<質問>
「テッドさーん」
とたとたと駆け寄ってきたオアシスに、テッドは読みかけていた本を置いてなんだと答える。
笑顔で駆け寄ってきても唯一安心できる相手……とか言うとなんだか自分が不憫だ。
「どうしたセノ」
「シグールさんに問題出されたんですけど」
「うん?」
「考えたんですけど、よくわからなくて」
「うん」
「それで、いっぱい考えたんですけど」
「うん」
それで、あのですね、と言葉を繋ぐセノは一生懸命で可愛らしい。
茶の髪に金輪が透けて、大きいつぶらな目がテッドを見上げている。
……ちょっと前(本人感覚)まではシグールもこんなんだったのになあ。
テッドが遠い方へ意識を飛ばしていると、セノが聞いてくれといわんばかりに服の袖をひく。
「あ、ああ、なんだ? っつーかジョウイには聞いたのか?」
シグールが出した問題なら、ジョウイには分かりそうなもんだが。
「ジョウイは、問題説明しだしたら悲鳴あげてどっかいっちゃって……」
「へ、へえ……」
悲鳴をあげるか。
問題説明で悲鳴をあげるか?
「ど、どんな問題だ?」
頬の筋肉を引き攣らせたテッドが問うと、セノは一字一句を思い出しているのかぽつぽつと話し出した。
「ええっと、シグールさんが十九人いました」
「…………」
想像しちまったじゃねぇか。
そこにいない問題出題者に毒づいて、テッドは「で?」と促す。
さすが三百歳。肝の据わり具合が違う。
――なるほどジョウイなら逃げ出すだろう、思わず想像してしまった図が恐すぎて。
「シグールさん達を、テッドさんとグレミオさんとジョウイで分けることになりました」
「……うん」
「テッドさんは全体の1/2、グレミオさんは1/4、ジョウイは1/5取ることになりました」
「……ああ」
「でも、シグールさんは半分にしたりできないし、でも皆に分けないといけないんです」
「……そうだな」
質問を聞くだけで疲れるってナニゴトだ。
溜息混じりにそうぼやいたテッドは、気を取り直してセノに向かう。
「いいか、まず1/2と1/4と1/5を足してみろ」
「? えーっと……19/20です」
「だろ? つまりそれぞれ分けてるはずなのに、1にならないだろ」
「はい」
つまりだな、とテッドはセノの頭をぽんぽんと叩いた。
「これは意地悪な問題なんだ。最初から1じゃないのに、1/2とか言うだろ」
「はい?」
「なら、ちゃんと分けるには最初は1にしないといけない」
「えっと……つまり、シグールさんを一人増やして二十人のシグールさんを分ければいいんですか」
「……そういうことだ」
わかりました、ありがとうございます! と笑顔で礼を言ったセノに手を振って、テッドは閉じてあった本を手に取り……そのまま膝の上に置いた。
「……二十人のシグール……悪夢だ……」
夢に出そうだと、遠くのジョウイと図らずも同じ言葉を呟いた。
***
風呂の中のネタ。