<落城>
気付けば暗い空に瞬く星が見えた。
リオンに一撃を入れられて昏倒させられるという、なんとも情けない状態で城の外まで連れ出されてしまったらしい。
「王子、気がつかれましたか」
「……ここ、外?」
「ああ、王宮のすぐ外のね」
ゆらゆらと覚束ない浮遊感を背中に感じつつゆっくりとアルファードは起き上がった。
太陽宮は依然として煌びやかな明かりを僅かながら外へ漏らし、建っていた。
外から窺うだけでは今中でクーデターが起きようとしていたことなど分からないだろう。
騒ぎはもう鎮まっただろうか。
予定では、そろそろ終わっていてもいい頃だ。
力ずくで脱出させられるなど思ってもいなかったが、事情を話してさっさと王宮に戻った方がいいだろう。
ギゼル一人の言葉では父も母も納得はしないだろうし、このまま逃げ出すのは意味がない。
「ねぇ叔母さん、リオン、ゲオルグ」
「どうした?」
「あのさ、こ――」
一瞬にして夜と昼が交代したのかと思った。
目もくらむような眩い光が王宮の窓という窓から放出され、あたりは白く染まる。
膨大な力の放出で湖が波紋を作り、小船に乗った四人は風に煽られて一瞬体勢を崩した。
目を瞑り、口を噤む。
全てが灼かれてしまいそうな、ひりひりとした痛みが全身を打ち、目蓋を閉じた上からも容赦なく光が目を焼いた。
「な、なんなんですか!?」
「あれ……は……」
収まった光量におそるおそる目を開き、顔をかばっていた腕を外した。
光はすでに一本の柱となり、徐々に細く細くすぼまっていく。
「太陽の紋章が像に戻ったんだ……」
呆然とサイアリーズが呟いた言葉に、アルファードは息を止めた。
太陽の紋章。
国の礎、頂の証。
女王のみが額に宿すことを許され、そしてそれは母であるアルシュタートが宿していたはずだ。
つい、先ほどまで。
ならば母が太陽の紋章を使ったのか。
クーデターを阻止するために使用するのは分かる。
けれど、こんな、まるで暴発のような。
光は城の中央、太陽の紋章を本来寝かせておくための像を収めてある部屋のある位置で集約され、そして消えた。
あたりに再び闇と静寂が訪れる。
「ア、アルシュタート様……」
「太陽の紋章が台座に戻ったということは……姉上は……もう……」
リオンが口元を覆う。
サイアリーズは辛そうに王宮から視線を逸らして、肩を落とした。
アルファードは目を見開いたまま、今は元の姿に戻った王宮を見つめてサイアリーズの言葉を反芻していた。
宿主から紋章は勝手には外れない。
自動的に像に太陽の紋章が戻るのは、宿主が命を落とした時。
何があった。
あの王宮の中で、何かがあった。
計画にはない、予想もできなかった何かが。
そのせいで母は死んだ。
父は、リムは、カイルは、残った女王騎士や兵士達はどうなった。
クーデターは止まったのかすら分からない。
戻りたい、けれど状況が把握できない。
先ほどまでとは違う、何か大きな狂いが生じて、今がどうなっているのかアルファードにすらもう分からなくなっている。
説明して戻るべきか。
このまま逃げるべきか。
「アルファード」
王宮を見据えたままのアルファードの背中にゲオルグの声がかかる。
「逃げよう」
東の離宮へ。
クーデターが成功したという確信はない、けれど失敗したと思える要素が現状のどこにもなかった。
もしそうであるなら、戻るわけにはいかない。
引き返せない。
「王子……」
「そう、だね……このままここにいたら見つかる」
ゆっくりとゲオルグが船を漕ぎ出す。
少しずつ遠ざかる王宮の明かりを見ながら、アルファードは冷たい息を吐いた。
この選択がただの杞憂であればいいと、願って。
***
王宮イベントがどうなったのか確認できないのでうろ覚えで。