<非日常な日常>
後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。
「王子! どこに行っていらしたんですか、探したんですよ!」
ぷりぷりと怒るリオンにごめんと言葉少なに謝って、王子は銀の髪を揺らして振り返る。
「んもう、勝手にいなくならないでくださ……ロイ君?」
「え、いやだなリオン俺、僕はアルファードだよ」
「やっぱり! もう、王子はどこですか!?」
「し、しらねぇよ、俺にこの格好してうろつけって言ってただけだって!」
やっぱばれるじゃねぇかあの馬鹿野郎と叫んで鬘を床に叩きつけたロイに、王子を馬鹿なんて言わないでくださいっとリオンがきっと振り向く。
「だいたい、なんで王子がロイ君にそんなこと頼むんですか!」
「知るかよそんなもん」
「なんで断らないんですか、王子はどこです!?」
「だからしらねーし、お前だってあの……」
「あのなんですか」
「……いや……ど、どーせ外でさぼってんじゃねーの」
詰め寄るリオンから視線をそらして、ぼそぼそとそう言ったロイに、腰に手を当てて怒っていたリオンは王子はサボったりなんかなさいませんと言って反対方向へ「王子〜
」と呼びながら行ってしまった。
「ローイー君」
ぽん、とリオンの後姿を見送っていたロイの両肩に後ろから手がかけられる。
「カ、カイル……」
「王子の身代わりをした理由は?」
「……あの笑顔で! どこまでもきらきら輝くあの笑顔で! 「ロイ君ちょっと僕の振りしてリオン撒いてくれないかな? ありがとう頼むね、ついでにこれ軍主命令
」とか言われて断れるか!」
ついでにそんな理由リオンにも言えない。
……情けなさ過ぎる。
「ま、王子のサボり癖は今に始まったことじゃないしね」
「そーなのか?」
「うん、王宮にいた頃も、ちょくちょく抜け出してはいたよ」
「でもリオンが」
王子はサボったりしないと。
ずっとそばについていたリオンが言うのだが。
「あー……あの人は要領良くってねー……」
俺は抜け出し仲間だったから知ってるけど、その他の人はほとんど知らないと思うよ。
「そんなんで軍主やってていいのか……」
「ま、それぐらいじゃないと潰れちゃうでしょ」
でも困ったなー、俺も王子捕獲しないといけないんだよね、いい加減仕事がすごくてさ。
そう言いながらカイルは何かを思案するように顎をなで、ん、そうだと指を鳴らす。
「君でもいいや」
「よくねーし!!」
「じゃあ王子の居場所を教えてくれない?」
「だから! ほんっとうにしらねーっての!!」
じゃあ仕方ないね、君も探してもらわないと。
そう言ったカイルから後ずさって、探すだけだからな! と叫んでロイは身を翻す。
「王子ー! 王子、どこですかー?」
「やいアルファード、出てこい! サボり魔!」
「王子はサボり魔なんかじゃありません!」
「現に今サボってるだろうが!」
「違います、きっと王子なりの息抜きなんですっ」
「っ〜〜〜息抜きならこんなに長時間いなくなるわけないだろー!!」
そんな喧騒から遠く離れて、城の一角でうたた寝をしていたアルファードは、むくりと起き上がった。
「ふあああ……よく寝たー、最近忙しかったしね……よ、っと」
窓の外に下ろしてあるロープを握りそのままするりと器用に壁を伝って降りて、開いている窓から中へ飛び込んだ。
「ルクレティアー」
「はい、こちらに。あそこにある分が片づいていないものですよ」
「助かったよ、自分の仕事部屋じゃ落ち着いてできやしなくて」
にこり、と互いに微笑んだ軍主と軍師は、そのまま自分の仕事に戻る。
「王子ー!! ……まさか誰かにさらわれたんじゃ!」
「あんな奴誰が誘拐するか!」
「王子になんて失礼なことを!」
「お前がだまされてんだよ、あの根性曲がり!」
「ロイ君っ、口を慎みなさい!」
「……少しうるさいですね」
ルクレティアがぽつり呟くのとほぼ同時に、アルファードは立ち上がる。
「終わりましたー、じゃあ僕はこれで」
「はい。また」
上品(?)な彼女の笑顔に見送られ、アルファードは堂々と軍師の部屋の扉を出、そのまますたすたと廊下を歩いていく。
目的地はもちろん、先ほどからうるさい中心部。
「あれ、リオンにロイ、二人でどうしたの?」
「王子! どこに行っていらしたんですか!?」
「どこって、仕事片づけてただけだけど?」
きょとんとした顔をしてから笑みをつくって、アルファードは半分涙目のリオンの頭をなでた。
「ごめんね、探してくれたんだ」
「い、いえ……ちゃんといらしてくれてよかったです」
「ロイも、ありがとうね」
「てっ……たー……くー……〜〜〜〜!」
言いたい事があまりにありすぎたロイは、アルファードの笑みの前に地団太を踏む事しかできなかった。
「ところでリオン……君の仕事はいいの? ミアキスが探していたようだけど」
「あっ! す、すいません王子、すぐに片づけます!」
リオンが慌てて走り去っていくと、アルファードは自分と同じ背丈のロイの肩に手を置いた。
「せっかく一緒にいられるようにしてあげたのに、ちょっとは進展した?」
「するわけねーだろーが!!」
ロイの怒鳴り声が城中にこだました。
***
うちの王子はアルファード。
略称アルフ。
ロイがお気に入りなのか、手ごろなのか知りませんが遊ばれている。
ルクレティアさんとは同類友達。カイルとはサボり仲間です。
とりあえずこんな感じで。