どこか浮かない顔をしているルックを見つけて、シーナは素通りするつもりだった足を止めた。
とはいえ傍から見ればいつもの無表情そのままで、あえていうなら不機嫌の度合いが高く感じられるくらいだ。

そんな状態のルックに声をかける者は、ルックの本質をよく知っている人はありえなく、一般であれば近寄りがたい雰囲気に呑まれてそそくさと立ち去る。
それをせずに声をかけるのは良くも悪くも空気が読めないか余程の兵で、からかい目的で声をかけるシーナはどちらとも言えるしどちらとも言えなかった。

「なにそんな仏頂面してんだ? 広場の真ん中でそんな顔してっと一般人が怖がるだろー」
「あんたには関係な……くもないか」
ぎろりと睨みあげて悪態をつきかけたルックが溜息を吐いたのを見てシーナは目を瞬かせる。
ルックが不機嫌でシーナに関係があるものといえば次の遠征の選抜だろうか。

この間のようにムササビで埋め尽くされたパーティはごめんだなと考えていると、そんな事じゃないよと言われてしまった。
ていうか口に出してないよな。

「あんたの考えられるようなことじゃないだろうしね」
「じゃあ一体なんだってんだよ」
「すぐにわかるよ……ああ、来たね」
ついと顎で示された方向に視線を動かし、シーナは思わず自分の目を疑った。

赤を基調とした服装はこの城の主と同じだが、漆黒の髪と長い棒状の武器、そして頭を包む緑色のバンダナ。
どこぞの知り合いを彷彿とさせる出で立ちに、他人の空似か真似事だと思いたかったが、バンダナの余り部分の片方だけが紫というよくわからないファッションと、何より本人がシーナとルックを見つけた時に浮かべた笑顔にどんぴしゃり本人だと納得した。
それと同時に心の底から思った。

「やっほー久しぶりだねシーナ」
「……なんでいるんだよ、お前」
「三年振りに会った友に対してその科白はないんじゃないの?」
けらけらと笑ってシグールは斜に構えてみせる。
ルックはげんなりとした顔だ、なるほどルックのいう「関係ない」はこういう事か、確かに関係ないわけがなかった。
「ふらっといなくなったと思ったらこんなとこで会うとはなぁ……」
「バナーの村で釣りしてたらそこの風使いとばったり出くわしてね。色々と面白そうだったからついてきた」
「…………」
バナーってトランのすぐ近くじゃねぇか。
いなくなってからの三年間、レパントが必死で探していたというのに灯台元暗しとはこういう事をいうらしい。
シーナもそれなりに心配……はあまりしていなかった、こいつならどうにかやってるだろうとは思っていた、グレミオも一緒にいるとは分かっていたし。

「グレミオさんは一緒じゃねーのか?」
「ん、グレッグミンスターの屋敷においてきた」
「帰ったのか」
「うん。クレオに絞められました」
アハハ、と笑ってはいるがそれなりに反省しているらしい。
ルックが石版にもたれて溜息を吐いた。
「こいつ、用がある時にはセノ自ら迎えに来いって言うんだよ。で、終わったらとっとと屋敷に帰るんだってさ」
「じゃないとグレミオが泣くからさー」
「……比喩になってなさそうなところがグレミオさんだよな」


それにしてもさ、とシグールは視線を周りにやる。
この三人が集まっている光景は傍目にも目立つようで、しかも見慣れない少年が混じっているとなると周囲の視線は殊更目立つ。
しかし中にはシグールの姿を知っている者もおり、驚いたような顔をしてぱっと去っていく姿もちらほら見えた。
知り合いに教えにいくのか、はたまた過去の経験を元にこの場から逃げ出したのか。

「なんか、知り合い多くない?」
「そこそこな」
「まさかあんたまで来るとは思ってなかったけどね」
「フリックとビクトールもいるんだぜ」
「ああうんもう会った。感動の再会を果たしてきたよ」
いい笑顔で言ったシグールの棍の先の金属部分に何か赤い液体のようなものが付着していることにふと気付いて、シーナはそっと視線を外した。
まぁあの二人の生存は、トランの時にいた者達にとっては驚愕の事実であって、それをシグールに知られた時にどんな事態が起こるか大体想像ついていた。
自業自得という事で。

「来て早々に問題起こさないでよ」
「ルックは三年経ってもその態度かわらないよね」
「あんたのその変なバンダナもね」
「お前らそうやってすぐ喧嘩腰になるところはちーとも変わってねーのな……」
「なにそれ、僕らが成長してないって言うの」
「やだやだ自分だけ身長が少し伸びてるからってさ」
「……別にそんなこと言ってねーだろ」
「だったら他も成長してるのか見せてみなよ」
「はっ、望むところだお前らこそ三年前からぶらぶらしてて腕鈍ってねーだろうな」
「それ誰に向かって言ってるの」

シグールが風切り音をさせて棍を持ち直し。
ルックがロッドでとんと床をひとつ突き。
シーナが片足を下げて武器に手をかけて。

広間の視線が集まっていることなど気にもかけずに、三人はにやりと顔を見合わせた。



それが、合図。






<再会の話(2軸)>






***
人様の本拠地を壊さないでください。
シーナが1番再会遅かったら面白いだろうなぁと思って。