※2008年ハロウィン企画。
テドルクです。ついでにオチもありません。
軽いネタのつもりです。
気分を害しそうな方は読まないでください……。
魔術師の塔から見える景色も、そろそろ緑一色から赤と黄色と茶色を交えた斑模様に変わりだした。
風の強い日などは、外に出るに上着がないと辛くなりだして、暑いのも嫌いだが寒いのも嫌いなルックにとっては移動手段が転移術になりだす。
しかしそれも魔力を多少なりとも消費するし、外出はそもそも面倒なので、部屋に引きこもって研究に没頭するか、研究書に目を通すかの日々だ。
今日は朝からクロスの姿が見えなかったが、朝食と一緒に買出しに出かけてくるとメモが残してあった。
時刻はすでに昼を回っていたが、ついでに古物市か何かに寄って夕方まで帰ってこない事もざらにあるから気にはしない。
せいぜい外に干されている洗濯物の処理か……冷えた服を着るのは自分も嫌だから、日が落ちても帰ってこなかったら取り込むだけはしておこうか。
クロスが来るまでに染み付いた主夫思考に溜息を吐く。
一瞬魔術師の塔の周りに張っている結界がゆらいだが、レックナートの転移のせいだと気付いて、ルックは研究書に視線を落とした。
どうせまた気まぐれにどこかに出かけていたのだろう。
数ページ読み進め、思ったより興味深い内容にのめりこもうとしていたところで、盛大に開けられたドアに集中を途切れさせられた。
「Trick or Treat!」
「…………」
「そういうウザイものが来たって目で見ないでクダサイ」
「事実思ってる」
「ひでぇなぁ……」
降って沸いた気配に心底うざったいという意志を込めて見返すと、テッドはわざとらしい泣き真似をしてみせた。
結界に反応はなかった……という事は、先程のレックナートの転移で運ばれてきたのか。
「いやぁ、徒歩で来るには一日かかるからさ、レックナート様に頼んでみた」
「…………」
高級酒で快く引き受けてくれたぜ、と表情をころりと変えるテッドにルックは頭を抱えたくなる。
時々あの人の取る行動がわからない。
このまま転移してここから逃げようかと考えたが、テッドが来たという事は、遠くない内にシグールもやって来るに違いない。
今日が何の日であるかは先程のテッドの言葉で嫌というほど理解してしまった。
過去に逃げて後から酷い目にあった記憶があるので、ここで逃げるわけにはいかない。
もしかしてクロスは事前に知っていて、その用意のために買出しに行ったのか。
仕方なく研究書の読破は諦める事にする。
「……にしても、なんて恰好してるのさ」
「シグールが用意してさ、面白そうだったから便乗してみた」
「自分の年齢考えて着なよそういうものは」
テッドが着ているのは灰色のシャツに黒のマント、子供向けの絵本に出てくるような典型的な吸血鬼の恰好だ。
「ネクロードみたいだよね」
「そういう心を抉ることを言わないでくれ」
心底呆れた様子でルックは呟いて、上着のポケットから小さな包みを取り出してテッドに向けて投げた。
包みはネクロード発言にショックを受けたテッドの額に見事命中し、手のひらに収まる。
片手で額を摩りつつテッドは包みを解いて首を傾げた。
「飴?」
「見てわかるでしょ」
「なんだ用意してたのか。絶対忘れてると思ったのに」
「僕の糖分補給用だよ。頭を使うと糖分がほしくなるんだ」
持っていてよかったと心の底から思う。
こいつらから受ける悪戯なんてとてもじゃないが遠慮する。
ルックがお菓子を用意していると思っていなかったので少々がっかりしつつ、テッドは飴玉を口に放り込む。
ルックも別の包みを取り出して、テッドが受け取ったものとは違う紫色の飴を口に入れた。
「あれ、俺のと違う?」
「同じ味ばっかじゃ飽きるでしょ」
「そりゃそーだ」
「シグールは? アレも一緒に来たんじゃないの?」
「俺達完全にセット扱いされてるな……あいつなら先にフリックとかのところに寄ってたかってくるってさ」
「そ……」
それはご愁傷様。
フリック達も今になって再びハロウィンの襲撃を受けるとは思っていないだろうに。
ちっとも哀れみの篭っていない響きで呟いて、ルックは口の中で飴を転がす。
「ルックはやんねーのか?」
「なにを」
「なにって、「Trick or Treat」って」
「……あんたはお菓子持ってるの」
「いんや?」
首を傾げて当たり前のように告げるテッドに、ルックはまた溜息を吐く。
お菓子を持っていないのに自分から言ってもらいたがる阿呆がどこにいる。
……目の前にいるか。
「……そんなに悪戯されたいわけ」
「ルックにならいっかなーって」
「じゃあ凍らせて湖に浮かべてやろうか」
ざっくり切り捨ててやると、テッドは盛大な溜息を吐いて口を尖らせた。
いつも巻き込まれる形で参加させられているが、もともとイベント事に興味はないのだ。
ないのだが、ここでいつまでも黙ったままで、目の前に拗ねた顔を置かれているのは不愉快だ。
結局いつもの巻き込まれパターンかとうんざりしながらルックは口を開いた。
「Trick or Treat。これで満足? 宣言どおり氷漬けにして湖に流してあげる。それとも吸血鬼らしく胸に杭を打ち込んであげようか?」
「いや、お菓子ならあるし」
「あんたさっき持ってないって言ったじゃ」
ぐいと肩を掴まれて、引き寄せられる。
急な動作に咄嗟にソファについた腕が痛い、が、それを告げる口が塞がれていて声が出ない。
唇の端をつつかれて、舌が侵入してくる。
さっき渡した飴の味が一緒に入ってきて、林檎と葡萄が混ざり合った微妙な味に眉を顰めた。
「あんま美味くないな」
「……一緒に食べるものじゃないだろ」
はふ、と息継ぎの間にテッドはぼそりと呟くのに不機嫌の表情を作って返す。
それもそうだと笑って、テッドはいきなりまだそれなりに残っていた飴をガリガリを噛み砕いてしまった。
「なにしてんの、せっかくあげたってのに」
「ん? だってまだ飴あるし」
葡萄味、と唇を舐めて笑むテッドに、ルックは黙って近づいてくる顔に目を瞑った。
***
テッド「というわけでハロウィン小説でした☆」
ルック「ちょっと待て!!」
テッド「事前投票で、俺らの中で一番受けっぽいのがルックで、攻めっぽいのが俺という結果がでたからそれを元に」
ルック「そういう問題じゃないだろ!?」
テッド「こんなんで騒いでたらもたないぞー?」
ルック「……は? それどういう」
テッド「思い出してみろ、昨年のハロウィンはなにやった」
ルック「……たしかテド坊の話と……請求制の裏……って、ま、さか」
テッド「\( ̄▽ ̄)/」
ルック「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(絶叫」
テッド「安心しろ! 今年は請求制じゃなくて堂々と裏にある!!」
ルック「余計悪いわ!!」
***
最初はキスの予定もなくルックがテッドを翻弄させたあげく氷漬けにする予定でした。
しかしここでそれをやると裏に続かなくなるので断念。
なお、裏はR18ギリギリという感じで、最後までいたしてはいません(オチ有)