<借り入れ騎士>

 

「……ちょっとまて、どうなってるんだこれは!」
内乱終結直後。
ロイは共に戦ったアユーダ軍の面々に挨拶をして、とっとと北へ去ろうと思っていた。
やりたいことはあった。
役者になろうと、そう思った。
最後に、アルファードにも会っておいてやろうと――ついでにリオンも見納めになるだろうから、会っておこうと。
そう思っただけだったのに。

「ロイ、僕は忙しい」
「じゃあこの手はなんだ!」
「暴れないでくださいねぇ、ロイ君。ちょんぎっちゃいますよぉ」
「笑顔で言うんじゃねーよ! っつーかあんた、ここにいて姫さんの護衛はいいのか!」
「その姫様のためなので手元が狂っても悪くありません」
「悪いわ!」

相変わらず会話が疲れるミアキスに怒鳴って、ロイは目の前の明らかに首謀者なアルファードをにらみつけた。
背後からミアキスに両手を押さえられ逃亡できないようにされているので、あまりサマにはならないが。

「そのリムの件なんだ」
「……はあ」
「早々に戴冠式を執り行うわけさ」
「まあ、だろうな」
はあ、とため息をついてアルファードはその顔に疲労を濃く浮かべる。
女王騎士長に就任した彼は、並み居る貴族だのなんだのをぎったぎたと斬って人事再整備をしているので、いろいろ大変らしい。
まあ、適所適材というか、妥当な仕事だとは思うのだが。
「ザハークとアレニアはもういない」
「だろうな」

彼らは反逆者に組した女王騎士。
これ以上王宮にてその職を全うすることはできないだろう。
処刑にならなかっただけましとも言える。
(なお後日ガレオンに聞いたが、基本スタンスは「殺れ」だったのを王子がねじ伏せたらしい)

「んで、ガレオンももう年だし。カイルは逃げやがったし。僕も不慣れだし。リオンがようやく昇級したけど」
「何が言いたいんだ」
「人が足りないから手伝え」
最初からそう言え。

「各地から慶賀の使者が来るわけ。それに会わないといけないわけ」
「はあ」
「リムの可愛らしさとか異例の年齢とかここまでの経緯で興味持ちやがった人が多いので、人数がすっごく多いわけ。リムが全員に会うわけないけど、僕一人じゃ全員さばけないわけ」
「……うん?」
言わんとしていることがわからなくて、ロイは首をかしげた。
つまり、なんですか?

「女王騎士長代理が二人いたら効率が二倍だよね」
「さっすが王子、慧眼ですぅ」
笑顔で言い切ったアルファードにミアキスがにこやかに同意する。
数秒後、話を理解したロイは絶叫した。
「ちょっと待った!!」
「もう衣装も準備万端だよ。謁見が終わったら一女王騎士として警護に回ってもらうね」
「うぉい!」
「大丈夫ですよー、ロイ君はロイ君らしくしてればまったく王子に似てないですからねー」
「そういう問題じゃねーよ! 俺は今から北に行くんだって! フェイロンとフェイレンも待たせて」
必死にもがいてみたが、ロイの気力は次のアルファードの言葉でぽっきりと折れた。


「あ、その二人ならついさっき君との契約金前払い分持って群島へ向かったよ」
「は!?」
「というわけで前払いが済んでるし、存分に働いてもらおうかな☆」
「ちょっと待て! 聞いてねーぞ!」
「うん。ロイが王宮に入ってきてリオンとなかなか会話できずにもじもじしてた間に手を打ったんだ。旅費が少ないって困ってたし、とりあえず一年ロイを借り入れる方針で」
「一年っ!?」
「安心して、前払いしか渡してないから残りはちゃんとお給料出せるし」
「そういう心配してねーよ!」
というか売られたのか。
仲間でもあり半ば兄妹でもあったあの二名に売られたというのか。

俺はドコの商品だ。

「じゃあ、今からみっちりお勉強してもらうね♪」
「はあ!?」
「外交とか貴族の顔とか身分とか地位とか諸事情を覚えてもらわなきゃ」
あと王宮内のマナーとか配置とか剣も使えるようにしなくっちゃね☆
笑顔で言いやがった王子の胸倉を掴むことにロイはなんとか成功したものの、いろいろな意味で脱力してもはやその手に力は入らなかった。




***
ロイ 受難。
きっとどんな設定より 受難

(オマケ)
「あ、シフトはリオンとあわせてあげるね」
「余計なお世話だこのクソ王子!」
「あ、今は殿下ですよ〜、女王騎士長代理」
「うっせえ! アルフ……覚えとけ!」
「うん、覚えとく♪」
「…………(涙」