<慰安旅行 上>
賑やかな音楽が鳴り、人々が行き交うそこは。
「わーいっ!」
「すごーいっ」
「うっわー、きれー」
「でかっ」
「……騒がしい」
「……なぜ」
がっくりと肩を落とした今や完全なる保護者のテッドと、賑やかなのをあまり好まないルックが後ろで眉を顰めているが、残りの四名は生き生きとした顔で振り返る。
誰だ、この面子を現在に飛ばした奴は。
八つ当たっても仕方ないので、テッドはパンフレットを広げた。
「どこから回る?」
「お化け屋敷とか」
「……お前らが怪物だ。手始めにアトラクションとかさ」
「ジェットコースタ」
「あ、賛成」
「…………」
絶叫する人々を乗せている、この遊園地メインのジェットコースターを指差したセノに賛成したシグール。
この二名が同意してしまえば、まずもって逆らえるのはクロスくらいしかいない。
だが、その彼も横で首を縦に振ったので、これは決行らしい。
「平気……か?」
穏やかな湖を滑る小船にすら酔うルックに引き攣った笑みを向けて、テッドは尋ねた。
「…………」
帰ってきたのは案の定、沈黙のみ。
真っ青になって降りたルックは、ベンチに腰かけてぐたりと横に座ったクロスの膝に頭を乗せる。
「ルック……大丈夫?」
降りた直後にたっぷり吐いたルックは、呻きながら小声で答える。
「無理……」
「ごめんね、そんなに弱いなんて思わなくて。回復したら甘いものでも食べようね」
「……ん……」
「というわけだから、僕ら別行動ってことで」
「……そうだね」
「そんなに弱いなんて……ジョウイは平気なのに」
さすがにルックの酔い具合はシグールも異議を唱えられなかったらしく、セノも心配そうに首を傾げる。
船酔いといえばジョウイもするが、こっちは平気だったらしくけろりとしている。
「よし、じゃあ今度はバイキングに……どしたのテッド」
「…………」
「あれ、もしかしてテッドダメ?」
「こういうの苦手ですか?」
「テッドさんにも苦手なものってあったんだ」
「……いい、次は何だ」
少しだけ白い顔でベンチに座っていたテッドが顔を上げると、笑顔でシグールが目的物を指差した。
「アレv」
「…………」
「じゃあねテッド」
「……ぉぅ」
ひらひらと手を振るクロスに見送られ、ふらり立ち上がったテッドは、バイキングへと向かっていった。
「…………」
「テッドさん、真っ青ですよ?」
「やっぱり苦手なんじゃないですか」
「テッドーv こんどはあっちのろーv」
「……お前らを放り出せるか……」
既に義務らしい、保護者テッド君。
青褪めたまま、絶叫マシーンに嬉々として向うシグールの後を追う。
もちろん、シグールは分からずにいるわけ……がない、確信犯だ。
「ちょっ――だめですよ、テッドさん! 休んでないと」
「いや……だけど」
「セノの言うとおりだ、休んでろって」
「けどさ……ん、悪ぃ」
どすっと音を立ててベンチにすわり、苦笑いを浮かべたテッドの方へ、ずかずかと歩いてきたシグールが口を尖らせた。
「何してるのテッド、行くよ」
「……シグール、ちょっと休ませて、」
「ヤダ。来るの」
「俺……あんまり得意じゃな、」
「いこ、ね?」
腕を引っ張ってにっこりスマイル。
その笑顔に、テッドはがくりと項垂れる。
「シグール……」
「さー行こう行こう」
声をかけたジョウイにも無敵な笑顔を向けて、シグールは口笛を吹きながら次のアトラクションへと向かった。
その後、絶叫系以外にも行ったは行ったが、テッドがかなり限界を訴えだした午後。
アレならいいでしょ、アレ終わったら休んでていいからとシグールにねだられ、足を向けた場所は。
「コーヒーカップか……」
見れば、カップルやら親子やらがのほほんと回っている。
これなら平気そうだ。
ほっと息を吐いたテッドは、シグールと共にカップに乗り込んだ。
……はたから見ると野郎二人でコーヒーカップ……気味悪い事この上ない。
ちなみにそのころ、隣のメリーゴーランドにセノとジョウイは乗っていた。
音楽が流れ出し、コーヒーカップが動き出す。
中央のハンドルを回せば回るらしいなと見当をつけたが、テッドが手を伸ばすより先に、シグールががしっとハンドルを掴む。
そして。
超猛スピードで回しだした。
「……回ってるね」
「回ってるね」
眺めていたクロスとルックが漏らす。
明らかに他から浮いて、猛スピードで回っている。
ただでさえ絶叫系でキていたテッドである。
これ以上……というかこれがトドメにならないといいのだが。
楽し気な音楽が終わった瞬間、遠心力のせいで背筋を伸ばして座っていたテッドが、ぐたりとハンドルの上に倒れこむ。
「テッド?」
「…………」
返答のない相手に、シグールはよいしょと手を引くと、ようやっとのろのろと立ち上がった。
……立ち上がったが、クロスたちの側のベンチに倒れこむと、無言でルックが差し出した袋を引っつかんで。
いっきに
吐いた
「だ、大丈夫……?」
「…………」
「テッド?」
「…………」
ぐったりとしたテッドを揺さぶろうとシグールが肩に手をかけるが、その瞬間またテッドが嘔吐する。
「テ……テッド?」
「……うご……くな、たのむ、から」
「視界に動くものがあるだけで苦痛なんだよね」
午前中に盛大に酔ったルックの言葉には重みがあり、クロスはそっと数歩ゆっくりと後ずさる。
ここにはいないほうが賢明、そんな気がした。
「テッド、平気?」
「……から、うごくな、と……」
「ごめん……」
「…………」
しおらしく謝ったシグールは、ごめんね、ともう一度呟く。
「……いいって……俺が不覚だったんだし……」
吐いて少しは回復したらしきテッドが言うと、クロスがそろそろホテルに行こうかと言ったのだが。
「……あれは?」
「……置いていこうか」
メリーゴーランドに十代後半の男が乗って何が楽しいんだろう。
誰もがそう思うに違いないのに、ジョウイは満面の笑顔だった。
……隣にセノがいるってだけなのに。
「……置いてこう」
きっぱりと言って、シグールがメリーゴーランドに背を向けた。
***
唐突に現代。