無機質な枠の中に、ひとつひとつあるべき物を嵌めていく。
無秩序に見えるカケラがすべて揃うと、そこにはひとつの壮大な絵が完成する摩訶不思議。
「……僕には無理だなぁ」
げんなりとした様子で見ているシグールに、ジョウイは苦笑しながら手元のピースを指に挟む。
「意外にやるとハマるよ」
「絶対無理。そんなの単調作業じゃないか」
「単調……ではないけど」
青と白の模様のそれは、似たようなピースが並ぶ中に置かれるとパチリと小さな音を立てて見事にはまった。
二個目に取ったピースは最初の場所にはうまくはまらなくて、違う場所を探して三つ隣のところに落ち着く。
「だってうまくはまらなかったらそれはそれでイラっとするし」
「……ああ、その発言は向いてないわ」
「ジョウイのは難しいよ。僕も途中で諦めちゃったもん」
少し離れたところでお気に入りのお茶を飲んでいたセノが笑って言う。
「セノもやったの?」
「もっと簡単なやつですけど」
そう言って壁を示すセノの指を追っていくと、小さな額が飾ってあった。
パズルに熱中するジョウイをほっぽって壁際に寄ると、十センチ四方くらいの額に小さなピースでできた風車の絵が入っている。
赤い屋根の風車小屋と、青い空。周りには揺れる稲穂畑が続いていた。
小さな四角の中に色々な色が入っていて、割とすんなり作れそうだとは思う。
「それなら一時間もあればできるし、模様もわかりやすかったです」
「ふーん」
「シグールさんもよかったらやってみますか?」
「僕はいいや。かえってストレスになりそうだし」
手を振って断るシグールに、ちまちまと進めているジョウイが顔をあげて息を吐いた。
「たしかに、息抜きのつもりでやってるけどかえって煮詰まるとかえってストレスになるよね」
「それ意味なくない?」
「いやぁ、それでもついやっちゃってさ」
息抜きの手段が目的になっていたら意味がなさすぎるが、本人の趣味にあれこれいうつもりはないので適当に返しておくに留める。
「僕はクロスがやってるのを見て始めてみたんだけど、僕にあれは無理だった」
「クロス?」
「あいつおかしい。無色のクリスタルのピースやってるんだ」
「……は?」
「模様も何もなしで、1000ピースくらいあるやつ」
「……それ、どうやって作るの」
「ピースの接着部分の形とかで」
パッチワークとか骨董品の修繕組み立てとかしてたから得意なんだよね、とにこにこ笑いながら、手を止めないクロスは怖かった。
しかもその手元では、無色のピースがみるみる組み立てられていくのだから。
「ルックはどうなの」
「興味なさそうに本読んでましたよ」
「古書の修繕くらいだよな。ルックがやる気になるの」
お茶を飲みにきたジョウイのカップにセノが紅茶を注ぐ。
シグールも続いてお代わりをもらいながら、そりゃそうだ、と笑った。
「――ってことで、今、パズルがプチブームらしいよ」
「そりゃまた……」
戻ったシグールの話を聞いて、テッドは呆れたような表情を浮かべている。
あまり興味を持たないだろうと思っていたが、案の定テッドはパズルに興味はないようだ。
「テッドって細かい作業とか単調作業嫌いだもんね」
「即答されるとちょっといらっとするわ」
新聞を広げて読みながら、テッドはそういえば、と昔のことを思い出す。
「クロスのやつ、昔、似たようなのやってたな」
「へぇ?」
「船だと揺れるから、ピースが細かいのはできないからって。いくつかの木片組み合わせて、いろんな模様とかを作るんだよな」
最初はこの形なんだよ、と見せられた時は、三角や四角の木片が大きな正方形だった。
それがいくらもしないうちに、アルファベットの形になっていくから簡単なんだろうかと思ってやってみたところ、ちっとも分からなかったから、あの頃からクロスはその手のものが得意だったのだろう。
断じてテッドが苦手なわけではない。
「その頃から好きだったんだねぇ……クロス」
「俺からしてみたら、お前もセノも普段書類の穴埋めだの決算のつじつまあわせだのパズルみてーなことやってるなと思うけどな」
ジョウイはよく息抜きにまで頭使う気になるよな。
「……それ、ジョウイに言ったら一発でやめるんじゃないかな」
テッドの呟きに、シグールはそっと黙ってあげておくことにした。そのうち自分で気づくだろう、と。
***
スタンダードに好むのはジョウイとクロスくらいだと思いました。
クロスがやってたのはタングラムのことです。
「テッドもやるといいのに。ボケ防止になるから」
「誰がボケ老人だ!」