<日常と友人:4ルク編>





だるーっとした身体を持て余していたルックは部屋から出てくる。
体がだるいのは明らかに昨夜のせいで。
そうだ、責任とって紅茶でも淹れてもらって、それ飲みながらゆっくり読書でもして、それからセラの勉強をちょっと見て、昼を食べたらたまにはクロスにセラと……。

今日の予定を考えつつダイニングへと向かう。
台所が隣にあるせいで、クロスの出現率が一番高いスペースだ。
レックナートの出現率もセラの出現率も高いが。

「やほー」
「……なに、してんの」

ドアを開けるとそこにいたのは知り合い。
あくまで知り合いで腐れ縁であり友人ではない。

「暇だから遊びにきちゃった☆」
……黒い悪魔の出現率も高かった。

「……帰れ」
一刀両断にシグールを切り捨てたルックだったが、そんな事でめげる坊ちゃんではない、残念な事に。
「ルックはここの主人じゃないからそんなこと言う権利ないでしょー?」
「…………」
「いや、そんな目で俺を見られても……」
ルックに睨まれたテッドが苦笑して両手を上げる。
「お茶はいったよ〜」
頼みの綱のテッドに降参ポーズをとられたルックは、勢い苛立ちを全て呑気な声でお茶を運んできた人物へと向けようと口を開いた。
「あれ、ルックひょっとして今まで寝てたの? 髪、跳ねてるよ」
客(?)の前にお茶一式を置いてルックの方に手を伸ばしたクロスは、やや下の方で跳ねている一房の髪をそっと撫でて微笑む。
「はい、なおった」
丁度耳の辺りを数回撫でつけて癖を直すと、ルックはふいと顔を背ける。
おや、と思ったクロスはその顔を覗き込んだ。

「ルック?」
「……ろ……か」
「え?」
「クロスのバカっ」
「え!?」

くるりと踵を返してだだだだだと走っていってしまったルックを呆然と見送っていたクロスに、後ろから適当な野次が飛ぶ。
「なっかせたー」
「そりゃーなー、あんなことされれば泣くわなー」
「ルックもしばらく見ないうちにかわいくなっちゃって」
「……いや、なんかお前その口調微妙」
「え、お母さんな感じ」
「ああ」
「テッドお父さんな感じで。どうですか娘が嫁に行く気分」
「……お父さんかよ……っつーか追えよクロス」

「ぼ……僕、なにか、した?」
本当に分からないのか、パニックになった時の常で無表情で振り返ったクロスに、テッドははあと溜息を吐いた。
「無意識か……」
「だからっ、僕なにかしたっ!?」
「クロス、ルックにやさしくしたでしょー?」
「は?」
紅茶を飲みながらにっこりとシグールは微笑んだ。
「それでね、ときめいちゃったんだよねルック。それが僕らの前だったもんで恥ずかしくて逃げ出した」
「…………」
「初々しいねぇ」
「ホント近所のお節介おばさんだなお前」
冷静なテッドのツッコミに、そんなことナイヨと微妙なイントネーションで返しておいて、ケラケラ笑うシグールの声など耳に入らず、クロスは急いで上階へと向かった。










「ルックっ」
自室の扉を開けると、そこにはベッドの上に座っているルックがいた。
「……ルック」
後ろを向けているが、日光にきらきらと透ける髪の間から垣間見える耳も首も赤い。
「ごめんね?」
「クロスのバカっ」
「うわ」
いきなり投げつけられた枕攻撃を回避し、ぱふんと床に落ちたそれを拾ってはたく。
ぱんぱんと数回はたいてから、クロスはそれを抱えてルックと背中合わせにベッドに座った。
「ルーック」
呟くように名前を呼べば、合わせた背中がかすかに動く。
「落ち着いた?」
「……っ」

「ごめんね」
「別にっ、謝ることじゃっ」
「うん、でも怒らせちゃったみたいだし」
枕を横に放って、クロスは体の向きを変えるとルックを後ろから抱きしめる。
「僕が謝ってルックの機嫌が直るなら、それでいいし」
「……バカ」
「いいんですー僕はルックバカだから」

ふざけた口調でそう言って、後ろから頬にキスすると、軽く頭を振るが嫌がっているようではない。
「どーしたの、ルック」
「……自分に、あきれてた、だけ」
「ん?」
優しく促すクロスの体温に身をゆだねて、ルックは目を瞑る。
「たまにはセラやクロスとゆっくりしようと思ってて……その矢先にあれだったか……それで嫌な気分になって……でも」

少し腕の力を緩めてクロスはルックの顔を覗き込む。
穏やかな顔をして目を瞑るルックは、まるで人形のようだった。

「……クロス」
「なに?」
ルックは目を開き、ふわりと花開くように微笑んだ。
「午後は、外出たい」
「いいよ? あの二人は午前中で叩き帰す?」
「いっしょで、いい」

くすりと笑ってクロスは了承の返事を返す。
強く自分を抱きしめる体に凭れかかって、ルックは回されたクロスの腕に手を添えた。
 
 

 




***
なんとなく書いてみました4ルク編です。
え、4ルク編って事は他もあるのかって?