「「「足りてないのは、お前だ」」」

三人同時にそう言って。
同時に互いを指差した。

もちろん自分を指差した相手を見て、お互いに顔をしかめる。
お前にだけは言われたくないという意思表明だ。
「なんで僕。シーナこそ人のこと言えるの」
「まったくだなルック」
「流すな。そして僕を指差すのを止めろ」
べしと自分を指差すシグールの手を叩き落して、ルックはシーナを指差していた手も下ろす。
別段反省したとかいう訳ではない、単に手元の菓子をつまむのに必要だったからだ。

「そういうルックだって、俺のどこに人間性が足りないんだ」
「女にルーズなところ」
「それは男の甲斐性だ」

威張るな、とじと目で睨まれてあっはっはとシーナは笑う。
それにはシグールも取り立てて異論がないらしく、フツーじゃない? と綺麗な笑顔でのたまった。
「まあ童貞のルックにはわかんないだろうけどね?」
「……あんた、たまにすっごく殺してもいいかなって気分にさせてくれるあたり軍主の素質を感じるよ」

握り拳と共に呟いたルックの前で両手を頬に当てて、わあ、ほめられちゃった☆ とかほざいたシグールは、念のためと言いたげにもう一度ルックを指差した。
「やっぱルックでしょ」
「……一度死ぬ?」
わきと右手を動かしたルックに、あっはっはと笑ってシグールはおやつのクッキーをつまむ。
なおこれはシーナが出掛けにガメてきたものであり、けして正式に支給してもらったものではない、念のため。

「っつーかルックはなんで俺を指すんだよ、シグールにしろよ」
どう見たって俺よりこっちの方が問題児だろうが、とぐりぐりシグールの眉間に自分の指を突き刺しつつシーナが唇を尖らせる。
それに腕を組んだルックが鼻で笑って返す。
「全体的にないのはどっちも同じだけど、あんたは局所的にもないからね」
「シグールのどこに局所的にあるんだ」
「なきゃ軍主なんてやらせるか」
ナルホド、と唇の動きだけで呟いて、シーナはシグールの眉間を押していた指を離す。
黙ってそれに堪えていたシグールは、指が離れた瞬間に視線をあげるとシーナとばっちり見つめあい、それからにいと笑顔を作る。

はっきり言うが、とっても、怖い。

「やっぱりルックはさ、ちゃんと人を見る目があるよねえ」
「なら僕を指差すのを止めろ」
それはいや、と語尾にハートマークでもついてそうな勢いでシグールは答える。
……きっとついていたのだ、本能的に心が拒否っただけで。
「性格破綻者っていったらダントツでルックでしょ。切裂いたり切裂いたり切裂いたり」
「そういうことをあんたがやらせるからだろ!?」
「ほれみろ、やっぱお前が一番問題児だ」

ニヤニヤ笑うシーナに言われ、いいんだよとシグールは頬を膨らませた。
「僕は軍主様だからね。僕が法律で正義です」
「おいこら横暴モン」
「無償労働してる僕は従う義理はないけどね」
涼しい顔で流したルックだが、シーナはそうも行かないのでクレームを続けた。
「だからって俺やルックを、そこらじゅうの遠征に連れまわすな!」

いいじゃない、と笑顔のシグール様は。
最後のクッキーを頬張って言った。

「仲良くしましょーや、同年代諸君」
「「他にもいるだろ……?」」
まてやこら、と言わんばかりに詰め寄られて、あっはっはとシグールは笑った。
「じゃあかわいげのない同年代諸君」

否定できない。
それは否定できない。

「さて、腹ごなしも済んだしいっちょ運動しますか」
立ち上がってうーんと背筋を伸ばしたシグールの発言に、シーナは自分がくすねてきたクッキーが全部なくなっていることに気がつく。
「おいこら! お前何枚食べたよ!」
「シーナの分も当然のように食べてたね」
平然と横から指摘したルックも、シーナの分を何枚かはくすねているはずだったが。
「上等だ、運動の相手してやろうじゃねぇか……!」
腕まくりをして立ち上がった彼を見上げて、あーあとルックはため息をつく。
「僕はこんな野蛮なのは嫌いなんだけど」
「じゃあ今日の議題の結論はお前で決定だ」
「冗談」

君らだけには言われたくない、と呟いてルックも立ち上がった。









擦り傷だらけの三名を見て、腕組みをしていたフリックが溜息をつく。
「お前ら……何やったらこうなるんだ? よく毎度毎度飽きないな」
「うるさい青い男」
「黙っててブルーボルトサンダー」
「わりーな、青マント」
好き勝手のニックネームで呼ばれ、フリックの頭に血が集まる。
後ろから彼の肩に手を置いてそれをなだめたのはビクトールだった。

「しっかし今回は派手だな。勝ったのは誰だ?」
へへん、という顔でシーナが手を上げる。
どんなもんだい、といわんばかりの顔にビクトールがへえと感嘆の声をあげた。
「すげーじゃねーか」
「まあな」

「ずるいんだよシーナ、男の弱点ゆすってきやがって……」
「男どころか人間の風上にも置けないよね」
ぶつくさ言っている両名をスルーして、シーナは勝者の笑みを浮かべる。
うん、何をしたかは聞かないでおこう。
「で、今回の議題はなんだったんだ?」
フリックよりは事情に詳しいビクトールの質問に、シグールは顔をしかめルックはそっぽを向き、シーナはからっと笑って答えた。


「人間性が足りてないのは誰か」


「……全員だろ?」
思わずビクトールの後ろで呟いてしまったフリックのその後は不明である。








<人間性の話(1軸)>



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楽しかった\( ̄▽ ̄)/