアトは暗い天井を見上げた。
本当は、今日は机の上に置いてある書類を片付けないといけなかった。
夕方からは
会議だってあるし、明日からは遠征だからその準備もしないといけない。
まだ、一緒にいく人も決めていない。
最近遠征続きでウーソやエルフのところに顔を出せてもいないし、そういえば交易品の管理だってしていない。
やらなきゃいけない事は次々と浮かんでくるけれど、とにかくやる気が起きなくて、起き上がろうと思えない。
起きないとと思えば思うほど体はぴったりと石にくっついてしまう。
「…………」
だめかな。
やらなきゃだめかな。
だめだよね。
でも暑い。動きたくない。
ぼーっと考えつつ、リアトはやがてまどろみ始めた。
***
ふと意識を浮上させると、遠くで誰かが泣いていた。
男の子と女の子が、お墓の前で泣いている。
きっと大切な誰かが死んでしまって悲しいんだ。
周りには大人がいない。もしかしたら、お父さんもお母さんも死んでしまったのかもしれない。
泣いている男の子と女の子の傍にはもう一人男の子がいた。
その子だけ泣いていなくて、泣いている二人を慰めるように言っていた。
「そんなに泣いたら師匠が心配してゆっくり眠れないよ」
「大丈夫だよ、僕らはずっと一緒だから」
本当は自分だって泣きたいのに、我慢してるんだとリアトはふわふわした思考の中で考えた。
まるで兄ちゃんみたいだ。
また意識がどんどんぼやけてきて、あたりが真っ白になっていく。
そういえば、あの男の子、どこかで見たことがある気がする。
どこだったっけ……なんだか、すごく最近……。
***
「あ、起きた」
目を開けると、金色が視界に最初に映った。
「…………」
「こんなところにいたんだね」
「……ええと」
「会議の時間になっても姿見せないから、皆で探してたんだよ」
「え、今何時っ!?」
がばっと起き上がろうとすると、くらっときてそのまま後ろへ倒れこんだ。
ジョウイが手で頭を支えてくれたから、石の床に頭をぶつけずに済んだけれど。
「ごめんなさい……会議、出なきゃいけなかったのに……」
「気にしないで。リアト、今日はお休みってことになってるから」
「え」
「リアト、熱あるって気付いてないね?」
「……へ?」
「息抜きも必要だろうと思って適当に理由つけておいたんだけど、まさかほんとになっちゃうとはね……」
よいしょ、とリアトを抱えてジョウイは部屋を出る。
部屋の外にはシグールとテッドが待っていて、リアトを見てやれやれと肩を竦めていた。
「まったく……無理をさせすぎなんだよラウロは」
「自分の無理もわかってないけどね〜」
けらけらと笑うシグールはリアトの前髪を払って、ゆっくり休みな、と優しい言葉をかけてくれた。
「最近暑い日が続いてたしね。疲れが溜まってるのもあって、体がまいっちゃったかな」
「この部屋涼しいからなぁ……結果的に体冷やしすぎて悪化させた気もするが」
「……夢、見たんだ」
「夢? どんな?」
「……忘れちゃった」
へへ、と小さく舌を出したリアトに、肩透かしをくらった三人は楽しそうに笑うだけだった。