<情緒派>





欠けて行く月を見上げる、自分には後どれだけの時が残っているだろうかと。
「テッ、ド」
「……クロス」
優しく呟いた彼の腕が回される。
服がごわついて硬いのに、ぬくもりが伝わってきて泣きそうになる。
「僕は、僕は」
「責めるな、お前のせいじゃない」
「だけどっ――!」

行き場の無い何かを堪えるために、強く握られた拳の上に、手袋をとった手をそっと重ねる。

「――クロス」

耳元で呟かれたその声に、頬が上気して、逆に行き場のない感情は収まる。
「お前の仲間は、お前のために戦ってるってわけじゃないんだ」
「けど」
「――いいか、戦えば傷つく、そんなことも知らずにみんな戦ってるわけねぇだろう」

日頃無口な彼が、今日はやけに饒舌で。
その原因を思って、口を開く。

「今日は、やけに喋るね、テッド」
「……お前が静かだからだ」
平素そんなにお喋りなわけでもないと返すと、困ったように眉を寄せる。
それからしばらく、沈黙が落ちて。

僅かな溜息が、項にかかる。

「泣いてた、からだよ」

「っ」

「軍主は、毅然としていつも顔を上げていろ。どんな犠牲が出たって、次の犠牲を最小限に抑えられるように」
「……うん」
「味方が傷ついたのは、死んでないってことだ」
「……うん」
分かったか、と言われて、分かった、と小声で返す。

髪を揺らす夜風が冷たい。
体を無理矢理ひねってテッドの顔を見上げれば、その目はこちらを見ていた。
「……寒くない?」
「戻るか」
「……ううん」
クロスの手が頬に触れる。
冷たいはずなのに、どこか温かくて。

「もうちょっと、このままで」
「――ああ」

流れる髪に口付けて願う。

どうか、もう少しだけこの時間を。















「はい、カット」
ぱんっとシグールが手を叩くと、テッドがクロスから腕を離して立ち上がる。
「お見事ですね」
差し入れの紅茶を持ってきたグレミオが笑う。
「うわーっ、すごいですねー」
「これくらい軽い。なあクロ」
セノの拍手に答えたテッドが、後ろのクロスを得意気に振り返って、首を傾げる。
「…………」
「クロス?」

「……セノ、悪いけど守りの天蓋リクエストしてもいいかな?」
「はーい?」
引きつった顔でクロスが見つめている先には。

「切り裂きっ!!」

「ルックには見せるなって言っただろうがジョウイ!」
「なんで僕にあたるんだ!」
シグールに詰め寄られて、逆切れ状態のジョウイが叫び返した。
「僕の一世一代の台本をどうしてくれるっ!」
「しるかーーーっ!!!」

 

 

 

 

 


***
……ちゃんちゃんv

 

 

 

↓もひとつオマケに

 



<技巧派>





うずくまった軍主に、ルックは声をかけられず、視線だけを向ける。
頭に巻いているバンダナが風にはたはたとたなびいている。

「…………」

何かを言おうと思っても、口には出ない。
先日何が起こったのか、知っているから、何も言えない。

「――……」
「……何?」
「っ」

視線に気付いたのか、顔を上げてシグールがふわと笑う。
その頬には涙も伝ってなくて、ただ瞳が陰っていた。
あまりに痛々しいその様子は、ルックを動揺させるのに十分で。

「な、なにしてんの、さ」
「――物思い?」
かな、と答え、邪魔だったらごめんねと呟く。
それにぶんぶんと慌てて頭を振って、ずかずかと歩いて行くと、一メートルほど離れた場所にどっかと腰を下ろした。
「ルック?」
「……物思い」
「――っぷっ、そう、ありがと」

かすかに笑ったシグールとルックはしばらくそのまま座っていたが、やがてシグールは立ち上がる。
どこへ行くのかと無意識に追うと、こちらへ歩いてきて、目の前に膝をついた。

「……ルック」
細めた目で見つめられ、名前を呼ばれてどくんとルックの心臓が音を立てる。
なに、こいつ、こんな、ふうに。

「――ルック」

ふわりと抱きしめられた彼の腕はかすかに震えていて、合わさった頬は冷たくて。
どれだけ外にいたのかと、思わずそう思って。

「あ、あんた、いつからこんな所にいたのさっ」
「いつからかなぁ……」
「風邪、ひくだろっ」
中に入りなよと焦った口調で言うルックに、シグールは優しく笑う。
「……うん、そうだね」
「…………」

ごめんね、と立ち上がったシグールの後を追いかけて、慌てて立ち上がったルックは、その場を立ち去りそうになっているシグールの手を捕まえて、引っ張った。

「ぼ、僕はここにいるからっ」
「――……」
「僕はいつもここにいるから――その、」

「……うん、ありがとう、ルック」
「――ん」


溶ける様な笑みを残して、シグールはルックに背を向ける。


――僕は、一人なんだ


前日聞いた言葉が蘇って、ルックは思わず離しかけた腕を再び掴む。

「シグールっ――いいから、僕の前なら泣いても、いいからっ」

その言葉に無言でシグールは、さほど背丈の変わらないルックに抱きついた。















「ほい、カット」
テッドの声が響くと、抱きしめあっていた二人はパッと離れた。
「うあぁぁ、お、おぞましぃ……」
「よく言うよ、ノリノリだったくせに」
呆れ顔のシグールに、鳥肌を立てていたルックはふるふると頭を振った。

「自己暗示かけた」
「なんて」
「僕はササライ僕はササライ僕はササライ」
「……あそう」

そんなに僕相手はいやなのかなーと思いながらギャラリーを見ると、ジョウイが真っ青笑顔で硬直していた。

「テッド」
「ん?」
脚本書いたテッドに、シグールは満面の笑みを向ける。
「あそこの金髪君はなんで固まってるの?」
「……お前らの真面目な愛の語らい? が死ぬほど気持ち悪いってもらしてた」

テッドが言い終えるのとほぼ同時に、魔法を既に展開しかけた坊ちゃんと魔法使いが、いまだ行動不能な彼の方へと向かっていった。
 

 

 


***
オチはジョウイで。