現在この状況です。


セノ→テッド
テッド→シグール
シグール→セノ
ジョウイ→クロス
クロス→ジョウイ






「はい、あーんv」
午後三時のティータイム。
おいしい?と尋ねるセノに、ジョウイがうんと幸せそうに頷いて。
そんな甘い空気をかもし出す二人以外の顔は、一様に暗かった。
「地獄……」
「嬉しい……んだけど、嬉しいはずなんだけど」
「仲いいですねー」
「……セノ、お前って凄いのな」
ぐったりとした表情でテッドが言う。

なぜなら外見はセノとジョウイだが、実のところ中に入っているのはシグールとクロスなのだ。

あれから三日。
五人はまだ入れ替わったままだった。

 



「シグール、クロス、お前ら少し自重しろ」
シグールに入っているテッドが、顔を引き攣らせながら言う。
薬の効果は思った以上に強力だったらしく、いつ元に戻れるか分からない状況なのだが、この二人がとうとう状況を楽しみだした。
中身が中身だけに非常に胃と精神によろしくない。

体の持ち主である二人はどうかというと、セノは普通にしているが、ジョウイは机に伏せて先程から動かない。
日頃できない事をやってのけている二人を恨めしく思っているのか、中身を考えてしまって拒絶反応を起こしたか。
シグールとクロスがジョウイをからかって遊ぶのは日常茶飯事で、これもジョウイ遊びの一環なのだろうからそれはいいとして。

それよりも、とテッドは目線だけをジョウイの隣に座っているルックに向けた。
無表情のままカップを傾けているルックだが、あれは確実に怒っている。
その証拠に、ソーサーに置いたカップを握る手が小刻みに震えていた。

隣で突っ伏している外見クロスのミスマッチさに怒っているのか目の前で繰り広げられている『遊び』が面白くないのか知れないが、一人だけ難を逃れたために微妙に当事者から外れている彼が、実は一番不幸なのかもしれない。
冷静に状況を眺められる立場にいるから、尚更。


どこまで保つかと思っていたら、がたんとルックが席を立った。
意外に大きな音に、いちゃついていたシグールとクロス(外見セノとジョウイ)が驚いたように視線を向ける。
「ルック?」
クロスの呼びかけに応えず、ルックはすたすたと歩いていく。
ああこれは閉じこもるかなと呑気に思っていたテッドは、いきなり腕を掴まれて目を瞬かせた。
「行こう」
ぐいと引っ張られる。

そのまま部屋の外へ引き摺られていきながら、振り向きもしないルックに溜息をひとつ吐いて、テッドはクロスを睨みつけた。
ふざけすぎだ、馬鹿。



バタンと渾身の力で閉められた扉の音と同時にクロスが立ち上がって、ばたばたと部屋を出て行く。
その様子を見送って、シグールがつまらなさそうに呟いた。
「行っちゃったー」
ま、そろそろ飽きたしいっか、とシグールは額を飾る金冠を弄る。
「シグールさんは行かなくていいんですか?」
「だって僕の方はほら」
戻ってくるからと部屋の入口を指差すと、タイミングを計ったようにテッドが入ってきた。

疲れたように溜息を吐きながら、先程までクロスが座っていた席に腰かける。
「はい、テッド」
「サンキュ」
渡されたお茶を飲み干して一息吐いてから、やれやれと言ったように肩を竦めて横目でシグールを睥睨した。
「お前ら少し遊びすぎだ」
ジョウイはともかくルックは尾を引くんだからな。

「どうせ僕はすぐに立ち直りますよ……」
顔を伏せたままいじいじと呟くジョウイinクロス。
いい加減慣れたいものだがやはり怖かった。










かちゃりと部屋のドアを開けると、ルックは一人机に向かって本と対峙していた。
普段無断で入ろうとすると文句を言ってくるのに振り向きもしない態度に苦笑して、クロスは名前を呼ぶ。
「るーっくん」
「その声で呼ぶな」
拗ねた様子にクロスは笑みを濃くする。
本当は抱きしめてキスのひとつでもしたいのだが、ジョウイの体なのでそれもできない。
一度やってみたらルックに物凄く嫌がられた。
というか本で殴られた。

ついでに言うなら、いくら中身が自分でもジョウイの体でルックに触れるのはあまりいい気分になれないのでそれ以来ろくに触れもしてないのだが、それはやはりつまらなくて。
ジョウイで遊ぶ兼八つ当たりでシグールといちゃついてみたら、それが裏目に出たらしかった。

仕方ないのでドアに凭れかかってルックの後姿を眺める。
紙の擦れる音とランプの油が焦げる音だけがしばらく続き。

「……なるべく早く解毒剤作るから」
「うん」
「そしたら、」
「うん」
途中で途切れた言葉の続きを読み取って、クロスは嬉しそうに笑った。









***
最近ルックが可愛くなってきたっていうか、クロスがいないとちゃんと無愛想なんですよ(それもどうかと