それは他愛ない子供の夢
叶うはずもないその夢を
大人は否定せず優しく包む
無邪気な夢はそれだけで愛しい





<未来の夢>





――ルック編――

何をばかな事を聞くんだと言いたげな幼い瞳に、レックナートは苦笑する。
子供に聞くにしては適切な質問だったのだろうけど、この子供の場合は成長過程が特殊すぎてダメだったのかもしれない。

「ゆめ……」

呆然と呟いた朱色の唇は、しばらく前までは声らしき声を紡がなかった。
青ざめていた頬にもだいぶ赤みが宿り、細い四肢も年相応に動くようになった。

「ありませんよそんなもの」
「そう言わずもっとよく考えなさい」
「……夢って、よく考えて出すものなんですか」

いいから考えなさいと重ねて言われ、ルックは並べてある意味不明の調度品にはたきをかけながら考える。
レックナートに問われた質問は、今まで考えた事がなくて。
心に常にあった望み、それはついこの間この人がいとも簡単に叶えてしまった。

「あの部屋の外に出るのが、夢でした」
「今は?」
「……だから今はないです」
「それではいけません、もっとよく考えなさい」

だからないんだって。
呆れ果てたが、返事をちゃんとしないとレックナートはいつまでもしつこく尋ねるだろう。
適当にそれらしいことでも言ってしまおうか。

「ちゃんと答えなさい」

……読まれてる。
四方塞がりになったルックは、はたきをかける手も止めて、真剣な顔で考え込んだ。
夢。
将来の夢。
大きくなったらしたい事……。



大きくなったら、ではないけれど、いつかしたい事ならあった。

「……ササライに、会いたい」
自分と同じ存在だという彼。
自分とは違う「成功作品」の彼。
ササライはどう思っているのだろう、自らの境遇について。

「それだけですか?」


見透かされているようで、ルックはしばし俯いた。
こんな事を言うと、この女性は笑う気がして。

「……いつか、でいいから」
胸元を握りしめる、そこに紋章が埋まっているわけではないのだけど。
「ボクを」

この力と、ボクの存在そのものを。

「みとめてくれる人に、会いたい」



それは、子供の語彙では出てこなかった言葉。
「みとめる」の本当の意味を汲み取って、レックナートは微笑んだ。


どうかこの風の寵児が、彼を受け入れてくれる人達と出会えるように。










――ジョウイ編――

「まってぇ〜」
ほとんど泣きそうな顔でおぼつかない足取りで追いすがるセノに気付き、ジョウイは慌てて足取りを緩める。
対してナナミはそのまま走っていってしまい、ななみーとべそをかきだしたセノを抱きとめて、ジョウイは労わりの言葉をかけた。

「セノ、だいじょうぶ?」
「じょうい……いたいよぉ」
膝小僧が擦り剥けていて、ジョウイはそっとセノの髪を撫でる。
「いたいのいたいのとんでいけー……ほら、もういたくないだろ?」
「うん」
浮かんだ涙を拭ってやって、さあいこうと言った彼の手を掴んで、セノはようやっと立ち上がる。

手当をしなきゃね、と遅れて家に戻ったジョウイとセノに、先に戻っていたナナミが飛びついた。
「おそかったじゃない、しんぱいした……きゃーっ、セノどうしたのっ!?」
「ころんだー」
「いたかったでしょー泣かない泣かない」
「うん、なかない……」
ナナミにえらいねーと褒められまた泣きそうになっているセノに、包帯と水を取ってきたジョウイが椅子に座るように促した。

「いたいーやだー」
「そんなにいたくしないから。ね、セノ」
「……ほんとに?」
「ほんとに」
「じょうい、いたくしない?」
「うん」

涙目で必死に痛みを堪えるセノの傷の手当をして、泣きつかれた彼を休ませていると、気落ちした様子のナナミがジョウイの隣に座った。

「ナナミ?」
「セノのケガって、ナナミの、せいなの?」
「ころんだだけだよ?」
「でも、ナナミが走らなかったら、セノは、ケガ、しなかった?」
泣きそうな幼馴染に、ジョウイは慌てて違うってばと言葉を続ける。
ほんと? と再度尋ねられて、本当に、と強調して返した。

ジョウイは、セノの王子さまみたいだね。
涙を拭って笑ったナナミは、傍らに眠る弟を優しく見つめる。
いきなりずれた話をされて、返答ができないジョウイに繰り返した。

「いつでも守ってくれてるの、ピンチの時は助けにくるでしょ、王子さまみたいだね」
「そ、そう?」
王子さまも、嫌じゃないけどさと呟いたジョウイに、じゃあなにがいいの? とナナミは問う。

「王子さまってすっごくえらくなきゃなれないし……ふつうにだんなさんがいいな」
「だんなさん? じゃあセノはおよめさんかぁ、ステキだね」
「でしょ? そしたらぼくとナナミも兄弟だしね」
「いいねー、みんな兄弟だねー」

ふわふわと春の木漏れ日が心地良いある日。
「おや……寝てしまったか」
セノの部屋を覗いたゲンカクが見たのは、並んで眠る三人だった。










――セノ編――

近所に人形劇の一団が来ているとかで、ゲンカクに連れられてセノ、ナナミ、ジョウイの三人は人形劇を見に来ていた。
話が終わり、子供達は興奮気味に会話をしながら帰っていくのに、セノだけがじっと立ち止まって動かない。

「セノ?」
「セノ、かえるよー?」

左右からジョウイとナナミに顔を覗き込まれたセノは、パシパシと瞬きをして、生返事を返す。

「セノ」
「……ジョウイ」
見上げてきたセノに、なあにとジョウイは返す。
「今のは、人形さんがうごいてたの? それとも後ろの人がうごかしてたの?」
「後ろの人だよ」
「人形さんは、自分でうごきたくないのかな? 糸にひっぱられてうごくのは、いやじゃないのかな?」
ナナミはどう思う? と聞かれて、姉は笑う。
「あのねーセノ。人形さんは自分で動けないのよー。だから動かしてもらうの」
「そう、なん、だ」

納得しかねているような表情だったが、頷いて、セノはジョウイとナナミの手を握る。
なんでそんなこと思ったの、とジョウイに聞かれると、セノはあのね、と答える。
「ぼくは、糸でうごいてるのかな、と思って」
「セノは糸でうごいてないよー」
「じゃあ、ぼくはなんでうごいてるの?」

んんん?? となってしまったナナミに変わって、ジョウイが優しくセノと繋ぐ手を揺らして答える。
「セノは、セノが動かしてるんだよ」
「ジョウイは、ジョウイがうごかしてるの?」
「そうだよ」

「じゃあ、人形さんは、自分でうごきたくないのかな」

ぼくが人形さんだったら、自分でうごけなくても、うごきたいと思うのに。


しばらくそうやって考えていたセノは、あのねあのね、と先を行く二人に話しかける。


「ぼくは、人形さんが、自分でうごけるようにしたいんだ」
「え?」
「だって、自分でうごきたいのに、うごけないのって、いやだよね」

セノはやさしいなあとジョウイが笑い、きっとできるよとナナミも言った。

「やりたいのに、できないって、いやだよね」
「そうだね」
「ジョウイも、したいこと、ある?」

「うん、でもそれは、まだ先でいいからね」

帰ろうね、と柔らかく微笑んだ幼馴染の手をぎゅっと握って、満面の笑みをセノは浮かべた。

 

 

 

 


***
問題児六人組の年少(?)三人。
年長組は「叶わなかった夢」年少組は「叶った夢」でお届けしました。

最後のセノのは、デュナン統一と言う形で果たされたのでは、ないでしょうか。
(ちなみにジョウイだけやたらあれな夢ですがなにもいうまい)