* 基本的に敵でも誰も死にません。 108星ENDの女王騎士END前提です。



<A verdade que e escondida 1>





自室はなにひとつ変わっていなかった。
赤く染まった日差しに照らされた室内は、一日出かけて帰ってきた時と同じようにサイアリーズを出迎えた。
長い不在の間も侍女は掃除をかかさなかったのだろう、床には塵ひとつなく、洗いたてのシーツが皺一つなくベッドにかけられている。
机上には、サイアリーズが好きな花が生けられていた。

離れている間、あれほど焦がれたはずの自室に、しかし懐かしさを感じる事はない。
あるのは自責と僅かな心残り。
アルファード達と戻ってくるはずだったこの太陽宮に、たった一人で戻ってきたのは、自分の意思だ。
後悔などしていない、してはいけない、それなのに。

裏切り者、恥知らず。
先ほどリムスレーアに散々罵倒されたばかりの言葉が蘇る。
予想通りの言葉に、確かにそのとおりだよと笑って聞いていたサイアリーズは、リムスレーアの言葉に一瞬だけ凍りついた。
「そなたなど、もうわらわの叔母上ではないっ!」

何を言われても平然としていようと覚悟を決めた。
目的のためには太陽宮に戻ってくる事が必要だった。
「やっぱり、きついねぇ……」
今まで真っ直ぐに信頼を向けてきてくれていた瞳はもう見られない。
そう思うと、少し胸が痛んだ。

アルファードに、言うべきだったのだろうか。
否、とすぐに自分の迷いを打ち消して、サイアリーズは皺ひとつなかったベッドに腰かける。

アルファードに言えば、きっと彼は止めただろう。
そんな事のために、と。
けれど自分にとっては何よりも変えがたいものを守るための唯一の方法だ。
そのために、余計な心配をかけたくはなかった。
ただの裏切り者と、憎んでくれたっていい。
その方が、あの子の心が少しでも痛まないのなら、どう思われたってかまわない。



さて、これからどうしたもんか、と思考を切り替えてサイアリーズは天井を仰いだ。
太陽宮に戻ってきたはいいが信用などされてはないだろう。
目的を果たすためには、まず向こうを少しは信用させないといけないのだけど。

その時部屋の外で話し声が聞こえた。
耳に馴染んだ侍女の声と、それから、低い声。
少しドアが開いて、その隙間から戸惑う侍女の顔が見えた。
「サイアリーズ様……ギゼル様が……」
「いいよ、入れな」
「は、はい」
侍女が答えて、その場を退いた。
ドアが完全に開かれ、女王騎士の鎧服を身にまとったギゼルが中に入ってきた。
「不自由はございませんか?」
「……さっきも思ったけど、あんたそれ、つくづく似合ってないよ」
サイアリーズの言葉にギゼルはただ笑うだけだ。
気を害した様子もない。

余裕のある表情に、サイアリーズは目を眇めて横を向いた。
数年前はこんなに気に食わない奴じゃなかったのに。

「……アルファード様は」
サイアリーズと同じ視線の向き――窓の外を見ながら、世間話をするかのようにギゼルは切り出した。
「あの方は、今回の事はご存知なのですか?」
「何の事だい」
「いえ……貴女がアルファード様を残してこちらに来てくださるとは、あまり信じられなかったものですから」
「あたしがあの子と何か企んでるとでも思ってるのかい?」
睨みあげると、ギゼルは肩を竦めていいえと首を振った。
その瞳には僅かに楽しんでいるような色が見えたが、サイアリーズはそれに気付かない。
「あの子の周りには沢山の仲間がいる。これくらいで負けるような子じゃないよ」
そう、自分などいなくても、あの子はちゃんとやっていける。

「そうですね」
含み笑いをして、ギゼルは一礼すると踵を返した。
部屋のドアを開け、ふと思い出したように振り替える。
「疲れが取れましたら、一度紋章の間へおいで願いたい」
返答せず外を見ているサイアリーズに小さく笑って、ギゼルはドアを閉めた。


サイアリーズは立ち上がると窓を開けた。
息詰まる空気を追い出すように、思い切り息を吸い込む。
眼下に灯り始めた明かりを見つめながら、サイアリーズは切なげに目を細めた。
――この都はこんなにも、冷え切ったものだったろうか。
 

 

 

 

***

というわけで3をやったので5もやります。